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電妖のフェアリーテイル  作者: 双星天魚


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4/5

皇の名を持つ者

 彼に案内されたのは、学内にある大型の体育館……いや、スタジアムというべき建物の中であり、俺はいつもダンジョンに入るときのように準備運動をしていた。


「ルールを確認するぞ、武器は基本的に自由。魔法技術を使うのもありだが、殺すことは厳禁。もっとも、このスタジアム内に張られた結界術式で、そうなる瞬間に保護されるから、無いとは思うがな」

「こいつを使うのは?」


 そういってアイテムボックスを見せると、彼自身も懐から同じものを見せてくる。


「当然アリだ。俺自身、武器はここにいつも保管してるからな。むしろ無い方がダンジョン攻略には不向きだ」

「だろうな」

「だが回復薬関係は使用禁止、同時に毒薬や痺れ薬の類いも禁止だ」


 まぁ妥当なルールだとは思う。そこについては異論はない。が、


「しかし皇ねぇ……」

「……一応直系だぞ、継承権は低いが」

「いや、そこを疑うつもりはないんだが、まさか()()()()()()()()を馬車馬のように扱うあの女に若干ドン引きしただけだよ」


 その一言に奴も肩を竦めて呆れていた。どうやらそこだけは意見は一緒だったらしい。


「しかし、奴の話じゃ数年辺境で一人ダンジョンに隠れ住んでたって聞いてたが、皇の意味を知ってはいたんだな」

「この国に住む人間なら常識だろ。皇が皇帝家以外に名乗れない名字だってことは」


 皇の名字を持つのはこの帝国ヤマトのトップに君臨する皇帝家以外に存在しない。分家筋ですら皇の名字を持つことは許されず、読みですら『すめらぎ』となる名字は許されていない。

 そして直系筋は全員、何かしらの異界的な能力を先天的に所有していると聞いたことがある。


「いいのか、継承権低いとはいえ、皇族がダンジョンに潜るって」

「……皇帝からは許可は貰ってるよ」


 苦々しげにそういうのを聞き、俺は何も言わなかった。なんとなく事情は察せられたから。


「まぁ話はこれぐらいでいいだろ」


 そういうと奴はアイテムボックスから武器を二つ取り出す。


戦槌(ウォーハンマー)……それも二振りか」


 あきらかに奴の身長より長く、そして重量感溢れる戦槌を片手にそれぞれ構える姿に、その厄介さと馬鹿力に頬が引き吊った。


「そんな重たくて長い奴を両手に一つずつって、あきらかに戦いに向いてないだろ」

「安心しろ、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そうして両手のそれぞれを手から外してみれば、なんとそれは自然に宙を浮き始めて自由自在に動き始める。

 その事に驚く俺を尻目に、奴はアイテムボックスから改めて己の扱う獲物を取り出していた。


籠手(ガントレット)……いや、盾籠手(シールドガントレット)か」

「そうだ。魔導技術により攻撃にも防御にも使用できる盾を一体化した盾、それが俺自身の獲物だ」

「プラスして、先天的異能……多分念動力(サイコキネシス)か?それで操る2本のハンマーとか、ヤバすぎだろ」

「そうだな。もっとも、俺の先天的異能は不器用でな、頑丈かつそれなりに重たいものでないと壊してしまうゆえに、こんなものしか操れないわけだが」


 なんの制約にもなってねぇよ、と思ったと同時、俺もアイテムボックスから得物を取り出す。


「……ダンジョン産の鉄剣二振り、舐めてる訳じゃないよな?」

「大真面目だよ。つか、これ以外の武器なんて持ってねぇし」


 もちろん使いなれてないものを含めれば他にも幾つか中に入ってはいるが、こういう場でそういったものを使ったところで勝てないのは目に見えてる。

 ゆえにボロボロだろうが、武器として貧弱だろうが、使いなれている鉄剣で挑むのがベストだと判断した。


「さて、どう行くかな……」


 俺は右手に順手、左手に逆手に剣を構えて相対する。奴は俺の構えに違和感を感じ取ったのか、浮かしていた戦槌を前に出して交差させる。

 数秒、それだけの間がなぞの威圧感を産み、そして……俺から動いた。


「っ!!」


 正面突破の右手振り下ろしの一撃、普通に考えれば簡単に弾ける攻撃を、奴はギリギリで防いだ。

 前に出ていた戦槌の棒の部分で防ぐと、その勢いを生かして俺のことを弾き飛ばそうとするが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「な!!」


 奴は慌ててステップで距離を取りつつ、剣を受けないように盾を展開してガードする。逆手の横抜き一閃はそれに簡単に防がれると、空いていた戦槌のもう一つが俺目掛けて振り下ろされる。

