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婚約破棄されたので記録係になったら、消されたはずの人々が世界を変え始めました  作者: 月守いとは


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第21話 問題視

 王都は、変わらず整っていた。


 城門をくぐり、石畳の道を進む。

 行き交う人々の足取りは一定で、無駄がない。


 建物は均整が取れ、装飾は抑えられている。

 華やかさはあるが、それは秩序の上に成り立っているものだ。


 わたくしは馬車の中からその光景を見ていた。


 かつて、ここは日常だった。


 見慣れた風景であり、当たり前の場所だった。


 けれど今は――


 少しだけ、距離があるように感じる。


「……降りるぞ」


 レオンの声で、意識が戻る。


 馬車が止まり、扉が開かれる。


 わたくしはゆっくりと外へ出た。


 目の前にあるのは、王都文書局の建物。


 装飾は少なく、機能性を重視した造り。


 余計なものを削ぎ落としたような、直線的な外観。


 まさに、この場所の性質を表している。


「こちらだ」


 レオンに促され、中へ入る。


 内部も同様だった。


 無駄のない配置。

 整えられた動線。

 人の動きも、どこか統一されている。


 その中で、わたくしたちは奥へと進んだ。


 いくつかの扉を抜け、たどり着いた部屋。


 重厚な扉。


 警備の気配。


 ここが、中心だとわかる。


「入るぞ」


 レオンが扉を開く。


 中に入る。


 空気が、変わった。


 文書庫の静けさとは違う。


 ここには、「決定」がある。


 その場にいるだけで、それが伝わってくる。


 室内には、数名の人物がいた。


 机の向こうに座る者。

 書類を整理している者。


 その中で、一人だけ。


 動かずにこちらを見ている男がいた。


 年は五十前後だろうか。


 整えられた髪。

 無駄のない服装。


 そして――


 何も表情に出ていない顔。


「……来たか」


 低く、平坦な声。


 それだけで、この場の主が誰かは明らかだった。


 レオンが一歩前に出る。


「監査官レオン・ヴァルディス、帰還いたしました」


「確認している」


 男は短く答える。


 そして、視線がわたくしに向く。


 その瞬間。


 全身を一瞬で測られる感覚があった。


「……エーヴェルディア公爵令嬢」


 名前を呼ばれる。


「セシリア・エーヴェルディアでございます」


 礼をする。


 男はわずかに頷いた。


「ローデリック・ハインツだ」


 名乗りは、それだけ。


 肩書きは言わない。


 必要がないからだ。


 ここにいる全員が、それを知っている。


 王都文書管理局長。


 この場所の頂点。


「状況は把握している」


 ローデリックは机の上の書類を一瞥する。


「補遺記録の作成」

「命令違反」

「外部流出」


 一つ一つ、淡々と並べる。


 感情はない。


 評価もない。


 ただ、事実。


「……問題だ」


 その一言は、静かだった。


 けれど。


 重かった。


 空気が、わずかに沈む。


 わたくしは、その言葉を受け止める。


 否定はしない。


 その通りだから。


「理由は」


 ローデリックが言う。


「理解しているか」


 問いではない。


 確認でもない。


 ただ、答えを求めている。


「はい」


 わたくしは答える。


「管理外の情報が発生し、統制が取れなくなるため」


 レオンの言葉。


 そして、王都の論理。


 それをそのまま返す。


 ローデリックはわずかに頷いた。


「理解はしている」


 短く評価する。


「では」


 一拍。


「なぜ、行った」


 核心だった。


 わたくしは、少しだけ息を吸う。


 この場では、曖昧な言葉は通用しない。


 理由を、言葉にしなければならない。


「……そこにあったからです」


 静かに、しかしはっきりと。


 同じ答え。


 だが、ここではそれだけでは足りない。


 ローデリックの目が、わずかに細くなる。


「理由になっていない」


 当然の返答。


 わたくしは続ける。


「消す理由が、わたくしには見つかりませんでした」


 それが、本音だ。


 必要かどうかではない。


 正しいかどうかでもない。


 ただ。


 消すべきだと思えなかった。


 それだけ。


 ローデリックはしばらく何も言わなかった。


 その沈黙は、圧ではない。


 処理だ。


 この答えを、どう扱うかを判断している。


「……感情か」


 やがて、そう言った。


「はい」


 否定しない。


「非合理だ」


「はい」


 それも、否定しない。


 わたくしは、すべて理解している。


 その上で、選んでいる。


 ローデリックは、わずかに息を吐いた。


 それは、ため息ではない。


 ただの動作。


「問題は」


 言葉を続ける。


「記録の内容ではない」


 視線が、こちらを射抜く。


「統制できないことだ」


 その一言で、すべてが示される。


 真実かどうかは、関係ない。


 正しいかどうかも、関係ない。


 制御できるかどうか。


 それだけ。


「……理解しております」


 わたくしは答える。


 そして。


 その上で。


「それでも、残します」


 同じ言葉を、ここでも。


 沈黙。


 今度は、先ほどよりもわずかに長い。


 室内の空気が、静かに張り詰める。


 ローデリックは、しばらくわたくしを見ていた。


 その目には、何もない。


 怒りも、驚きも。


 ただ、判断だけがある。


「……そうか」


 やがて、そう言った。


 短く。


 それだけ。


 けれど。


 その一言で、すべてが次に進むことがわかる。


 わたくしは、静かに息を吐いた。


 ここから先は。


 もう、言葉だけでは済まない。

読んでいただきありがとうございます。


ついに“本当の敵”が登場しました。


ローデリックは、

これまでの誰よりも強い「正しさ」を持っています。


だからこそ、この対立は簡単には終わりません。


次話では、

いよいよ「削除命令」が強制されます。


ここから一気に緊張が高まります。


ぜひブックマークして続きを追ってください。

ここからが最大の衝突です。

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