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「再生数2の底辺フリーター、SNSが武器になる異能都市で成り上がる」 ―― ヴァルドギア:FUKUOKA LOSTLINK ――  作者: DD22


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第六話:PAWN狩り

# 第6話:PAWN狩り


> VALDGEAR SYSTEMヴァルドギア・システム

>

> CONNECTコネクト

>

> STARTスタート


 白い光がほどけた。


 凪の足が、濡れたアスファルトを踏む。


 頭上を高架が走っていた。


 柱には広告ではなく、誰かのコメントが貼りついている。


 水たまりには、街灯ではなく配信画面の光が揺れていた。


 VALDGEARヴァルドギア


 NEO-FUKUOKA CITYネオ・フクオカシティの裏側。


「……二回目でも慣れへんな」


 凪は息を吐いた。


 そこで、自分の袖が目に入る。


 黒い。


 現実で着ていたパーカーではない。


 黒いレザージャケット。


 内側には、書きかけの歌詞みたいな白い文字が薄く光っている。


 両腕には白い包帯。


 拳には黒いグローブ。


 首元の安物のボールペンは、先端に黒い光を宿していた。


「なんやこれ」


 スマホが震える。


 @yui_musubi。


『アバター』


『ここでの君』


 少し間が空く。


『見られ方が』


『形になる』


 凪は黒いグローブを握った。


「オレ、こんな中二くさい見られ方しとるんか」


『少し似合ってる』


「少しってなんやねん」


 返事はなかった。


 代わりに、頭上へ表示が浮かぶ。


> USERユーザー:天沢 あまさわ・なぎ

>

> RANKランクPAWNポーン

>

> FOLLOWERフォロワー:75


 75。


 yuiに言われた1000までは、まだ遠い。


 凪がスマホをしまおうとした時、もう一度通知が震えた。


『全員が』


『本人とは限らない』


 凪の指が止まる。


『アカウントだけが』


『歩いてることもある』


『意識があるかは』


『外から分からない』


「……難儀な世界やな」


 凪は画面を閉じた。


 その直後、高架下の奥から笑い声が響いた。


 軽い声だった。


 人を踏んでいるのに、遊んでいるみたいな声。


 凪は足を止める。


 配信用の小さなカメラが、虫みたいに空中を漂っていた。


 その中心に、少年が座り込んでいる。


> RANKランクPAWNポーン

>

> FOLLOWERフォロワー:2


 2。


 凪の胸が小さく鳴った。


 自分の曲が、ずっと止まっていた数字。


 少年を囲んでいるのは三人。


> PAWNポーン

>

> FOLLOWERフォロワー:126


> PAWNポーン

>

> FOLLOWERフォロワー:148


> PAWNポーン

>

> FOLLOWERフォロワー:203


 全員、CLIPクリップの98より上。


 昨日の相手より上の数字が、三つ並んでいる。


 それだけで、喉が少し乾いた。


 上がどこまであるのか、凪にはまだ分からなかった。


 126の男が、少年の顔へスマホを近づける。


「はい、負けコメントどうぞ」


 少年は唇を噛んだ。


「……やめて」


「聞こえないな。フォロワー2の声、小さすぎ」


 148の男が笑う。


「泣いていいよ。その方が切り抜き回るから」


 203の男が、少年の頭上の数字を指でなぞった。


「2って逆に才能だよね。弱者コンテンツとしては強い」


 コメントが流れる。


『PAWN狩りだ』


『2は低すぎ』


『泣き待ち』


『また新人狩りか』


 PAWN狩り。


 凪はその言葉を、流れていくコメントで知った。


 弱いやつを倒すための戦いではない。


 弱いやつが泣くところを見せて、視線を集める企画。


 昨日のCLIPクリップより、ずっと手慣れている。


 126の男が少年の肩を小突いた。


「ほら。僕は数字がないから素材です、って言って」


 泣く役。


 負ける役。


 素材になる役。


 そういう形に、押し込められていく。


 凪は一歩踏み出した。


 スマホが震える。


『凪くん』


『相手は上』


 それだけだった。


 凪は画面を伏せる。


「分かっとる」


 もう一歩、前へ出た。


 203の男が凪に気づく。


「ん? 誰か来た」


 148の男が凪の頭上を見た。


FOLLOWERフォロワー75。昨日ちょっと回ってた新人じゃん」


 126の男が笑う。


