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婚約破棄されたので記録係になったら、消されたはずの人々が世界を変え始めました  作者: 月守いとは


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第17話 命令

 それは、再び「書簡」という形で届いた。


 前回と同じく、王家の紋章が押された封書。

 だが、手に取った瞬間にわかる。


 重い。


 紙の厚みではない。

 その中身が持つ意味の重さだ。


「王都からです」


 エドガーが短く告げる。


 その声には、わずかな硬さがあった。


 わたくしは封を切る。


 中の文面は、前回よりも簡潔だった。


 そして――明確だった。


 ――対象記録の整理について、速やかに対応すること。

 ――補遺および非公式記録の作成を禁止する。

 ――既存の補足記録については、削除対象とする。


 そこに、余計な言葉はない。


 説明もない。


 ただ、命令だけがある。


 わたくしはその文面を、ゆっくりと読み終えた。


 そして、静かに紙を閉じる。


「……来ましたね」


 エドガーが言う。


「はい」


 短く答える。


 予想していなかったわけではない。


 むしろ、遅いくらいだ。


 ここでの動きが、王都に伝わらないはずがない。


 問題は――


 それが、どの程度の強さで返ってくるか。


 そして。


 今、それが示された。


 補遺の禁止。


 削除命令。


 つまり。


 わたくしのやっていることは、明確に「不要」と判断された。


 それどころか、「排除対象」になった。


 わたくしは机の上の帳簿に視線を落とす。


 これまで書き続けてきた記録。


 まだ誰にも読まれていないものもある。


 ミアが読んだものもある。


 そのすべてが――削除対象。


「……どうされますか」


 エドガーの問い。


 それは確認であり、同時に警告でもあった。


 この命令は、無視できるものではない。


 従わなければ、問題になる。


 離宮の問題では済まない。


 わたくし個人の問題でもない。


 家の問題になる可能性もある。


 それでも。


 わたくしの中で、答えはすでに決まっていた。


「……削除は、いたしません」


 静かに言う。


 エドガーは一瞬だけ目を細めた。


 驚きではない。


 確認だ。


「命令に反することになります」


「承知しております」


 それは、理解している。


 軽い判断ではない。


 けれど。


 わたくしは帳簿に手を置いた。


「これは」


 言葉を選ぶ。


「ここにあったものです」


 その事実は変わらない。


「消す理由が、わたくしには見つかりません」


 必要かどうか。


 正しいかどうか。


 それではない。


 ただ。


 消すべきだと思えない。


 それだけだ。


 しばらく沈黙が続く。


 エドガーは何も言わない。


 その代わり、ゆっくりと頷いた。


「……そうですか」


 それ以上は何も言わない。


 止めることもしない。


 ただ、受け入れた。


 その事実が、静かに重く落ちる。


 そのとき。


「判断が早いな」


 低い声が、背後から落ちた。


 振り返るまでもない。


 レオンだ。


 彼はすでにそこに立っていた。


 書簡を一瞥し、内容を理解した様子で。


「……想定内だ」


 短く言う。


 その声には、わずかな緊張が混じっていた。


 完全に冷静ではない。


 だが、それを表には出さない。


「削除命令が来ることは、予測できたはずだ」


 わたくしを見る。


「それでも残すか」


 問いではない。


 確認でもない。


 ただ、事実を突きつけている。


「はい」


 わたくしは即答した。


 迷いはない。


 もう、ここで揺れることはない。


 レオンはしばらく黙っていた。


 その視線は鋭いままだが、どこか別のものを測っている。


 やがて、ゆっくりと口を開いた。


「……理解はしているな」


「はい」


「これは、個人の問題では済まない」


「はい」


「あなたの判断は、ここだけで完結しない」


 その言葉は、重い。


 その先にあるものを、はっきりと示している。


 それでも。


「承知しております」


 わたくしは答える。


 その上で。


 選んでいる。


 レオンは一瞬だけ目を閉じ、そして開いた。


 その中に、わずかな変化があった。


 否定でも、肯定でもない。


 ただ、受け入れたような。


「……記録は管理だ」


 再び、その言葉。


 けれど。


「だが」


 一拍。


「すべてが管理できるとは限らない」


 その言葉は、これまでとは違っていた。


 初めて、前提が揺らいだ。


 レオン自身の中で。


 彼はそれ以上何も言わず、背を向ける。


 そのまま文書庫の奥へと歩いていく。


 足音が遠ざかる。


 わたくしは、静かに息を吐いた。


 命令は出た。


 状況は、明確になった。


 もう、曖昧な場所にはいない。


 選択は、現実になった。


 それでも。


 わたくしは机に戻る。


 帳簿を開く。


 筆を取る。


 そして、書き始める。


 削除されるかもしれない。


 消されるかもしれない。


 それでも。


 ここにある限り。


 わたくしは、それを書き続ける。


 それが、今のわたくしの選択だった。

読んでいただきありがとうございます。


ついに「明確な外圧」が来ました。


ここから物語は、

静かな対話から「現実のリスク」へと移行します。


セシリアの選択は、

もう引き返せないものになりました。


次話では、この選択が

“外の世界”にどう影響するのかが描かれます。


ぜひブックマークして続きを追ってください。

ここから一気に物語が広がります。

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