 だが、それを予測していた俺は右手を逆手に一瞬で持ち替えて振り下ろしの一撃を流して回避し、直ぐに順手に持ち替えて接近する。

 が、それを予期していた奴はアイテムボックスから、新たに2本の戦槌を取り出して、それを操り俺を近づけさせないように振り回す。


「危ないな、まったく」

「どの口がいいやがる!!」


 回避しながらの一言にそう返してくるが、実際、まさか同じ巨大な戦槌を4本も同時に操れることに俺は呆れるしかなかった。


「たく、まさか戦闘スタイルが暗殺者染みたもんだとはな、流石に予想してなかったぜ」

「まぁ気配を消すのはダンジョンでソロならできるに越したことはないからな」


 最初の一撃、俺は攻撃の際に一切の殺気を持たず、かつ奴が瞬きをした一瞬の隙を伺って動いた。

 ダンジョンに潜る人間は、そのダンジョンの魔獣を倒すことで少しずつ肉体が強化されていく。魔獣が発する魔力、魔素、マナなんて呼ばれるそれが人間の肉体を文字通りゲームのようにレベルアップさせる。

 そしてそういう人間は大概、相手の気配を読んで行動する。相手の発する殺気や空気、それに空気の揺らぎといった目に見えない感覚を重視しなければダンジョンでは簡単に命を落とすからだ。


(そういう意味では、俺はダンジョンに潜る人間とは真逆の考え方をしているからな)


 俺は生き残るためにダンジョンに潜って、可能な限り怪我をしないようにと、とにかく気配や魔力とかに敏感な魔獣相手に気配を消して攻撃する手段を身につけた。それ自体が悪いわけではないが、こと冒険者相手にはそれが天敵となった。

 勿論、彼らも視覚を重要視してないわけではない。が、ある程度の力をつけた連中は視覚以上に感覚を重要視している。ゆえに、今の攻撃も俺が殺気や攻撃するという意思を込めて動いていたら、それは簡単に防げたはずだ。

 だが、俺は攻撃する直前までその攻撃の意思そのものを持たないようにしていた。まるで道を自然に歩くように接近し、そしてほぼ回避不可能な状況で始めて殺気を込めることで、相手に受けに回ることを強要させた。

 まぁ、目の前の男はそこからの攻防でさらに戦槌を二つ追加するとは思ってなかったが。


「そっちこそ、まさか巨大なハンマー四つも同時に操って動けるなんて、想像もしてなかったよ」

「不器用だとは言ったが、二つしか操れないなんて一言も言ってないからな」


 それはそうだが、かなり面倒なことには違いない。


「とはいえ、現状、補助具ありでもこれが限界だがな」

「補助具?」

「この盾籠手だよ。こいつは盾であり、籠手であり、そして俺の先天的異能を補助する杖……いや、指揮棒のようなもんだ」 


 そういって奴が腕を少し動かせば、それに合わせるように戦槌全てがやつの側に戻る。


「盾装備型念動力増幅制御試作籠手四式……通称『多腕巨人の腕(ヘカトンケイル)』。『機巧科』の連中が俺の異能を制御・増幅するために試作した謹製の装備だ」

「いいのか、戦ってる最中にそんなことを俺なんかに教えて」


 普通にそれを壊すために動く。と言いたいが、


「分かっていても壊せないだろ?この戦槌を全て躱しながらなんて」

「そりゃそうだ」


 剣を直接打ち込んだから分かる。あの戦槌は今の俺が簡単に壊せる代物じゃない。弾いたりするくらいなら可能かもしれないが、それでも俺の武器の方が先に消耗して壊れる。


(幸い、予備は幾つもあるから壊れること自体は問題じゃない。けど、壊すことのデメリットの方が大きい)


 念動力(サイコキネシス)使いを相手に、落ちているものを増やすというのは自殺行為に等しい。それぐらいは異能技術や異物関連の知識が殆どない俺でも簡単に想像がつく。

 奴はある程度頑丈じゃないといけないとか言ってはいたが、それが虚言(ブラフ)である可能性、つまり、仮に壊れた剣の刃ぐらいなら操れるのだとしたら、手数を増やしてしまうということになる。


「けど良いのか、そんなデカブツ四つも操ってたら、肉体以前に精神的にキツイだろ」

「その通りだ。実際、俺個人が手に持って操れるほど、この戦槌は軽くない。これを使うのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまりは短期決戦用の装備だ」


 彼はそう言いながらニヤリと笑う。


「あの女から少しだけ話は聞いている……()()()()()()()を使いたいのならさっさとすることだな」


 憮然と、しかし堂々とその戦槌を構えてそう言う奴に、少しだけ笑みが零れた。

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