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第43話 第四部8『インターハイ~徳島の暑い夏~』 

二人の女子が全国に挑む。そしてマジカルミーさんこと武部美由起が活躍しだします。

川合智子は全国の強豪たちの中にいて、自分よりも上の選手たちの跳躍を見るのが楽しくてしょうがなかった。初めての全国大会で気後れしたり緊張したりする気持ちよりも、自分がこの場にいることに心地よさを感じていた。スタンドの一番前から強烈な声援を送るミーさんの声もしっかり聞こえている。


162㎝の高さから始まって三回目の高さをこえれば決勝進出という条件はかなりきつい設定だった。それはつまり、162㎝から3㎝刻みで上がる三回目なので168㎝が予選突破の高さということになる。彼女の身長と同じ高さだった。そして自身記録とほぼ同じ高さを跳ばなくては決勝に進めないということだ。でもそんなことはもうここに来る前から分かっていたこと。自分より上の記録を持つ選手たちの名前もしっかりと頭の中に入れてこの場所にやって来ていたのだ。


自分自身も全国ランキング10位という信じられない順位でやって来たけれども、上位の人たちとは大きな力の差があることもわかっていた。そしてそれこそが全国大会に参加しているものにしか味わえない特権だと思っていた。だから、今目の前にいる強豪選手に恐れの気持ちなどないし、気後れする理由もなかった。


山野紗季の走り幅跳びと同じ時間に始まることも、自分を奮い立たせる一つの要因になると喜んでいた。今日までの三日間応援と補助に回っていても、全国大会の熱気は十分に感じてきた。


大会記録で優勝を勝ち取った野田賢治の素晴らしい結果には胸の高鳴りと涙が止まらなかった。高校入学以来ずっと一緒にやって来た山野紗季が、今季から始めた種目なのにもかかわらず、全国の強豪と互角以上に戦っている。中川君だって予選突破はできなかったけれど自己記録を更新して健闘していた。


札幌から遠く離れた全国大会のこの場で、そういう仲間の姿を見ることができた。それは、応援の言葉なんかじゃなくても、自分に強烈なエネルギーを分け与えてくれている。自分だってできる。自分も持っている最高の力を発揮するんだという気持ちにさせてくれた。だから私は、これから始まる自分の競技に自信を持って挑戦できる。決勝でもこの凄いメンバーと競技を続けられるのを目標に頑張ろうと思っている。そしてこんな環境にいることがうれしくてしょうがないのだ。


練習の159㎝を二度跳んでみて自分の調子がいいことが分かった。徳島に来てから5日が過ぎもうこの暑さにも慣れたし、仲間たちと一緒の時間は楽しみだらけの日々だった。全国大会にやって来たというプレッシャーよりも仲のいい友達との楽しい旅行にやって来たような気持でいられた。


試合が開始された。最初の高さでずいぶんたくさんの選手が失敗している。60人余りの参加者が二組に分かれて予選に挑んでいるが、最初の高さでそれぞれ十人以上もの選手が脱落してしまった。それでもまだまだ決勝には届かない。次の165㎝が最初の関門だった。168㎝をクリアーすれば決勝進出になるが、全体で12人に達しなければこの高さでも残れる可能性が生まれる。そしてそのためには一回目でクリアーすることが求められる。ここまで残った選手たちの自己記録はもっと高いところにあるはずだけれども、一回目でクリアーできるかどうかが今日の試合を大きく左右するはずだった。


大きく息を吸ってゆっくりと吐いた。目指す先にある白黒のバーは、赤茶色のセーフティーマットの厚みがあるためにあまり高いという感じを与えなかった。バーを見つめたまま踏切のイメージを頭の中で描いてから、腕を大きく振り体を前後にゆすって右足からスタートを切った。膝を高く上げて軽いステップを踏むような助走から、最後の6歩で重心を下げ、右手の動きを強調して跳びあがった。胸に近づけた右ひざを伸ばし、右手をバーの向こう側に落とし込むように動かすと背中をを真下にしたアーチが生まれた。頭よりも腰の方が高くなっのたと同時に膝から下を跳ね上げるように動かすと、白黒のバーが微動だにしない状態でマットにセーフティーランディングが完成した。


今日も最高気温が34度になると予想されていた。午前中の時間でもその日差しは本当に強烈で、熱っせられたマットの表面を通じて背中に夏の日差しを感じることになった。一回目でこの高さをクリアーしたのはこの組では7人。まだまだ安心はできない。それでも今日は調子がいいと自分に言い聞かせることのできる跳躍だった。


