第二十四話:保存ごと切れ
> CLIP 019:前を見ろ
> SAVE:2
階段を上がっても、その保存枠は消えなかった。
凪は腕に残ったにじみを親指で押さえる。
> そこだけで
> 続きを見ろ
ハウンドは言った。
次は保存ごと切る。
黒い通知が、先に来た。
> FIELD OPEN
> HAKATA BASE
> TARGET:CLIP 019
凪はほのかへ送る。
> 行く。
返事は早い。
> 先に見てる。
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VALDGEARのHAKATA BASE地下通路。
北側に凪。
右前にSPARKLE。
南側の改札跡に、黒いフードのハウンド。
前回と同じ黄色い誘導ラインに、黒い編集線が重なる。
> HOUND
> RANK:KNIGHT
> FOLLOWER:2,902
ハウンドの首元で、小さなカメラが光った。
カチ。
左右の広告パネルが黒く落ちる。
> CLIP 001:前を見ろ
保存された凪の文字。
その上に、ハウンドの字幕が貼られる。
> 命令する男
『保存まで切った』
『前回と意味変わる』
『でも元どこ?』
> FOLLOWER:2,902 → 3,044
凪は言い返さない。
床へ短く書く。
> 元を開け
黒い線がすぐ走る。
> CLIP 002:開け
『何を?』
『CLIP 019の前後か』
SPARKLEが右足を半歩だけ遅らせた。
ハウンドの線が、足だけを拾う。
> CLIP 003:SPARKLE、止まった
『止まってない』
『待ってる』
『前回の遅れと同じ?』
凪はその隙に、CLIP 019の端へペンを差し込む。
> 保存者、元を見ろ
ハウンドが切る。
> CLIP 004:元を見ろ
保存枠の下に、小さな白い反応が灯った。
> SOURCE REQUEST:1
パネルの一枚が開く。
前回の地下通路。
SPARKLEが足を遅らせる前。
凪が逃げずに下がった前。
腕に「そこだけで」と書く前。
短い元映像が、切られたCLIPの横に並んだ。
『あ、盾じゃない』
『足で線ずらしてる』
『切る前あった』
凪の表示が揺れる。
> FOLLOWER:1,126 → 1,238
ハウンドの黒い線が太くなる。
「元ごと切ればいい」
その声まで、広告パネルが拾った。
> CLIP 005:元ごと切ればいい
『それ言うんだ』
『元を消す側ってこと?』
ハウンドが舌打ちした。
地下通路全体が、細い短冊に割れる。
凪の腕。
SPARKLEの足。
御門に膝をついた凪。
再生数2の曲。
SHARE:1。
全部が並び、前後を失っていく。
凪の喉が固まる。
前なら、ここで怒った。
今回は見る。
再生数2の前には、誰にも聴かれなくても投稿した夜がある。
SHARE:1の前には、足を止めた一人がいる。
御門に膝をつく前には、見られる順番を奪われた自分がいる。
凪は一番古い短冊へ書いた。
> どれにも前がある
切られる。
> CLIP 006:前がある
短くなった。
でも、前回から残った言葉と同じ向きだった。
『前』
『元を開く』
『どれの前?』
『再生数2の曲、見つけた』
現実SNSの通知が、視界の端に混ざる。
> PLAY:+9
> COMMENT:1
ハウンドのフィールドが歪む。
SPARKLEが黒い線を踏む。
派手に蹴り抜かない。
足首の角度だけで、切るタイミングを外す。
「今」
凪は走った。
ハウンドの正面ではなく、フードの前に浮いた最後の短冊へ。
そこにペン先を突き立てる。
> おまえの前はどこや
黒い線が止まった。
フードの奥で、初めて息が乱れる。
遅れて切られた文字が、パネルに出る。
> CLIP 007:おまえの前
『ハウンドの元?』
『顔見えない』
『何を切ってる?』
ハウンドが一歩下がる。
その一歩を切ろうとして、線が空回りした。
「見るな」
声だけが、切られずに通路へ落ちた。
SPARKLEが黒い線を踏み抜く。
凪が最後の文字を書く。
> 切る前を残せ
短冊が割れた。
> FIELD ERROR
> SOURCE REQUEST:OVERLOAD
黒い広告パネルが、元の色へ戻っていく。
> RESULT
> HOUND:DEFEATED
> FIELD CONTROL:AMASAWA NAGI / SPARKLE
凪の表示が開く。
> FOLLOWER:1,126 → 1,890
SPARKLEの表示も揺れる。
> FOLLOWER:3,331 → 3,812
ハウンドの姿は、南側の改札跡から消えていた。
凪は数字を見た。
黒い公開ログが重なる。
> SUMIYA MIKADO
> RESULT:WIN
> FOLLOWER:7,920 → 9,740
まだ遠い。
けれど、この数字は、ほのかの場に乗っただけのものと違う。
切られても残る言葉を、二人で置いた。
現実SNSに、コメントが一つ残る。
> 元の曲、聞いた
凪はそれを見て、スマホを閉じた。
「次やな」
SPARKLEは肩を回す。
「ちょっと休ませてよ」
「せやな」
「素直」
「切られるからな」
SPARKLEが笑った。
その笑いは、もう短冊にならなかった。




