白々しい会話
周囲が明るみ始め、鳥の鳴き声も聞こえるようになってきた。
馬の足は速められ、そのぶん揺れが大きくなっている。
「見えた」
揺れの音に混じりオッカムの声が聞こえた。
馬の進路方向に石で作られた家や木製の柵といった人工物が目に入る。
あれがルイーナだろう。
そして、その村の入り口には青服に身をまとい、手に槍をもった西国の兵士が二人立っていた。
赤服を着るエリート、緑服を着る能力者でなかったことは運がいい。
馬が減速していき兵士たちの少し前で止まる。
二人が近づいてくる。
「現在、この村は立ち入りが禁止されている」
片方の兵士がはっきりとした声で宣言する。
「えっ、そうなんですか。なにがあったんですか」
俺がとぼけたふりをして問いかける。
「それは話すことができない。お前たちこそ、こんな辺境になんの用だ」
兵士たちの目が鋭くなる。
俺たちを遺跡に隠れている能力者集団の仲間と疑っているのだろう。
「六日ばかり前ですかね。ここでおもしろい発見がされたと耳に入れまして、ぜひともその発見を実際に見てみたいと思い、その日のうちにカナーリスを発ち、今ここに到着しました。どんな発見なんですかね。あっ、さてはその発見に関連して軍の方で調査をしているんね。ずるいですよ、私たちにも教えてください」
顔に楽しみで楽しみで仕方ないという表情を貼り付けてそう話す。実際に遺跡を見てみたいという思いはあるので、半分以上は本音だし事実だ。
トリカも隣で微笑んでいる。彼女は俺の発言に笑っているような気もするが、きっと気のせいだろう。
オッカムは鋭い目つきを緩めようともしていない、こちらもいつもどおりだ。
ちなみにガウス少年はトリカの鏡の中に入っている。その刃――友人であるボヤイもいっしょだ。
「お、おちつけ。とにかく。今は立ち入り禁止で、中の状況については話せない。またの機会に来るんだ」
俺の好奇心全開の話し方に、兵たちは身を引いている。
とりあえず、自分たちが能力者集団の仲間ではないと判断されたようだ。
「困りましたね。まあ、仕方ないですか。それではせめてバーテルスという人がいるので呼ぶことはできないでしょうか。話だけでも聞いて帰りたいんですよ。遺跡の近くに住んでいる老人なのですが、駄目でしょうか」
兵士の顔つきが変わる。
バーテルスとはガウスを養っていたというおじいさんだ。先ほど名前を聞いておいた。
「お前、バーテルスの知り合いなのか」
「ええ、ご存じなのですか? まあ、彼ほどあの遺跡に詳しい人物はいませんからね。知られていても不思議ではありません。重要な遺跡だというのに今では彼くらいしかまともに調査をしていない。なげかわし――」
「奴は死んだぞ」
「……えっ」
目を大きく開き、口をぽかんと開ける。何を言ってるんだという顔を作る。
「奴は死んだ。もう墓もできている、住人の話だと一週間ほど前だそうだ」
知ってます。二回も言わなくていいです。
とりあえず「なんてことだ……」と呟いておく。
「ほんとうですか」、「事実だ」という短い会話をして、少し口を閉ざす。
「お前はガウスという人物を知っているか」
兵たちが問いかけてくる。
「ええ、バーテルスが面倒を見ていた少年ですね。ガウス君がどうかし……まさか、彼も」
「いや、そいつは死んでいないが、行方がしれない。捜索をしているんだが、見かけていないか」
「来る途中では見ていませんね。もしかすると遺跡の中かもしれません。中は非常に複雑ですから、以前に入ったときもバーテルスがいなければ遭難するところでした」
「遺跡に入ったことがあるのか」
「ええ。おおまかな道ならまだ覚えていますよ」
「少し待て」
兵士たちは俺たちから少し離れて話をし、一人が村の中へと駆け足で入っていった。
しばらくして村に入った兵士が戻ってきて、再び兵士同士で話すとこちらに向かってくる。
「村の中に入ってもいいことになった。遺跡の中もだ。ただし、我々も同行する」
「道案内役ということですかね。中に入れるなら文句はありません。しかし、先にバーテルスの家を訪ねてもいいでしょうか。何か新しい発見についてのことが書かれているものが残っているかもしれませんし、そこまでの道が記されているものが見つかるかもしれません」
「バーテルスの家はすでに我々が調べている。参考になるようなものは見つからなかった」
「そうなのですか。しかし、遺跡に一度入ったことのある我々なら何かわかることがあるかもしれませんし、あなたたちが見落としてしている部分がないとは限りません。それに墓参りもしたいので」
「……いいだろう。ついてこい」
兵士たちが先導し、それを馬車がゆっくりと追っていく。
村の中で住人に出会うことはなかった。
朝が早いためなのか、兵士たちがいるためなのかはわからないがおそらく後者だろう。
気になった点というと、一つ大きな建物がありその前に兵士たちが立っている。
他の建物には兵士たちがいないところをみると、あの中にこの兵たちの指揮官がいると考えられる。
民家も見えなくなり、もう村から出てしまったのではないだろうか、と思うようになったころ視界に小さな建物が映る。
その建物の前で兵士たちが足を止めた。ここがガウスの家なのだろう。
「降りろ」
俺たちは言われたとおりに馬車から降りる。
建物のドアを開けようとしたところで声をかけられた。
「一人ついてこい。隊長が話をしたいそうだ」
誰が行くか目配せをしあった。
まずトリカを見る。
一週間前まで彼女はシニストラ軍で能力者を示す緑服を着ていた。
今は軍を抜け、その軍にテロリストと呼ばれる組織に入っている。要するに軍の裏切り者だ。
もしも隊長とその取り巻きにトリカを知っている者がいるとまずい状況になる。
このためトリカは却下だ。
次にオッカムと目が合う。その鋭い目は私が行こうと語りかけてくる。
だめだ、危険すぎる。
一週間ほど彼女の近くにいたが、彼女に話ができるとは思えない。
口よりも体が先に動く種類の人間だ。
彼女は先ほどの兵たちとの会話も自分が話すとこじれるから黙っておくと辞退した。
ちなみに俺が駄目だったら実力行使に移るとも言っていた。
俺とトリカ、ガウスとこの建物で待って、オッカムが兵士たちの返り血を浴びて戻ってくるということもあり得ないとは言い切れない。
オッカムも却下だ。
そうなると、
「じゃあ、俺が話をしてくるから二人は中の調査を頼んだよ」
「わかったわ」
トリカに見送られる。
オッカムも無言ではあったが、口が『気をつけて』と動いた気がした。
片方の兵士といっしょに来た道を戻っていく。
途中で隊長がどんな人か知りたいため、兵士に話かけたが返事は返ってこなかった。
会話は諦め無言で歩き続け、先ほどの兵士たちが立っていた建物の前にたどり着く。
やはり何も言わないまま彼はその扉を開けた。