168㎝にバーが上がった。残っているのは16人。これをクリアーすれば人数に関係なく決勝進出が決まる。三人連続して失敗した後、ランキング一位で来た東京の緑川選手がスピード豊かな助走から見事にクリアーして見せた。この選手のスピードある助走と踏切の鋭さは山野紗季と似ていた。続いて二人が失敗した後に川合智子がスタートした。飛び跳ねるような助走から重心を一気に下げて真上に跳びあがった。高さが出た。あまり大きくないアーチでもバーをうまくかわしてマットに背中から下りて後ろ向きに一回転した。


見上げると白黒のバーはスタンドに掛ったまま真っ青な夏空を背景に従えていた。成功だ。

「やったー!」

両手を強く握りしめた川合智子は、そのままセーフティマットの上で大きくジャンプした。彼女には珍しく自然にガッツポーズが生まれた。


山野紗季は走り幅跳びのピットで川合智子のクリアーを見届けた。

「よしっ!」

高跳びの第二コーナーまで声が届くことはないけれども、大きく手を広げて頭の上で何度も拍手した。そしてこの成功に力を得た山野紗季は三回目の跳躍で5m35㎝を記録した。これは二組目では5番目の記録になった。山際選手は5m44㎝を跳んで三番目。東京の阿部選手が5m55㎝を跳んでトップの記録を出した。この選手はランキング3位の選手だ。


戻ってきた二人は互いの健闘を祝って両手でハイタッチを交わしている。

「やったね智子! すごいすごい、決勝だよ!」

「うん。もう最高だよ! すっごく楽しかった」

その二人の会話を全てかき消すような叫び声と一緒に武部美由起がものすごいダッシュでやって来た。そして、すぐさま川合智子に抱き着いた。

「トモちゃーん!! すごーい!」


背の低い武部美由起は川合智子にぶら下がっているようにしか見えない。でもその機関銃のような速さの喋りにはだれも口をはさめない。二人に声をかけようとした野田タクは、ただ口を開けたまま見ているしかなかった。


「全国大会なのにねー、もうトモちゃん一番落ち着いているものー。もーねー、女王様みたいだったよー!なんだかねー、ホーンとしばらく会わないうちにもーこんなにすごい……、なんかもう泣けちゃうよー」

「ミーさんの声、ちゃんと聞こえてたよ。ホントに力になったもの」

「そう! ホントにそう? 良かったー。なんかねー周りの人たちおとなしいんだよねー。大きな声出しちゃいけないのかって思ったけどねー、でも私このために来たんだもの、目いっぱい叫んじゃったよー。もう何年かぶりで大声出しちゃったー、あははははは……」

武部の姉はまだ川合智子の手を握ったままだ。

「うん、うん、良かったわー。次もう決勝だもんねー! 15時からだって? また叫ぶからね!」


「美由起! うるさすぎるって! 周りがみんな見てるだろー! もう一緒にいると恥ずかしいわー!」

「えー、なに? うるさい? ワタシ? そーおー、でもねでもねー、裕也君ねー、ワタシほらトモちゃんの応援のためだけに来たんだからねー、おとなしくしてたら意味ないじゃない! 札幌にいる祥ちゃんからもね、いっぱい応援してって電話で言われたしー……」

「おー、そうなんだわー、祥子と一緒の時もさ、アイツおんなじくらいうるさかったものー。でもよ美由起、さっきも言ったろう、智子だけじゃなくって山野だって南ヶ丘の後輩なんだから、ちゃんと応援しろよって!」


「やだ! ちゃんと応援してたよ! 幅跳び跳んでたものねーぇ山野さんも」

「はいちゃんと聞こえてましたよ。強烈な声援でしたから」

「ほらね! それで、山野さんの決勝はいつから?」

「ミーさん、紗季のは七種競技だから予選じゃなくて全部決勝なんだよ。次はね槍投げ。14時40分からなんで私の決勝より前に始まるんだよ」

「そうなの。ナナシュ競技なの。すごいねー、七種目もやっちゃうわけだね。スーパーマン、いやスーパーウーマンなんだね」

「いや、私なんかじゃなくってスーパーマンはこのノダケンの方ですよ。なんたって、全国チャンピオンですから!」


山野紗季が指さす先にいた野田賢治は顎を突き出すように軽く頭を下げた。


すると、もうそこからが大変な騒ぎになった。やっとノダケンと話すことができた武部美由起はすぐさま質問の嵐を浴びせることなったのだ。ただでさえ話すことの苦手なノダケンは30分にも及ぶ尋問のような責め苦から解放される方法を知らなかった。


それでも、武部の姉の矛先がノダケンに向かったことで、山野紗季と川合智子は次の競技開始までの時間をゆっくりと使うことができるようになった。彼女に興味いっぱいの野田タクと、三番目の姉が同級生だった中川健太郎の三人で武部美由起の相手をしていると、沼田先生がやって来てその話に加わった。彼女は沼田先生に授業でお世話になったのだとまた長い話をし始めた。そして途中で大森先生の話題になると、彼女は大きな目をさらに大きく見開いてそれまで以上の強烈に速いピッチで喋りまくるのだった。


