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「再生数2の底辺フリーター、SNSが武器になる異能都市で成り上がる」 ―― ヴァルドギア:FUKUOKA LOSTLINK ――  作者: DD22


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第三話:届いた音



FOLLOWERフォロワー:2。


たった一つ増えただけ。


それなのに、世界の重さが変わった。


凪の拳に宿った黒い文字が、火花のように弾ける。


『届け』


その一語が、音になった。


耳に聞こえる音ではない。


胸の奥を直接叩くような、低く震える響き。


フォロワー98の男が、目を見開いた。


「なんで、強くなっとると」


男の赤い拳が迫る。


さっきまでなら、見えなかった。


避けることも、受けることもできなかった。


けれど今は違う。


遅い。


ほんの少しだけ、男の動きが遅く見える。


凪は歯を食いしばり、黒い文字をまとった拳を突き出した。


拳と拳がぶつかる。


今度は、吹き飛ばされなかった。


衝撃が腕を通って肩まで響く。


痛い。


痛いが、立っていられる。


「ぐっ……!」


男の方が、一歩下がった。


周囲のコメントが止まる。


一瞬だけ、VALDGEARヴァルドギアの夜が静かになった。


そして次の瞬間、配信画面に文字が流れ始める。


『押し返した?』


『フォロワー2で?』


『今のなに』


『音鳴ったよな』


男は顔を歪めた。


「コメントすんな。見るとこ、そこやなかろうが」


男が左手を振る。


浮かんでいたカメラの光が、凪を取り囲むように回り込んだ。


「リスナー、ちゃんと見とけ。こいつは俺より九十六人も下。たまたま一発止めただけたい」


九十六人。


その差は、まだ絶望的だった。


凪の表示は変わらない。


PAWNポーン


FOLLOWERフォロワー:2。


男は98。


数字だけなら、勝負にならない。


それでも凪は、さっきより息ができていた。


「……二人」


凪は小さく呟いた。


「二人、聴いてくれた」


男が舌打ちする。


「気持ち悪か。たかが二人で主人公ぶんな」


「主人公ちゃう」


凪はペンデバイスを握り直した。


黒い金属のペン先に、音の波形みたいな光が集まる。


「オレはずっと、誰にも聴かれてへんと思ってただけや」


凪は空中に文字を書く。


『聴こえてる』


その文字は、細く震えた。


けれど、消えなかった。


男が鼻で笑う。


「またポエムか。配信映えせんっちゃけど」


「映えんでええ」


凪は一歩踏み出した。


膝は震えている。


腹も肩も痛む。


それでも、足は前に出た。


「届けばええ」


黒い文字が、凪の拳に巻きつく。


男が低く構える。


「だったら、黙らせる」


男の足元に赤い光が広がった。


カメラの光が、一斉に男の背中へ集まる。


コメント欄が煽られるように加速した。


『やれ』


『終わらせろ』


『素材にして拡散』


『フォロワー1改め2』


そのコメントが男の体へ流れ込む。


赤い光が濃くなる。


凪は理解した。


この男は、見られるほど強くなる。


笑われる対象を作り、その反応を自分の力に変えている。


フォロワー98。


ただの数字ではない。


この男を見ている九十八人分の視線だ。


「ほら、来いよ」


男が笑う。


「おまえの二人で、俺の九十八人に勝てると?」


勝てるわけがない。


普通なら。


凪はそう思った。


だが、同時に気づいた。


男の配信を見ているのは、男の味方だけではない。


さっき、誰かがフォローした。


誰かが「ちょっと分かる」とコメントした。


男の配信は、凪を笑うための場所だった。


でも今は、凪の言葉が届く場所にもなっている。


「……借りるで」


凪は男を見た。


「あんたの配信」


男の眉が動く。


「は?」


凪はペンデバイスを空中に走らせた。


今度は一語ではない。


短い一文。


『笑うなら、最後まで聴け』


文字が空中に刻まれた瞬間、黒い波紋がコメント欄へ広がった。


男の配信画面が、ざらつく。


流れていたコメントが一瞬乱れ、凪の書いた言葉がその中央に焼きついた。


『笑うなら、最後まで聴け』


「なっ……俺の画面に何しとると!」


男が叫ぶ。


凪にも分からなかった。


だが、体は分かっている。


これは攻撃ではない。


届けるための道だ。


男が作った視線の流れに、自分の言葉を乗せた。


コメントが流れる。


『画面ジャック?』


『いや今の言葉、刺さった』


『最後まで見てみる』


『フォローしたやつ誰だよ』


