作戦会議
テーブルの中心に置かれた髪飾りへと四方から視線が集まる。
いざ探しにゆかんとしていた王女のティアラが、探す前に見つかってしまった。
オッカムはここまで早く手に入れることができるとは想定していなかったようで持てあましている。スターヴも然りだ。
トリカは視線をこっちに向けたりあっちに向けたりで忙しい。俺も似たようなものだ。
「オッカムはこれを軍よりも早く手に入れたいって話してたけど、手に入れてどうするつもりだったんだ?」
オッカムは俺が小屋に入ったとき、髪飾りを探しに行こうとしていた。それなら手に入れた後でどうするかを多少なりとも考えていたはずだ。
「万が一にオイラー隊長の正体がばれたときの交換条件にする」
「それは……王女の命をちらつかせて、オイラー隊長を引き渡してもらうってことか」
そうだ、とオッカムが目をいっそう鋭くさせる。
俺も言い方が悪かった。
たしかに、このティアラが王女の刃なら、俺たちは王女の心臓を握っていることになる。国への大きな圧力になるだろう。
それはわかるのだが、人の命を道具のように扱うのは抵抗がある。
「そういきり立つな、ルー坊! そいつは最後の手段だ! 俺たちも遊んでたわけじゃないぞ! 今回の騒動のおかげで塔の中にいた奴らが外に出ていってな! オイラー隊長の場所はつかめた! まだ、正体もばれてない! まあ、隊長に限ってばれることなんかないだろうがな!」
ブッハッハと笑いながらスターヴが俺をなだめる……本人はなだめているつもりなんだろうが子供扱いされているようで、余計にいらついた。
「ルー。王女様はレェトじゃなくてレィトね」
もういいよ、それは!
どうせ、俺には正しく発音できませんよ!
「それで、オイラー隊長をすぐ助けに行かなくてもいいんですか」
「場所が問題だ。今すぐには難しい」
「先の反乱でな! 多くのものが捕まったことで、牢を圧迫しているのだ! そのせいでふだん使われない一番奥の区画に、隊長は収容されてしまった!」
オッカムの少ない説明をスターヴが口やかましく補填する。
俺はふてくされて黙っている。
「その区画は入るのが難しいんですか?」
「扉の鍵が特殊だ」
「通常の鍵の他にな、なんと暗号も仕掛けられとる! 扉の内側と外側にそれぞれ人が立って、鍵と暗号を二人が同時に解かねば入れんのだ! 鍵は奪ってもいいんだが、暗号が厳しいな! その場で解けるようにはなっているようだが、まったくわからん! それにだ! 仮に外側で解けたとしても内側の兵士も開けんことにはどうしようもない!」
スターヴの言うとおり、扉の外側は鍵を奪って、暗号も力尽くで聞き出せばなんとかなりそうだ。
しかし、内側が確かにどうしようもないな。
「人を操作したり、壁をすり抜けたりする力を持った人はラーミナにいないのか?」
「いない」
もしかしたらいるんじゃないかと思ったが、そううまくはいかないらしい。それならお手上げだ。
トリカの力を使おうにも、そんな区画に全身が映る大きさの鏡があるはずもないだろう。
「じゃあ、どうするんだ?」
「それを今から考えるのだ!」
目を見開いてスターヴはグハハと笑った。
しばらく誰も案が思い浮かばないのか黙っていたのだが、
「おい、ルー坊! そろそろ案の一つや二つ浮かんだだろ! 言ってみろ!」
……はい?
スターヴがいきなり喋ったかと思ったら、俺に話を振ってきた。
困ったなと、トリカをちらりと見ると、
「そうなの、ルー。さすがね」
えっ? ええっ?