そのタイミングで、武部は自分の役目は終わったとばかりに山野紗季と川合智子とともに昼食を取り始めた。その後、川合智子には走高跳予選の映像を見せながら、いつも以上に縦軸の回転がうまくいっていることを強調している。槍投げに向かう山野紗季には練習中の映像を見せながらイメージトレーニングに役立てようとしている。武部はただ単に記録を残すカメラマンではなく、技術確認のためのスタッフの役目をもこなしている。


槍投げが14時40分から始まった。クロスステップをイメージできるようになっていた山野紗季は、全体で10番目になる32m12㎝を投げて、31m00㎝の山際選手よりもわずかながら高い得点を獲得した。初めて彼女よりも良い得点を挙げた山野紗季の表情を武部裕也は逃すことなくカメラに収めていた。日ごろ山野紗季が見せることのないこの表情を捉えた映像は、札幌に帰ってから陸上部員たちに大きな反響を及ぼすことになり、武部のカメラマンとしての優秀さがまた一つ上積みされて評価されることになった。


川合智子の走高跳決勝には14人が勝ち残っていた。168㎝をクリアーした11人と165㎝を一回目でクリアーした3人でおこなわれている。実は予選で165㎝をクリアーした選手は全部で14人もいたのだ。やはり一回目の跳躍で成功するかどうかが大きな分かれ道になっていた。短距離走だと同タイムながら着差ありの場合と同じように、ほんのわずかな差が結果として大きく違いが出るのは同じなのだった。


最初の高さは164㎝。練習の162㎝の段階で失敗する選手が何人もいた。自分の記録に近い高さを常に一回で跳べるかどうかが本当の力の差だ。川合智子は予選の時からの好調を維持していた。決勝だからといって変に力み過ぎることもなく164㎝を成功し、次の167㎝もそのままのリズムを維持出来ていたので、一回目の試技で成功させることができた。今日は一度もバーを落としていない。その感覚を大切にして次の高さに臨もう考えていた。


時間は16時を回った。それでも、真夏の日差しはまだまだその強烈な日差しを緩めようとしていなかった。


167㎝までで5人が脱落した。残りは9人。8人までが入賞になるこの大会では表彰台にも8人まで上がることができる。次の170㎝こそ何回目に成功できるかが順位に大きくかかわってくるはずだ。先に跳んだ二人がきれいにバーを越え、三人目の選手は踏み切れずにバーを手でつかんでマットを駆け上がった。


川合智子の一回目。自己記録を越える高さなったことを頭の中では誇りに思っていた。初めての全国大会に出場し、強豪ばかりの中で自己記録に挑戦しようとしている自分を自分自身で誇らしく思えたのだ。


ただ「170」という数字に負けていた。自分の頭上を跳べるようになることをずっと願ってきた。それができて初めて「高跳び」「High jump」の選手と言えるのだと沼田先生に言われた言葉をずっと目標にしてきて、函館でそれが実現できた。そこで自分にも「ハイジャンパー」としての自信が生まれたのは間違いなかった。ところが169㎝と170㎝のたった1センチの違いは物理的な長さや高さの違いではなく、数字の持つイメージが大きな壁となって立ちはだかっていたのだ。


踏切り位置が遠すぎるように思えた。両腕振り込みから真上に跳びあがれるのが大きな特徴だったのに、この時にはバー方向に流れてしまい、体が上がり切る前にバーを肩で落としてしまった。「170㎝」という意識が体に余計な力を使わせてしまった。


一回目でこの高さを成功できたのは四人。二回目、前の選手が成功した。バーが大きく揺れていても最後まで落ちることなくスタンドにかかったままだった。この選手はランキング三位で174㎝の記録を持っている愛知の高校三年生だ。川合智子の二回目は惜しい跳躍になってしまった。体はじゅうぶん越えていたのに踵をわずかに引っかけ、バーを落としてしまった。それでも、自分でしっかりそのタイミングの早さに気づいていたので次の跳躍では成功できそうな感覚があった。まだ、まだいける。


「わー、おしいー!」

ミーさんの誰よりも通る甲高い声が響いた。

「いけるいける!」

野田タクの応援団長のような声援がしっかり聞こえていた。

スタンドの最前列で南ヶ丘と清嶺高校のメンバーが一段となって応援してくれていた。


二回目までに6人の選手が成功し、三回目に挑んだ三人もみなこの高さをクリアーした。川合智子の三回目は前回のタイミングの早さをしっかりと修正しきれていた。さすがに全国大会の決勝だけあって、残っていた9人全員が170㎝の大台を成功したのだ。そして川合智子はまた自己記録を更新したことになる。