男の顔色が変わった。


「見るな。こいつを見るな!」


男が突っ込んでくる。


赤い光をまとった拳。


速い。


だが、凪はもう目を逸らさなかった。


ペンデバイスを握る。


空中に一語。


『鳴れ』


黒い文字が、拳ではなく胸の奥で震えた。


凪は殴る直前、息を吸った。


歌う勇気はない。


人前で歌えるほど、強くない。


けれど、声は出た。


「誰にも聴こえてへんって、ずっと思ってた」


男の拳が迫る。


凪は半歩ずれる。


肩をかすめる。


痛みが走る。


それでも続けた。


「でも、ちゃうかった」


凪の拳が、男の腹に入る。


浅い。


まだ軽い。


男は耐える。


「二人おる」


凪はもう一歩踏み込む。


「二人も、聴いてくれた」


『鳴れ』


黒い文字が弾ける。


今度は、拳の衝撃だけではなかった。


雨の混じった下手な弾き語り。


六畳一間で録った、かすれた声。


誰にも届かないと思っていた音。


その断片が、VALDGEARヴァルドギアの夜に鳴った。


コメント欄が止まる。


笑いが止まる。


男の配信を見ていた誰かが、息を呑む。


凪の頭上の数字が揺れた。


FOLLOWERフォロワー:2。


FOLLOWERフォロワー:3。


「増えた……?」


凪が呟く。


男が叫んだ。


「ふざけんな!」


赤い光が、さらに膨れ上がる。


だが、さっきまでのような圧はない。


男のコメント欄に、別の流れが生まれていた。


『声、悪くない』


『歌詞ちゃんと聴きたい』


『こいつ何者?』


『フォローした』


凪の表示がまた揺れる。


FOLLOWERフォロワー:4。


5。


7。


数字はまだ小さい。


男の98には遠い。


それでも、凪の体の奥で音が重なっていく。


一人分。


二人分。


三人分。


それぞれは小さい。


でも、ゼロではない。


「やめろ!」


男がカメラへ怒鳴る。


「おまえら、俺の配信やぞ! なんでこいつ見とると!」


凪は、初めて男の目をまっすぐ見た。


「あんたが見せたんやろ」


凪はペンデバイスを構える。


「フォロワー1の底辺を」


空中に一語を書く。


『返せ』


男が一瞬ひるむ。


「何を」


「笑いも、視線も、コメントも」


黒い文字が、凪の拳に巻きつく。


「全部、こっちに返してもらうで」


凪は踏み込んだ。


男が拳を振る。


赤い光。


黒い文字。


二つがぶつかる。


今度は凪が押した。


「くっ……!」


男の足が滑る。


コメントが爆ぜる。


『押してる』


『フォロワー一桁で98押してる』


『これ逆転ある?』


『フォローした』


凪の数字が跳ねた。


FOLLOWERフォロワー:12。


15。


21。


男の顔から余裕が消える。


「なんでや。なんで俺の配信で、おまえが伸びると」


「知らん」


凪は息を切らしながら笑った。


「でも、初めてや」


ペンデバイスが鳴る。


黒い文字が、拳の上で強く震える。


「誰かが、オレの音を聴いとる」


凪は最後の一語を書いた。


『響け』


その文字は、今までで一番太かった。


下手でも。


弱くても。


震えていても。


確かに、凪自身の音だった。


男が赤い拳を振り上げる。


「終わらせる!」


「こっちの台詞や」


凪は拳を振り抜いた。


黒い文字が、男の赤い光を突き破る。


衝撃が夜に鳴った。


男の体が後ろへ吹き飛び、配信カメラの光が一斉に砕ける。


コメント欄が白く弾けた。


PAWNポーン


FOLLOWERフォロワー:98。


男の表示が、ぐらりと揺れる。


凪は膝をついた。


勝ったのか。


まだ分からない。


体はもう限界だった。


だが、頭上の数字だけは、確かに変わっていた。


FOLLOWERフォロワー:27。


27。


昨日まで、再生数2だった。


二回とも自分で開いた数字だった。


それが今、二十七人。


凪は荒い息のまま、スマホを見た。


yuiからメッセージが届いていた。


『届いたね』


たった四文字。


凪は、笑った。


泣きそうな顔で、笑った。


「……まだや」


視界の向こうで、倒れた男がゆっくり起き上がる。


その顔に、もう笑みはなかった。


凪はペンデバイスを握り直す。


FOLLOWERフォロワー:27。


男が低く言った。


「おまえ、名前なんていうと」


凪は顔を上げた。


「天沢凪」


黒い文字が、拳の上でまだ震えている。


「覚えんでええ。どうせ、今から嫌でも流れる」


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