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「再生数2の底辺フリーター、SNSが武器になる異能都市で成り上がる」 ―― ヴァルドギア:FUKUOKA LOSTLINK ――  作者: DD22


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第二話:最初の一人



FOLLOWER:1。


その数字は、変わらない。


けれど、揺れた。


ほんの一瞬。


凪の頭上に浮かぶ表示が、水面に落ちた雨粒みたいに震えた。


それを見た派手なジャケットの男が、笑みを消した。


「おまえ、今なんしたと?」


男の背後に浮かぶ配信用の光が、凪の顔へ向けられる。


「答えろっちゃ、新人」


男が一歩踏み込んだ。


空気が重くなる。


FOLLOWER:98。


数字の差が、そのまま圧力になって凪の肩へ乗った。


「っ……」


膝が折れそうになる。


ただ近づかれただけで、息が詰まる。


凪は拳に宿った黒い文字を見た。


『届け』


自分で書いたはずの一語が、音叉みたいに細かく震えている。


だが、それだけだった。


派手なジャケットの男には、まだ届いていない。


「なんや、ビビらせるだけか」


凪は小さく呟いた。


男はそれを拾って、鼻で笑う。


「それ、こっちの台詞たい。フォロワー1が変なエフェクト出したくらいで、なんか起きると思ったと?」


周囲にコメントが流れる。


『演出だけ?』


『草』


『はよ殴れ』


『新人の泣き顔待ち』


男は肩を回し、右手を軽く振った。


その瞬間、男の周囲に浮かぶカメラの光が一斉に強くなる。


「見とけよ、リスナー。これがVALDGEARヴァルドギアの基本たい」


男の拳に、薄い赤の光が集まった。


「数字が上のやつが、下のやつを殴る。それだけ」


次の瞬間、凪の腹に衝撃が入った。


見えなかった。


殴られたと理解した時には、体が後ろへ吹き飛んでいた。


「がっ……!」


背中が路面に叩きつけられる。


肺の中の空気が全部抜けた。


痛い。


現実じゃないはずなのに、痛みだけは本物だった。


男のコメント欄が盛り上がる。


『いい音』


『フォロワー1、軽すぎ』


『素材確定』


『もう一発』


凪は咳き込みながら、なんとか上体を起こした。


腹が焼けるように痛む。


視界の端で、自分の表示が揺れていた。


PAWN。


FOLLOWER:1。


「……なんで、こんな」


声が漏れた。


男はゆっくり近づいてくる。


「教えたる。ここは数字の世界ばい。フォロワーは信用、信用は力。おまえの声ば聞きたい人間が一人しかおらんってことは、おまえの存在には一人分の重さしかなかってこと」


一人分。


その言葉が、妙に刺さった。


現実でも同じだった。


再生数2。


いいね0。


コメント0。


誰にも聴かれない音。


誰にも覚えられない配達員。


数字がないなら、そこにいないのと同じ。


だから男は凪を殴る。


フォロワー1の新人を笑いものにすれば、男の配信は少し伸びる。


「だから、フォロワー1のおまえは」


男が凪の前で立ち止まる。


「俺の配信のネタになるくらいが、ちょうどよか」


男の足が、凪の肩を蹴った。


体が横に転がる。


周囲が笑った。


凪は歯を食いしばった。


悔しい。


怖い。


逃げたい。


それなのに、男の言葉を否定できない自分が一番腹立たしかった。


自分には一人分の重さしかない。


いや。


違う。


凪はスマホを握った。


画面には、yuiのメッセージが残っている。


『その1は』


『わたしです』


一人分。


たった一人。


でも、その一人を軽いと言われたくなかった。


「……勝手に」


凪は路面に手をついた。


膝が震える。


腹が痛い。


息を吸うだけで、胸が軋む。


それでも立った。


「勝手に、軽いって決めんなや」


男が眉を上げた。


「は?」


凪はペンデバイスを握り直す。


黒い金属のペン先が、かすかに鳴った。


ペン先から伸びる光は、音の波形みたいに震えている。


歌えない。


