第50話 タンニシ王国の解体屋へ
まずおれたちは、マガハラ大陸の地底で仕留めた魔物を売るために解体屋へ行くことにした。
そこには板の看板がかかっている。
はじめて来た国とはいえ、きちんと文字が読めるのは、やはり人間の姿に転移して得た認識能力によるものなんだろう。
「買取をお願いします」
そう伝えると、髪の毛がカリフラワーっぽい店主はじっとおれたち三人を見る。
その様子からも、すでにおれたちの姿を珍しがっているのがわかるぜ。
店にいたほかの客もケモノっぽい顔をしているからね。
みんなが集まってくると面倒なので、なるべく目立たないようにしながら、わりとたくさん品があることを告げた。
すると「それじゃついてきて」と言われ、店の裏の広場へ案内された。
「さあ、どうぞ」
ということで、さっそくマジックボックスから獲物を出していく。
まずはマラダイスボア×4だ。
「おっ、Cランクのマラダイスじゃないか」
「あとこれもお願いします」
「うむうむ、メリケンブルとそっちがコカドリーユか」
その様子はあきらかに驚いていて、店の裏にいた若い従業員も興味深げに近づいてきた。
たしかに今回は派手に仕留めたもんな。
ではもう少しだけいかせてもらいますよ。
「あと、ヘルシボブとデンパリザードなんですけど」
そこで「くっせぇ」と若い従業員。
どうやら生臭いのはヘルシボブという魔物らしい。
驚きをさらに強めたようだね。
でもあといっちょ残ってるぜ。
「最後にこのブレキンリリです」
主人はさらに驚き顔を広げてから言った。
「これらはどこで獲ってきたんだい?」
あれ、そんなに珍しいことなのかな。
「西のほうの地底です」
じっさいあの場所の名前はわからないので、適当ににごしておいた。
ただあのときは敵に囲まれてバタバタしていたせいで、チャウ丸も仕留めた魔物すべてを回収できたわけではないようだ。
まあ、それはしかたないか。
生き抜くことが最優先だったからね。
そこでカリフラワー頭の主人は、庭をブラブラしているチャウ丸とシャムりんのほうに目を向けてから言った。
「あんたらはずいぶん人間に近いようだが、もし術者なのであれば、これだけの量を仕留めるのもわかる」
ただのつぶやきのようでもあったので、そこは答えないでおいた。
沈黙は金、雄弁は銀っていうし、こっちから余計なことを口にして話が大きくなると厄介だもんね。
「オヤジさん、この方々は人間なのですか?」と若い従業員。
獣人だからか、絵描き歌の「かわいいコックさん」みたいな、ずいぶんユニークな顔のつくりをしている。
「おれも人間を見たことはないが、限りなく近いのはたしかだろうな」とオヤジさん。
いちおう小声のやりとりのつもりらしいけど、まる聴こえでしたよ。
そして、あたかも博物館に展示された宇宙人でも見るような熱のある視線を向ける若い従業員。
もう〝にらめっこしましょ〟じゃないんだから、そんなおもしろい顔でまじまじと見ないでよ。
て言ったっておれもつまらん見た目で、世間にお目汚しの連続だし、ひと様の容姿のことをとやかく言っちゃあ、いかんよね。
「さっき地底で仕留めたって言ったけど、あんたたち、どこの人?」
「ヤメーメです」
べつに住民登録してるわけじゃないし、おれらは旅烏のようなもんだが、まあ行動拠点の宿屋があるからね。
「タンニシではこれほどの魔物を仕留める者は上位の冒険者くらいで、そう多くいない」
「ブレキンリリなんて久しぶりに見ましたよ」と興奮した様子の若い兄ちゃん。
「しかもそのマジックボックス、かなり質がいいみたいだね。あなたたちはよほど腕のいい冒険者なんだろう」
まあ冒犬者ではあるのかな(ワンワンッ)。