トリカは楽しそうな顔でスターヴの話に合わせてきた。なんなんだ、この流れは……。
助けを求めてオッカムを見た。
「話してみろ」
……オッカム、あんたもか。いや、オッカムは真面目に聞いている気がするな。
三人の視線が俺に集まる。なにこれ怖い。
まあ、少しは考えていたが、どれもどうしようもない案ばかりだった。
正直に言うと、案を考えている途中から別のことが気になって集中できていなかった。
「気になっていることはある」
「おうおう! なんだなんだ言ってみろ!」
俺は視線をテーブルの中心に置かれたティアラに向ける。話を切り出さずに眺めていると、他の三人も視線を俺からティアラに移した。
「このティアラは美しい」
「……そうね」
――だからなんなの? と続きそうな口調でトリカが返してくれた。
「このティアラは俺が今までに見てきた刃……いや、刃に限らなくてもいい。宝石、武具といったものの中でも、一二を争うくらいに心が惹かれるんだ」
他の三人も黙って聞いている。何か惹きつけられるものがあるというのは、おそらく共通の認識だろう。
「そんなティアラを刃として目覚めた能力者――レェト王女がどんな人間なのかが俺は気になる」
他の三人が必死にオイラー隊長の安否や助け方を模索しているのはわかっているんだが、俺にはこのティアラの持ち主の人となりが気になって仕方がなかった。
「おいおい、ルー坊! 今は――」
呆れた声を出したスターヴをオッカムが軽く手で制した。
「会ってどうする?」
オッカムが問いを投げてくる。
そこが大切だ。会って、見て、話をしたいというのは完全に俺の興味本位だ。さすがにそれは許してはくれない。王女と会って話すことでラーミナになんらかの利点がなければいけない。
「オッカム、聞きたいことがある。俺たちの第三部隊は他の能力者集団との交渉にあたるんだよな」
「そうだ」
「交渉にあたる能力者は集団じゃないといけないのか? 個人を対象に交渉してラーミナに引き入れるといったことはできないのか?」
三人は俺が何を言いたいのかわかってくれたようだ。
「ルー坊! お前、王女さんをラーミナに入れるって言うのか!」
「そうなる。表に出ないとはいえ、一応は王女だろ。少しは発言力があるんじゃないかな。たとえば、ずいぶんと厳重な牢に入った人間を別の牢に移したりとかね」
「おもしろい! おもしろいじゃねぇか! いいぞ! 俺は賛成だ! やってみろ!」
スターヴは俺の案に大賛成してくれている。でも、そもそもあんたは第三部隊じゃなくて第一部隊だろ。さっきからうちの隊長が何か喋ろうとしたところで、あんたの声が被るから機嫌悪くなってんだよ。黙っていてくれ。
「仮に王女と交渉をするとして、どうやって会いに行く?」
「いくら引きこもってるとはいえ王女なんだ。身だしなみには気をつかうだろ。部屋に姿見があると思うんだ」
「私の力で飛ぶのね」
そうだ、と俺は頷いた。
全身の映る鏡があるなら、トリカの力で移動することができる。能力に距離の問題はあるが、この街の中ならその制限は気にしなくていいだろう。
「失敗したらどうする?」
「逃げる、と言いたいところだけど、わざと一人捕まるのもいいかと思ってる。今なら捕まって入れられるのは一番奥の区画になる可能性も高い。それにオイラー隊長と接触することもできるかもしれないし、うまく暴れれば内側から中を制圧できる」
まあ、こう言ってはいるがそううまくはいかないだろう。あくまでできる可能性があるといった話だ。
「交渉が成功する見込みは?」
「それは実際に会って話してみないとわからない。でも、悪い方には転ばないと思うんだ」
刃から感じた哀しみ。あれは俺が昔に感じていた思いと似ている気がする。
それなら話をして、彼女の思いを聞くことくらいはできるんじゃないだろうか。
オッカムは目を瞑り思案していたが、おもむろに目を開いた。
「これより第三部隊はレィト王女の交渉に向かう」
そして、そのまま立ち上がってそう宣言した。
了解だ、と俺も席を立ち、残る二人も続いた。
…………いや、スターヴ。あんたは第一部隊だろ。