叫べない。


でも、書ける。


凪は空中に、もう一度文字を書いた。


『一人』


その文字は、さっきの『届け』よりも弱かった。


細く、頼りなく、今にも消えそうだった。


周囲から失笑が起きる。


『一人w』


『自虐?』


『泣きポエム始まった』


男も笑った。


「それで何すると? フォロワー1って自己紹介?」


凪は答えない。


続けて書く。


『でも』


手が震える。


文字が歪む。


男が退屈そうに肩をすくめた。


「もうよか」


赤い光が、男の拳に集まる。


「終わりにするばい」


凪は最後の一語を書いた。


『ゼロじゃない』


三つの言葉が、空中でつながった。


『一人』


『でも』


『ゼロじゃない』


黒い文字が、音のように震える。


それは歌ではなかった。


叫びでもなかった。


でも、凪が何度も飲み込んできた本音だった。


男の拳が迫る。


凪は逃げなかった。


拳に文字を宿す。


『ゼロじゃない』


凪の拳と、男の拳がぶつかった。


衝撃。


痛み。


骨が砕けたかと思った。


それでも、凪は吹き飛ばなかった。


男の目が見開かれる。


「なんで止まると」


周囲のコメントが一瞬止まった。


凪の拳から、黒い波紋が広がっている。


男の赤い光が、その波紋に食われるように削れていた。


「おまえ、フォロワー1やろうもん!」


「一人おる」


凪は歯を食いしばった。


「オレの音を、聴いたって言うてくれた人が、一人おる」


黒い文字が強く震える。


男の拳が、わずかに押し返された。


コメント欄に、新しい文字が流れた。


『なんか今の、ちょっと分かる』


凪の表示が揺れる。


FOLLOWER:1。


まだ変わらない。


けれど、周囲の空気が変わった。


さっきまで笑っていた誰かが、黙った。


男はそれに気づき、顔を歪めた。


「変な空気にすんなって」


男が左手を振る。


浮かんでいたカメラの光が、さらに増えた。


「おまえら、コメント止めんなちゃ。笑え。」


その声に合わせて、コメントが無理やり流れ始める。


『草』


『ポエムきつい』


『早く倒せ』


だが、さっきより勢いがない。


凪はそれを見た。


ほんの少し。


本当に、ほんの少しだけ。


届いた。


「調子乗んな!」


男が蹴りを放つ。


凪は避けられなかった。


肩に直撃し、体が横へ弾かれる。


それでも、倒れきる前に足を踏ん張った。


ペンデバイスを握る。


空中にもう一語。


『聴け』


さっきより線が太い。


文字が、低いギターの弦みたいに鳴った。


凪は踏み込む。


男が鼻で笑う。


「命令すんなちゃ、フォロワー1」


「命令ちゃう」


凪は拳を振った。


「願いや」


黒い文字をまとった拳が、男の頬をかすめた。


直撃ではない。


それでも男の顔が横に揺れた。


配信のカメラが、ざわめくように揺れる。


コメントが流れた。


『当たった?』


『今かすったよな』


『フォロワー1で?』


男の顔が赤くなる。


「おまえ……!」


凪はもう一度ペンを走らせようとした。


だが、指が動かない。


限界だった。


腹も肩も痛む。


呼吸は荒く、視界がにじむ。


男はそれを見逃さなかった。


「終わりたい」


赤い光が、今までで一番強く拳に集まる。


凪のスマホが震えた。


yuiからのメッセージ。


『見て』


凪は顔を上げた。


男の背後。


配信コメントの流れの中に、一つだけ違う表示があった。


『フォローしました』


誰が押したのかは分からない。


名前も見えない。


ただ、その一文だけが、夜の中で光っていた。


凪の頭上の数字が変わる。


FOLLOWER:1。


FOLLOWER:2。


たった一つ増えただけ。


それだけなのに、凪の体の奥で何かが鳴った。


男の拳が迫る。


凪はペンデバイスを握る。


もう、手は震えていなかった。


「二人目」


凪は小さく笑った。


「届いたんや」


黒い文字が、拳の上で弾けた。


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