どうやって来たのかという問いかけには、ヤメーメの王に連れてきてもらったので詳しくわからないと伝えた。
これはあながち嘘ではない。
歩いて来たのかと聞かれ、乗合馬車も使ったと答えた。
英語では真っ赤な嘘の反対で「真っ白な嘘 (ホワイトライ)」って表現があったっけ。
たしか罪のない嘘のことだけど、なんでもかんでもほんとのことをしゃべってたら相手を混乱させるだけだもんね。
ヤメーメの王様の聴魔術による音板に乗ったとか言ったら、今度はそのことについて聞かれることになるし。
そこで解体屋のオヤジさんが言った。
「いっそのこと、この国で働いちゃえば? これだけの実力があれば裕福に暮らせますぜ」
げ、なんか厄介そうな流れだな······
おれは話の流れを変えるべく、タンニシ王国について質問してみた。
この国の歴史はマガハラ歴で千年以上はあるとのことだが、「おれは学がないからねえ」ということで詳しいことまでは知らないらしい。
たしか嗅商王国も同じくらいの歴史があったんじゃなかったっけ。
ここには冒険者ギルドや商人ギルドもあり、組合の地盤がしっかりしてるから経済は安定しているそうだ。
ヤメーメも昔はギルドがあったっていうし、もっと豊かになればまた整備していきたいところだよね。
「ねえ、いくらになった?」とシャムりんが近づいてきた。
そのセクシーな出で立ちに、若い従業員がゴクリと生唾を飲んだのがわかった。
おれが答える前にオヤジさんが言った。
「これから解体に入るけど、この量だと少し時間がかかるので、しばらくお待ちいただけませんか」
そうか、じゃあしかたない。
「魔物から採れる魔感石は売らずに我々のほうでいただきたいのですが」
「ああ、魔感石ね。ブレキンリリのものはかなり魔力を宿してるだろうな。こんな仕事をしてても、おれら庶民じゃ、めったにお目にかかれない代物さ。かなりの値打ちがあるだろうから、それだけで地方で家一軒買えるんじゃないかな」
そりゃすごいな。
しかも話によると、ブレキンリリの肉は高級食材で、骨は武器に加工されるらしい。
そして爪は潰して薬草になり、皮は高級カバンの素材になるのだとか。
さすがはタンニシのAランクの魔物。
あのときは必死だったが、よくもまあこれだけ仕留めれたもんだ。
たぶん能力も少しは上がってるんだろう。
主人と従業員が解体作業に入ったので、おれたちはその場をあとにした。
「どうやらタンニシの国でも、人間の姿はだいぶ珍しいようだな」とチャウ丸。
「おそらく伝説の三銃士の噂も知ってるわよね?」
「いっそのこと、おれたちがそうなんだと言っちまうか?」
「いや、それはやめとこうよ。この国で雇われるような流れになったら面倒だしさ」
「まあな、おいらはずっと自由人でいたいからな。自由犬か、へへ」
「ねえ、せっかく知らない国に来たんだし、ショッピングしたいわ」
そうだね、地底の戦闘でずいぶん摩耗したし、ここはパーッと発散したいよね。
ただ、あんまり目立たないようにしないとな。
人間っぽい姿をなるべくさらさないように、サングラスとかあれば買ってもいいかもね。
たぶん解体してもらってる魔物はいい値がつきそうな雰囲気だし、ちょっとくらい買い物してもなんとかなるだろう。
がんばってくれたチャウ丸とシャムりんには買い物を楽しんでもらうか。
タンニシ王国は通称グルメ国らしいから、とびっきりうまいクレープとかバームクーヘンとかガトーショコラがあればいいけどなあ。
まあこれも飼い主ジーコの美味しいものイメージなんだけど、やっぱ疲れたときはうまいもの食べたいじゃない?
ということで、おれたちは店が集まる賑やかなほうへ足を向けたのだった。




