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第52話 服屋でショッピング♪

 タンニシの街はさまざまな店があって、見ているだけでおもしろい。

 街を行き交う民は、うまそうな匂いがするほうへ向かっているのがわかる。

 たしかに路上で鍋から立ちのぼる湯気や、コーヒーを運ぶ物売りの姿も見えるからね。

 鼻先に届いてくるスープのいい香りが、食欲をこれでもかってほど刺激してくる。


「なんか食べない?」と提案したが、シャムりんの頭の中はすでに色鮮やかなお洋服で埋まってるみたいだ。

 タンニシ王国ならではの美味に触れて、旅の疲れを癒したいところだけどね。

 

 そしてシャムりんの要望どおり、おれたちは服屋へ。

 

「おれはこのままでいいけどな」

 

 チャウ丸は袖なし革ジャンをずいぶん気に入ってる様子だ。

 

 ずっと見てたら、その格好も見慣れてきたな。

 むしろチャウ丸は腕も太いし、よく似合ってる。

 

 シャムりんは黒のレオタードが映えてるが、ほかのものも試してみたいのだろう。 

 目がキラキラしてるからね。

  

 おれはここいらで「ちんねんティーシャツ」とお別れさせてもらおっかな。

 この街を歩いているあいだも、けっこうジロジロ、シャツの絵柄を見られてたもんな。


「いらっしゃい」


 店のあるじはまず人間っぽいおれたちの姿に目を開き、そのまま目をおれの服に向けた。


〝ちんねん?〟とでも思っているのかもしれない。


 隠したいけど、まあ気にせんとこう。


 ここには日本の古着屋さんみたいに、いろんな服がハンガーがけで並んでいる。

 どれも生地は柔らかめで、ヤメーメの服屋と比較しても質がいいのがわかる。

 シャムりんはさっそくいろんな服を品定め。

 やっぱり女子は服を見るとテンションが上がるみたいだね。

 

 そこで彼女が言った。

「ねえタタロオ、海賊漫画みたいな服、知ってる? えーっと、ワンピー······ほら、女子が着るかわいい服。あれ、探してるんだけど」

 

 あーはいはい、あるよね。

 おれがタイトルを告げると「ああ、それっ!」とシャムりんは人差し指を伸ばし、一緒に探してあげる。

 ドロップ品を売ってお金も入ったし、よさげなものがあれば、おれも何かゲットしようかな。


  こっちの世界に来て一度も寒さを感じたことはないが、薄い長袖が一着あってもいいかもしれない。

 人間の姿になったおれの体感とジーコの知識だと、ここタンニシの気温は、日本の初夏くらいだと思われる。

 ただ、この国はわりと格好にはお固いのか、シャツはどれも似たようなものが多い。 


 すると店のあるじが近づいてきた。

 やはりこのおっさんも獣人顔で、その顔は日焼けしすぎた学校のカーテンみたいな色をしている。


「こちらのシャツはすべて天然素材を用いたものなので、肌触りもよくオススメですよ」


 説明によると、タンニシの東側には綿花の栽培地帯があり、街には機織りの職人も多くいるのだとか。

 たしか綿花は寒いところは向かず、それなりの降水量も必要だったはずだから、タンニシはわりと温かい気候なのかもしれない。

 

 ということで、おれは比較的カジュアルなネイビー系のシャツを見ていく。

 ふーん、わりと派手めな服も置いてあるんだな。

 

 チャウ丸はあいかわらずゴツゴツした皮製のものを物色しているようだ。

 かなり短い黒皮のホットパンツをにぎってるが、あれ履いたらポロッとはみ出ちゃうんじゃないか?

 

 ただ、いま履いてるオレンジ色の短パンも、戦闘でけっこう傷んできてるもんね。

 

 あるじが話しかけてきて服選びに集中しづらかったが、どうやらお話好きらしい。


「そうですか、ヤメーメといえば、今もバラエティ豊かな服が流行っているのですか?」

「まあ、そうですね」


 なんせコスプレ村だもんね。

 たしかにバラエティ豊かではある。


 あるじはヤメーメに行ったことがないとのこと。

 というより、ヤメーメがどこにあるのかも知らないらしい。

 

 ただ以前は相容れない関係で交戦もしていたわけだから、何かしら両国が接触する場所はあったはず。

 たとえばおれたちが通ってきた地底とかでやり合ってたりしたのかな。

 大昔は海を通じた交流もあったとキングは言ってたことからも、海が遮断される前は行き来しやすかったのかもしれない。

 

