第二十三話:切り抜き師ハウンド
> FIELD RESERVED
> TARGET:AMASAWA NAGI / SPARKLE
黒い表示は、次の夜まで消えなかった。
HAKATA BASE地下通路。
黄色い誘導ライン。
左右の広告パネル。
前夜、凪が切られる直前に残した文字。
> 前がある
ほのかから届いたのは一行だけだった。
> 先に着く。
凪は返す。
> 今行く。
---
階段前で、ほのかは床を見ていた。
黒いキャップの影から、目だけが上がる。
右足のつま先が、黄色いラインの手前で止まっていた。
「止める?」
「止めへん。動くなら、見る」
ほのかが一歩踏む。
右足だけが、少し遅れた。
「じゃあ、追いつく前を作って」
凪は頷いた。
二人のスマホに黒い表示が浮かぶ。
> VALDGEAR SYSTEM
> CONNECT
> START
改札の音が遠ざかる。
---
VALDGEARのHAKATA BASE地下通路。
北側に凪。
右前にSPARKLE。
南側の改札跡に、黒いフード。
床の黄色いラインへ、黒い編集線が重なる。
> HOUND
> RANK:KNIGHT
> FOLLOWER:2,431
首から下げた小さなカメラだけが光った。
カチ。
左右の広告パネルが黒く落ちる。
『HOUND予約枠、開いた』
『SPARKLEまで出るのか』
『逃げるところ見たい』
最初に切られたのは、SPARKLEの足だった。
> CLIP 001:SPARKLE、足が遅れる
広告パネルには、右足が床を踏む一瞬だけが映る。
前も後もない。
『え、足どうした?』
『そこだけ抜くのきつい』
HOUNDのFOLLOWERが跳ねた。
> FOLLOWER:2,431 → 2,516
SPARKLEは左足で床を蹴り、右足を遅らせたまま横へ滑る。
凪はその影へ入り、床へ書いた。
> 前
黒い線が即座に文字を切る。
> CLIP 002:また同じ字
『前のやつ擦ってる?』
『前って何の前』
> FOLLOWER:2,516 → 2,603
切るたび、HOUNDへ視線が流れる。
凪の表示は動かない。
> AMASAWA NAGI
> FOLLOWER:1,008
次に映ったのは、SPARKLEが前、凪が後ろにいる二秒だった。
> CLIP 003:SPARKLEを盾にする
『これ盾にしてない?』
『いやSPARKLEが自分で出た』
『切られるとそう見えるの怖い』
凪の喉まで、言葉が来る。
動くな。
言えば、そこだけ残る。
凪は息を吸った。
「止めへん。見てる」
SPARKLEの目が変わる。
「じゃあ見て」
右足が黒い線の上へ落ちた。
線が一瞬止まる。
SPARKLEは上半身だけを先へ出す。
「足だけ見てたら、遅れるよ」
凪は後ろへ下がりながら、床へ書いた。
> 前を見ろ
HOUNDが切る。
> CLIP 004:逃げながら命令
『命令っぽい』
『いや、客側に書いてない?』
『前って切られる前?』
『元の流れ見たい』
最後のコメントが、白い枠で止まった。
> SAVE:1
> CLIP 019:前を見ろ
凪の表示が揺れる。
> FOLLOWER:1,008 → 1,041
HOUNDの笑みが消えた。
黒い線が増える。
通路全体が、細い枠に分かれた。
> FIELD EDIT:HOUND PRIORITY
> CLIP 005:SPARKLE、息が上がる
> CLIP 006:凪、守れない
> CLIP 007:二人、噛み合わない
HOUNDの数字が走る。
> FOLLOWER:2,603 → 2,781
『切り方えぐい』
『でも保存見たあとだと雑に見える』
凪は黒い線の内側へ滑り込み、床に一語を置く。
> 追いつく前
SPARKLEの遅れた足跡が、その前に重なった。
> CLIP 008:SPARKLE、遅れて追いつく
今度は、追いつくところまで映った。
『遅れたのに追いついた』
『HOUND、残さされた?』
凪の数字が動く。
> FOLLOWER:1,041 → 1,089
HOUNDが前へ出る。
「分からせる前に切るんだよ」
黒い線が床を埋めた。
凪が踏めば、足だけ切られる。
SPARKLEが伸ばした腕は、腕だけ切られる。
声も、口元だけで消える。
> CLIP 009:届かない
『急に追えない』
『声まで切るの怖い』
凪は床を捨てた。
自分の腕にペンを走らせる。
> そこだけで終わらすな
黒い線が腕を切る。
パネルに映ったのは途中まで。
> そこだけで
HOUNDが笑う。
「ほらな。そこだけで足りる」
SPARKLEがHOUNDの前へ入る。
切られながら、凪の腕を指さした。
「読んで」
凪は下にもう一行書く。
> 続きを見ろ
広告パネルに二行が並んだ。
> そこだけで
> 続きを見ろ
『今ので意味変わった』
『切られた文字がつながった』
『元の流れ見たい。もう一回』
> SAVE:2
凪の表示が跳ねる。
> FOLLOWER:1,089 → 1,126
HOUNDの線が一瞬止まる。
すぐに広告パネルが、またHOUNDへ向いた。
> FOLLOWER:2,781 → 2,902
場はまだHOUNDのものだ。
SPARKLEが凪の前へ出る。
「十分」
凪はペンを握ったまま止まった。
HOUNDがその停止を切る。
> CLIP 010:AMASAWA NAGI、従う
『その切り方は雑』
『止めたんじゃなくて判断したやつ』
> BATTLE RESULT
> HOUND:FIELD MAINTAINED
> AMASAWA NAGI / SPARKLE:SURVIVED
HOUNDはカメラを下ろした。
「次は保存ごと切る」
黒い線が消える。
広告パネルが現実の広告へ戻る。
SPARKLEの光がほどけ、ほのかが柱にもたれた。
凪は腕を支える。
階段の前で、スマホが震えた。
> PUBLIC LOG
> MIKADO
> RANK:KNIGHT
> FOLLOWER:6,014 → 7,920
> BATTLE RESULT:WIN
御門も進んでいる。
「遠いね」
ほのかが言った。
凪は画面を閉じる。
「遠くなったんちゃう。あいつも進んどるだけや」
腕には、にじんだ文字が残っている。
そこだけで。
続きを見ろ。
次に御門を見る時は、数字だけを見ない。
凪は、切られた続きへ階段を上がった。