「ああ、CLIPに勝ったやつ? でも75か。まだ狩れるね」


 配信用の光が、凪へ向いた。


 コメントの流れが変わる。


『昨日のやつ?』


『フォロワー1から上がった新人』


『75で203に行くのは無理』


 昨日の笑い声が、頭の奥でぶり返す。


 素材。


 フォロワー1。


 泣くまでやれ。


 凪は息を吸った。


「三人がかりで2をいじって、楽しいんか」


 126の男は肩をすくめる。


「楽しいよ。見てる人がいるから」


 148の男が笑う。


「君も分かるでしょ? 見られたら増える。増えたら現実でも返ってくる」


 203の男が、少年を指差した。


「低フォロワーは燃料なんだよ。落ちてたら拾うでしょ」


 凪は少年を見た。


 あれが本当に生身の誰かなのか。


 それとも、アカウントだけが形になった影なのか。


 凪には分からない。


 ただ、少年は顔を伏せている。


 笑われるたび、肩を小さく震わせている。


 少なくとも凪には、怖がっているように見えた。


 それだけで十分だった。


「燃料ちゃうやろ」


 凪は首元のボールペンを握る。


 黒い光が、先端に灯った。


 126の男が笑う。


「やる気? 昨日のCLIPは98。僕らは全員それより上だよ」


「見たら分かるわ」


「なら賢くしなよ」


「賢かったら、最初からここ来てへん」


 126の男の顔から笑みが消えた。


 次の瞬間、踏み込みが来る。


 速い。


 凪はペンを走らせる暇もなく、肩から吹き飛ばされた。


 痛い。


 熱い衝撃が背中へ抜け、VALDGEARヴァルドギアの中の身体がアスファルトを転がる。


 そこへ、コメントが降ってきた。


『ほら無理』


『75がイキった』


『CLIPが弱かっただけ』


 凪の輪郭が、少し薄くなる。


 調子に乗った新人。


 すぐ潰れるPAWN。


 また素材に戻る男。


 そんな見られ方が、上から押しつけられる。


「っ……」


 凪は膝をついた。


 148の男が笑う。


「効くでしょ。数字が下のやつは、受けるだけで場に飲まれる」


 203の男が少年にスマホを向けたまま言った。


「転がってた方が伸びるよ。君も、そこの2の子も」


 少年が小さく震えた。


 高架下の端には、他にも何人かPAWNポーンがいる。


 誰も動かない。


 見たら巻き込まれる。


 助けたら次は自分が狩られる。


 その空気が、場を固めていた。


 凪は地面に手をつく。


 逃げればいい。


 75で203に勝てるわけがない。


 1000人まで、あと925人もある。


 こんなところで削られる必要はない。


 そう思った。


 思ってしまった。


 だから、腹が立った。


「……ちゃうやろ」


 凪は立ち上がる。


 首元のペンを引き抜いた。


 黒い光が、空中に一語を刻む。


> 見ろ


 文字が拳に宿った。


 126の男が鼻で笑う。


「誰が?」


 凪は少年を見た。


 それから、高架下の端で目を逸らしているPAWNポーンたちを見た。


「逃げてもええ」


 声は震えていた。


 でも、止めなかった。


「でも、見ててくれ」


 空気が変わった。


 少年が顔を上げる。


 端にいた誰かが、凪を見る。


 コメントの流れが一瞬だけ遅くなる。


 凪の数字は、まだ変わらない。


> FOLLOWERフォロワー:75


 それでも、視線は向いた。


 126の男が目を細める。


「同情集め?」


「ちゃう」


 凪は拳を握る。


「証人集めや」


 黒い文字が、拳の上で燃えた。


「こいつが素材やないって、見とけ」


 凪は踏み込む。


 126の男の拳と、凪の拳がぶつかった。


 衝撃で足が滑る。


 でも、今度は膝をつかなかった。


 少年が息を呑む。


 高架下の端で、誰かが呟いた。


「……立った」


 その一言が、凪に届く。


 拳の文字が、少しだけ濃くなった。


 203の男が舌打ちする。


「面倒だな。まとめて狩るぞ」


 三人の数字が光る。


> 126

>

> 148

>

> 203


 CLIPクリップより強い。


 今の凪より、全員上。


 でも凪はペンを構えた。


「来いや」


 声はまだ震えている。


 それでも、逃げるための震えではなかった。


 コメントが一斉に流れる。


『75が203に喧嘩売った』


『また何か書くぞ』


『PAWN狩り荒れてきた』


 凪は空中に次の言葉を書く。


> まだ終わってへん


 黒い文字が、高架下の夜に燃えた。


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