第53話 解体屋へGO BACK
おれたちはふたたび解体屋に来ていた。
これまでになく大量の魔物を仕留めたので、少しは買取額にも期待が持てるかもしれない。
店に入ると、カリフラワーヘアの店主が笑顔で迎えてくれた。
あれだけ卸したのだから、すでに上客のように思われているのかな。
「今回ご持参いただいたお品の清算がすみました」
となりでは作業着を着た若い従業員が好奇の目を向けている。
よほど人間っぽいおれたちの姿が珍しいんだろうね。
しかもわりとレアな魔物も仕留めてるからか、どこか敬意もにじみ出てる感がある。
「ではさっそく内訳ですが」
そして店主のオヤジさんは説明を始めた。
「まずマラダイスボアが1体で銀貨5枚なので、4体合わせて20枚です。次にメリケンブルが2体で銀貨18枚。この肉は高級ですからね」
ふーん、そういうものなんだね。
「そして次がコカドリーユですね。これは爪の状態がよかったこともあり、12枚です」
「爪は何になるんですか?」
「魔道具の原料や、あとはあれだね······」
ちょっと口ごもるオヤジさん。
「媚薬ですよ」と代わりに若い従業員がサラッと答えた。
なんだかふたりの性格が垣間見えるね。
「媚薬ってだれがどのように使うのかしら?」
シャムりんがそう言いながら腰をクニャッとさせるのだから、今度は若い従業員がギョッとなった。
「まあ、いろいろです」と返答もどこかしどろもどろだ。
ただでさえ人間の姿が珍しいのに、露出の多い格好のシャムりんを見たら、若い人じゃなくても動揺しちゃうよね。
主人なんてシャムりんが近づくたびに、学校にある銅像みたいにからだが固くなってるのがわかるし。
嗅商王国は比較的自由な格好をしていた印象だけど、今のところタンニシでは露出が目立つ格好は見てないから、あるいはなるべく肌をさらさないといった文化もあるのかもしれない。
そしてオヤジさんは少し間を置いてから言った。
「それとAランクのブレキンリリは1体で銀貨50枚です」
「エッ」
つい声がもれてしまった。
「すみません、もっと期待するお気持ちはわかるのですが、我々としてもこれくらいしか出せないんですよ」
いやいや、その逆ですぞ。
まさかそんなに値が跳ねるとは思わなかったよ。
「いえ、だいじょうぶです」と答えておいたが、ところがどっこいさすがはAランク。
その価値も明らかに頭一つ抜けてるみたいだな。
そしてヘルシボブは爪も皮も内臓の状態もよかったので2体で16枚で、デンパリザードは1体で10枚になった。
デンパリザードの目玉は魔道具の素材になるそうだ。
そこで若い兄ちゃんが口を開く。
「ヘルシボブの肉は香辛料との相性がよいですもんね」
「ふん、わかったような口をたたくじゃねえか。まあでも、香草で包んでじっくり焼けば、この上ない味が楽しめるからな」
若い従業員をからかいながらも、オヤジさんは食の話に口元をほころばせている。
その後もあれこれと味つけ談義を続けるふたり。
さすがは味覚を重んじる国といったところなのか。
食べ物の話になると、客の存在も忘れてしまうらしい。
そこでオヤジさんはパッとおれたちのほうを見て言った。
「我々にとって味覚とは、揺るぎなく神聖なものなのです!」
あたかも〝1辺が10メートルの正方形の面積は1アールと言います〟みたいなキッパリとした口調だ。
あいあい、味覚があなた方にとって大切なのはわかりました。
誰にでも大切にしているものってありますもんね。
そしてブレキンリリの話になった。
どうやらAランクのこの魔物は格がちがうようだ。
タンニシでもめったに獲れない特異個体らしく、肉体に宿った魔波も他より抜きん出て多く、すべての部位が高級品として扱われるとのこと。
ブレキンリリの皮で作った服を着てれば、それだけで生活水準の高さを想像できるらしい。
そのためタンニシでは、ブレキンリリ狙いでチームを組んで活動する狩猟者もいるのだとか。
それだけ仕留めるのがむずかしく、手にしたときの上がりが大きいというわけだ。
なんだか良質な巨大マグロを追うみたいな感じだな。
この魔物、顔は強烈にブサイクだけど、その醜さが価値になっているのだからおもしろいよね。
「それで魔感石はすべてお持ち帰りになられるとのことで、こちらにまとめておきました」
木のトレイにはビー玉ほどの石がいくつも並んである。
若草色がヘルシボブのもので、Aランクのブレキンリリのものは藤色で独特のオーラを放っている。
「ということで、今回の買取分の合計は、解体作業費と事務手数料を差し引いて、銀貨110枚となります。魔感石も売ってもらえれば、その倍近くにはなったのですが」
えっ、ひゃ、110枚?
