閑話 ぼくの家にイヌがやって来た
今日、我が家に新たな仲間が加わることになったんだ。
ぼくが父さん母さんにしつこくおねだりしたことで、父さんが仕事の知り合いからゆずり受けてきたみたい。
そんな新たな仲間となるワンコは、話によるとまだ生まれてから半年くらいなんだって。
イヌの1才って人間でいうなら15才くらいだって聞いたことがあるけど、その半分ってことは、今のぼくと同じくらいなのかな。
最近、学校でわり算の筆算や、えーっと······四捨五入っていうの? アレを習ったけど、このワンコはもちろん勉強なんてやったことのない、まっさらな脳みそって感じだね。
これがまた、すっごくかわいいんだよ?
イヌの毛はさわるとこんなに気持ちいいってのも、はじめて知ったんだもん。
だって学校じゃそんなこと教えてもらえないからね。
せいぜい運動場に野良犬が迷い込んできて、副校長が竹ぼうきで追いかけまわすくらいさ。
「おいおい、あんまりベタベタさわると、イヌ公がビックリするじゃないか」
そう言う父さんもいつもより上機嫌だから、ワンコのかわいさにまいっちゃってるのかな。
母さんにいたっては、職場からもらってきたお粥にイヌ用のミルクを混ぜて新品のお皿に盛りつけるというおもてなし。
ぼくの朝ごはんも、もっと工夫してもらいたいけど、ワンコは文句も言わずうれしそうにペロペロ食べてる。
あたりまえだけど、人間にでもならないかぎり、ぼくらみたいに手でわしづかみってわけにもいかないもんね。
この小さな肉球だってさわるとフニャフニャしてて、たまらなくかわいいんだ。
そんな姿を見てると、ぼくもイヌになってペロペロやりたい気分になるもんだよ。
「このイヌにも名前が必要だな。そうだな······太郎ってのはどうだ?」
「やだ、チカラ太郎みたいじゃない」
いやいや、タロウといえば、ウルトラのほうでしょ?
そこでぼくの頭にランプが灯る。
「じゃあ、タタロオは?」
「ええやんけ、よし今日からお前はタタロオだ」
ということで、ぼくは人生ではじめて、生き物に命名することになった。
て、まだぼくはたいして長く生きてないんだけどね。
この世界に誕生して10年やそこらなんて、まだまだ人間の初心者。
だからこのワンコとそんなに変わらないってわけか。
そこで父さんが、ぼくのそばにある攻略本を見ながらこう言った。
「お前さ、いっつもゲームばっかしないで、もっと学校の友達と遊んだりせんのか?」
「だって学校、ダルいんだもん」
「だからお前はいつまでたってもアンポンタンなんだよ」
「でもジーちゃんは歴史が大好きなんだもんね」と母さん。
ぼくは学校でもみんなからそう呼ばれていて、子供なのにジーちゃんだってよく笑われるんだ。
ふん、笑いたきゃ笑えばいいさ。
アンポンタン呼ばわりされたのが悔しかったから、長宗我部元親百箇条の内容をタラタラ述べて、父さんを黙らせてやった。
ふと見ると、タタロオがぼくに向かってほほえみかけてるみたいに見えて、ぼくの気持ちがわかってるんじゃないかって思ったよ。
「この子が大きくなったら、一緒に異世界を旅したいなあ」
「なーにが異世界だよ。まずは現実世界できちんと宿題やれよな」
父さんの脳みそは糸こんにゃくでできてるから、アニメや漫画の良さを何もわかっちゃいないんだ。
本を読むのが好きな人にはわかってもらえると思うけど、ちっともやさしくないこの世界なんかより、物語のほうがよっぽどワクワクするし、だんぜんリアルなのにね。
て、こんなこと言ってるから、友達ができないのかも。
そこで母さんが言った。
「ねえ、この子のおうちを決めてなかったわね?」
「べつにそのへんで寝かせときゃいいだろ」
「ダメだよ、かわいそうだよ。だったらぼくがダンボールで犬小屋をつくってあげる!」
「図工が苦手なお前がつくれるわけないだろ?」
ちっ、このオヤジ、彫刻刀でツンツンしてやろうか。
まあ図工の授業でいろんな箱を使って家をつくることになったとき、ぼくのものだけ不良にボコボコにされた軽トラみたいになったのはたしかだけどさ。
いつかぜったい、この子のために犬小屋をつくってやっからね!
そしてぼくは、新たな仲間に加わったワンコをギュッと抱いたわけだ。
くぅぅ、かっわいい!
タタロオ、これから仲よくしような!