 まあこれも推測であって、おれもこの大陸のことは寡聞にして存じ上げんがね。

 いずれにせよ、タンニシでも他国への行き方を把握している者はかなり限られているのだろう。


 そこでシャムりんから声が届いた。

「あたしはこれで決まりかな」


 その手にはフリル付きのミニスカート。

 海賊漫画ふうの名前の服はけっきょくなかったみたいだね。

 すでに足元はスカルの模様が入ったブーツが履かれてある。


「それは魔物の皮をもとに魔道具屋へ誂えた【キャットヒール】ですね。さすがはオシャレなヤメーメのお方、お目が高い」


 おじさん、褒め上手ですね。

 シャムりんもうれしそうな表情だ。

 しかもブーツの名前もシャムりんにピッタリじゃん。


 ヤメーメがオシャレなのかは知らないけど、説明によるとわずかに魔波を含んだ靴らしい。

 その分、多少値が張るみたいだが、チャウ丸は「かまへんよ」と気前がいい。


 とそこで、服屋のあるじがおれの服について触れてきた。

「こちらの服もヤメーメ産ですか?」


 これはヤメーメの服屋のオリジナルデザインだと説明。


 するとあるじは「ちょっといいですか」と言いながら顔を近づけ、「これはもしや······」と神妙そうにつぶやいた。


「えっ、なんですか?」

 なんか怖いんですけど。


「どうやらかなりの魔波が宿ってるみたいですね」

「そうなんですか?」


 そいつは知らなかった。

 なぜだ、いつの間に?


「しかもあなた様のからだとすでに力が連動しているようなので、手放さないほうがよろしいですよ」


 なぜそんなことがわかるのだろうと思ってたら、おれの考えを察したようにあるじが言った。


「いえじつは、わたしは以前、魔道具屋もやっておりましたので、そういったことにも通じておるんです」とのこと。


「だったらタタロオ、その服は大事にしないとな」

「だいじょうぶよ、似合ってるから」


 うーん、ずっとこれを着続けるってこと?

 なんだか楽しみにしてて開いた弁当が、ハードな寄り弁になってたような気分だよ(ジーコ、そうなのか?)。


 せっかく服を新調しようと思ってたのに、これだと買いづらくなるな。 

 あるじはわざわざ教えてくれたということは、よほど人がいいのだろう。

 教えればそれだけ服を買いづらくなるわけだからね。


 じっさい、おれは服を買わないことに。 

 チャウ丸はけっきょくあのホットパンツを買うことにしたみたいだね。

 シャムりんの分もまとめて、質屋で手にした銀貨6枚でお買い上げし、おれたちは店を出た。

 

 せっかく気分転換になるかなと思ってたけど、まあいっか。

 ジーコもたいして服に頓着するタイプじゃなかったし、気に入ったものを長く着るのもわりと好きだしね。

 まあ〝ちんねんティーシャツ〟についてはまだなんとも言えんけど。


 そんなことを考えてたらシャムりんが言った。

「ねえタタロオ、ドロップアイテムの靴に履き替えたら?」 

「それはいいかもな」

 

 そう言ってチャウ丸が風呂敷から出したのは、例の〈ウサギのあんよ〉なる白地に赤のラインが入ったバスケシューズっぽいスニーカーだ。 

 

 たしかにこれまで履いてきた靴もボロくなったもんね。

 

 じっさいに履いてみたら、これがなかなか軽くて履き心地がいい。


「魔波が宿ってるって言ってたから、たぶんいいことあるわよ」


 そうか、だったら前向きに考えて、この新シューズにお世話になるとするか。

 これまでお世話になった靴を捨てるのはなんかもったいないので(お得意の貧乏性ですわ···)、とりあえず袋に入れてと。

 チャウ丸は引き続き裸足を続行らしい。

 相変わらずたくましいぜ。


 あるじからよさげな魔道具屋を紹介してもらったから、あとで行ってみようということになった。


「そろそろ解体屋の勘定が出たんじゃないか?」 


 ということで、解体屋へ戻ることにした。


 はて、おれらが仕留めた魔物の上がりはどれくらい(ハウマッチ)かな?

タタロオ不満のティーシャツは「第28話」で見ることができます。

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