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第47話 ジーコの葛藤エネルギー弾

 黒い闇がとめどなく背中に張りついてくる。


 すでにキングは筋肉質の姿ではなく、ヤギ風の穏やかなおじいさんに戻っている。


 あのとき見た姿は幻?

 いや、そんなはずないね。

 だって今も脳裏にくっきり焼きついてるもん。


 おれたちはなりふりかまわず走った。

 もう何も見てないし、見る余裕もない。

 シャムりんも自身の治癒力で、なんとか走れるくらいまでは回復したみたいだ。


 どれくらい走っただろうか――


 気づいたら景色が変わっていた。

 岩のすき間から、向こう側に武装した兵の姿が見えた。

 おそらくはタンニシのパラシュート部隊だろう。

 その後方では一帯に炎をまき散らしている。


 ただおれはそこで絶句することに。


「道がない······」


 そこは何もない断崖だったのだ。

 下のほうに顔を向けると、赤い川が流れているのが遠くに見えた。


「血がくまなく流れる川じゃよ」


 ひいぃ、スパイスアント(香辛虫)が吸い取った生き血か何かでしょうかね。

 あの砂利っぽいのは、三途の川のそばにあると言われる(さい)の河原じゃないですよね?


 そこでさらにキングの行動に驚かされることに。


 足をバッと開き、両腕を宙に掲げて何かを唱えるや――


 チーチィ ラブリブリィ ムニャムニャファン――


 な、なんだこの聞き慣れない音は。


 でもイヤな音ではない、むしろ心地いい、うっとりさえする。 


 しかもその音が形体を成し、目で見えるようになってきたではないですか。

 染色体のようなものが薄闇に浮かび、どんどんかたちづくっていく。


 そしてすべてが集まったとき、なんと遠く上方へ向けた半透明の橋となったのだ。


「すげえ······」

「超人······」


 おれはこの地底に来て101回目の絶句だよ。

 もちろんプロポーズじゃなくて、絶句だ。

 ぼくは死にましぇんって、今こそ声高に叫びたいぜ。


「さあ、渡りましょうぞ」 


 キングが崖から一歩目を踏み出す。


 もちろんそのまま赤い川に向けて落下していくなんてことはなく、上り坂の橋を進んでいく。

 どこまでも長く伸びる橋は、秦の時代に築かれた万里の長城を彷彿させる。


 チャウ丸とシャムりんが続き、おれも半透明の橋へ。


 ひぇぇ、怖すぎだよ······

 ぜったいに下は見ないぞ!

 

 前をゆくシャムりんの小さな背中を見続ける。

 シャムさんって、こんなに線がきれいなからだをしていたんだね。

 人間の姿になってさらに色気が増したんじゃない?

 いつもリップや鏡を持ち歩いて女子力高いよね、フェイスミストはどこのやつを使ってるの? 持ち歩いているニボシはどこ産のカタクチイワシ?

 

 何をかくそう、頭でぶつぶつ独り言は、恐怖をごまかしているからですワン。

 おれが臆病なのもジーコの性格なんだろう、きっとそうだ、とここは飼い主のせいにしてしまおう。 


 そこでキングの声が届く。 

「まだスメル元帥はそのあたりにおるようじゃ」


 えっ、そうなんですか?

 と思った矢先、右前方に見覚えのある巨大で黒いもの。


 その巨大な影の気配は、まぎれもなく先ほど見たスメル元帥のものだ。


 しかも五十メートルほど離れた崖から、タンニシの敵兵たちが矢を放ってきている。

 

 いくつもの矢がそばを通過し、チャウ丸が犬銃を抜き発砲。


 バンバンバンバン――


 それでも敵はひるむことなく、矢ではないレーザー光みたいなものも飛ばしてくる。

 そういやタンニシは新型兵器の発明で有名とか言ってたっけ。


 とそこで――


 全身を太い釘で貫かれたかのような衝撃が走った。

 おれは一瞬何が起こったのかわからなかった。

 

 あ、熱い······

 

 しだいにやってくる鈍い疼き。

 それはやがて鋭くもたしかな痛みとなっていく。

 

 くっ、胸を撃たれたようだ。

 

 おそらくは敵のレーザー光か······

 い、痛ぇ······

 

 おれはたまらず地面に片膝をつく。

 ······し、死ぬのか······

 ······これでもう終わりなのか······

 ······おれは一生、オンナを抱けずにオダブツなのか······

 ······い、イヤだ······!