聞き間違いじゃないよね?
「どの品も質が良かったので、すぐに買取手が決まりましたよ。こういった商売は水物ですが、今回大量に卸してもらいましたので、ちっとばかり色をつけておきました」とオヤジさんはホクホク顔を覗かせた。
おれたちはしっかり稼ぎ、このお店も潤ったのなら、言うことなしだね。
なんだかいいことをしたみたいな気分になるよ。
ただ魔物とはいえ命をいただいたのだから、そこは浮かれず謙虚でいないとね。
おそらく高ランクの魔物は市場に出回るのが早く、経済を動かすのだろう。
ちなみにメリケンブルの骨は加工して防御性の高い武道具になるようで、マラダイスボアの目は大量の魔波が宿っているため、魔道具屋へ流れることが多いのだとか。
そこでオヤジさんが、ドサッと麻袋を置いた。
「これだけ良質な品をさばいたのは、この店でも久しぶりですよ」
オヤジさんの話によると、南のほうに狩り場があるらしいが、最近は凶暴な魔物が多く出没するらしく犠牲者が多かったため、国によって一時期は立ち入りが禁止されていたのだとか。
「その狩り場はここからどれくらい離れているんですか?」
「歩いて半日くらいかな」
うーん、けっこうだな。
この世界の半日がどれくらいか、なんとなくの感覚でしかわからんが、たぶんだいぶ遠いんだろう。
きっと狩り場は野心のある冒険者が集う梁山泊なのかなと興味が湧いたが、これは忘れたほうがよさそうだ。
では麻袋を持ってと。
背中に届いた「またのお越しをお待ちしております」という声もだいぶ明るい。
解体屋を出るとチャウ丸が言った。
「いやあ、なかなかの値がついたな。魔感石も売っておいたほうがよかったんじゃねえか?」
「でももっと能力あげたいでしょ? 石で力をつければいろんな魔物を仕留めることができて、さらにお金も入ることになるわ」
さすがはシャムりん。
朝三暮四にならず、先まで見すえることは大事だよね。
そしておれたちは所持金を整理してみることにした。
これまでさほどカネを使わなかったこともあり、もともとあったヤメー320枚とタンニシ銀貨114枚で、合わせて日本円で66万円ほどになった。
おお、これはかなりの額だよね?
たぶん当分、お金の心配はしなくていいんじゃないかな。
イヌの頃はお金のことなんて考えたこともなかったが、ジーコの経験値から言っても、これはなかなかの額だと感覚としてわかる。
そりゃ高校生にすればそうなるのかな。
もし地球でそんな大金を自由に使えるなら、ビーフジャーキーと噛み噛み玩具を買いまくるぜ。
て、イヌの姿じゃ店先で門前払いだけどさ。
「質屋の分でも、わりと入るんじゃないか」
「だったらもっとお買い物できるわね」
「魔道具屋のことも気になるから、質屋に預けた修理品を回収するついでに行ってみるか」
そろそろキングと合流したいところだが、やっぱりはじめて来た国の文化に触れるのはおもしろい。
とくにこのあたりは屋台がずらりと並んでて、醤油ベースのタレがからんだような香ばしい香りがぷ〜んと届いてくる。
通りの看板には
「本日のイチオシ:外はカリッと中はジューシー、魔肉の香草ステーキ」
と書かれてある。
おれの足はそのまま煙のほうへふらりと向かいそうになるも、チャウ丸とシャムりんは目もくれずに急ぎ足。
ねえ、ふたりとも食べるの好きって言ってたじゃない?
あー、早く美味しいもの、食べたいなあ。
ま、このあと、さらに異世界ならではの品にお目にかかれるかもね。
お読みいただき感謝でございます。