 ······意識はたしかにある······

 だいじょうぶ、生きてる······

 

 そこで手に何かが触れた。

 おれは首から下げたものを取り出す。

 それはリナからもらった御守りだった。 

 

 そばでシャムりんが言った。

「宿屋の女の子に守られたのよ。きちんと恩返ししないとね」


 たしかにおれはリナから護られたのだ――

 あんがとよ、リナ······


 リナの顔を思い出して癒されたのか、不思議と胸の痛みがやわらいできた。

 気力を振り絞って立ち上がったとき、キングがチャウ丸に言った。


「発砲はひとまずヤメじゃ」


 そしておれたちはキングが生み出した半透明の橋を進んでいく。


 なおも敵兵から矢が放たれるが、キングの魔術によるものか、どの矢も届かない間に失速して底へと消えゆく。

 投げたそばから落下する紙飛行機みたいだ。


 そして――


 突然、右前方に巨大な火の玉が起こった。

 それによる衝撃波で、崖にいた多くの兵が吹っ飛んだ。


「ギュィィィィイイ」


 狂気じみた絶叫とともに、崖の下へと真っ逆さまに落ちていく敵兵の姿。

 

 代わりに忍び寄る高速のかたまり。

 

 おそらくはスメル元帥による魔の記号か。

 人間が視力検査するときみたいに集中して見ると、一瞬だけ「∂」の文字を捉えた。


「キャッ!」


 その何かがシャムりんの足をすくった。


 かろうじて彼女の手をつかんだが、このままではやられてしまうのは時間の問題だ。


「ありがとう、あたしはだいじょうぶ」


 手を離すとおれは集中して、なおも迫る魔のかたまりに意識を向ける。


 先ほどよりも動きが見える。

 研ぎ澄まされたイヌの動体視力が動きを見極めているのだ。


 おれは集中が許すかぎり呼吸を深めていく。


(はあ、はあ、はあ、はあ······)


 下腹部が熱を帯びだしたとき、これまでとは違うからだの反応が起こった。

 それは脳膜を囲み込むように、意識を溶解していく。


 そして脳裏にうっすらと映し出されたもの――


 それは姿ではない。

 声であり匂いだ。


 おれはその気配のことをよく知っている。

 幾度となく時間を共にしてきた同士······


 ジーコだ――


 おれの意識は飼い主ジーコとこの上なく深く同化していく。

 そこでたしかに感じ取れたのは、言葉にならないほどの感情の渦。

 おれはエネルギーの流れに任せるままに、あらんかぎりの力で一気に解き放つ。

 

 それは二筋の閃光となり虚空を貫いた。


 グゥゥゥオオオン――


 野太い呻きのようなものが届いた。


 気づくと巨大な影が宙でグラングランと揺れていた。


 そしておれは聴いた。


『うぬも、やるではないか······なかなかの葛藤エネルギー。そんなに生きることがつまらんか? イラダチは魔とすこぶる相性が良い。さてと、おぬしらを闇へと葬らん』


 壮絶な衝撃波とともに、地響きが起こった。

 地面がゆがんだような揺れを感じたが、ここは橋の上だ。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ――


 離れた崖が轟音を響かせながら、爆破されたかのように一気に崩れ始めた。


「こりゃ、いかんわい。走ろう」


 キングの声のほうを見ると、橋が崩壊しているのがわかった。


「まずい! おいらたちまで奈落に落ちるぞ!」


 チャウ丸の声が響くや、おれたちは一気に駆け出した。


 そのあいだも、崖が崩れる轟音が耳を威圧する。

 どこから立っているのか、大きな土埃が視界を包んでいく。

 

 時おりつまずきながらも、おれは走る速度を落とさない。

 広い芝生を駆けるときのように、爪のスパイクを蹴って蹴って突き進む。


 ファオォォーン!


 おれの心の叫びは薄闇の中へ溶けた。

 

「橋はここまでかの」

 

 キングの声が届いた。 

 

 えっ、そんなことあるの?

 建設途中で放棄されたビル状態?

 

 すでに土埃はやんでいて、視界は広く見通せる。

 が、たしかに橋の先がない。


「さて、どうしましょうかね」

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