170㎝を越える高さになるとさすがにみんな限界に近い辺りに挑んでいるので、力のある選手であっても常に成功させることは難しい。次の高さを越えることができたのは三人だけだった。川合智子と他の6人はもうそれ以上跳ぶことはできなかった。173㎝のバーは見るからに自分の背丈より上に位置していた。踏切位置を確認しに近づいたときバーが見上げる位置にあることに気づいた。それは今までにはない感覚だった。もしかすると、その時点で跳べないかもしれないという意識が、自分の頭の中で出来上がっていたかもしれない。


優勝したのはランキング二位でやって来ていた福岡の高橋選手で1m76㎝を唯一人成功させた。身長が川合智子と同じくらいの彼女は助走スピードはそんなに速くはないのに、踏切前三歩のリズムが独特ですばやい動きだった。そして身長のわりに手足が長く、何よりその体の細さが目につく選手だった。腕も脚も筋肉以外のものはなにも存在しないようにさえ感じさせるほどだ。野田タクもそれに近いので、きっとこの選手は40キロ台の体重しかないに違いなかった。


川合智子は170㎝を三回目に成功した三人の中では失敗回数が一番少なかったので全体の7番目になった。170㎝を二回目で成功した三人が同記録の四位二人と六位ということになり次が川合智子になる。8位以内の入賞が決定した。ランキングでは10番目だった彼女は7番目にまで上がったことになる。しかも一般を含めても170㎝を跳ぶ選手は全国でもそんなに多くないのだから、この徳島までやって来た全国大会の場で素晴らしい結果を出したと言っていい。


この結果に大いに喜び、さらに自分の発奮材料とした山野紗季は最後の800mに挑んでいる。6種目までの上位8位までが最終五組に組み込まれ、山野紗季はしっかりその組に入っている。ここまでの総合得点では5番目なのだ。17時30分に一組目がスタートした。徳島の空はまだ昼間の明るさを残して気温も30度をわずかに下回っただけだ。


速いペースで進んだ一周目から二周目になると先頭グループがかなりペースダウンしてしまった。三組目までは2分30秒台でゴールする選手がほとんどで20秒台は一人だけしかいなかった。ところが四組目になると、ランキング上位の選手が多く組み込まれているので、さすがに記録はアップしている。最後までペースが落ちずにこの組のトップは2分22秒でゴールした。


最終五組がスタートした。ここまで合計得点でトップの山際選手と彼女を追っている二番目三番目の選手たち三人が最初から飛ばしている。前の組の記録が引き金になったのだ。その三人に負けずに山野紗季は行けるところまで付いて行くことにした。800mはそんなに苦手意識はない。最後は気持ちだけで何とかなるはずだ。


ところが二周目になっても三人のペースは変わらず、二周目からはさらにスピードアップしたような走りになった。付いていけない。それ以上に最後の一週がこれほどつらい800m走になったのは初めてだった。二日間にわたる競技の疲労が蓄積していたのか、朝からずっと真夏の太陽に照らされ続けたせいなのか。バックストレッチの直線になってから全くスピードを上げることができなくなってしまった。それどころか呼吸が乱れ脚が前に出にくくなった。


上体を揺らしながら、大きく手を振って短距離走のように全力で走っているつもりでも、前にいる選手には全く追いつけそうもない。逆に何人かに抜かれても追いかけることができない。動きが止まりそうになるのを何とかこらえて手を、脚を、動かし続ける。絶対にこれ以上順位を落としたくない。ノダケンは脚の怪我があったのに最後まで走り切った。あと何秒か遅れていたら優勝できなかったところを全力出し切って走った。ノダケンは脚の痛さを乗り切ったんだから、私だって……。


山野紗季らしくない乱れたフォームの走りだった。歯を食いしばって、体中の力を振り絞って、ギリギリ、なんとか、本当にギリギリのところでゴールまでたどり着いた。


2分30秒45はこの組だけでも6番目、全体では14番目の記録になってしまった。二日間に渡る真夏の戦い。最後は本当にきつい種目だった。でも何とか走り切れた。この記録は687点で総合4789点となり800mの結果で7位にまで落ちてしまった。それでも8位までに入賞できたし、この記録は自己記録の更新だ。優勝した山際愛美は最後までトップ争いをし2分22秒97を記録した。彼女は789点を追加して合計5231点で優勝を決めた。


参加した選手全員そろっての記念写真。優勝した山際愛美さんをはじめとする入賞者と握手を交わした表彰式を終え、仲間のところへ戻った時にはゴール前の疲労感も薄れ、気持ちの高揚も少しずつ落ち着き始めていた。


「ヤマノー、すごいぞ7位入賞だ!」

野田タクが自分のことのようにはしゃいでいる。

「最後キツそうだったな。ばてた?」

ノダケンは自分と同じ状態を想像しているようだ。

「暑さかなー? 全然動けなかった……。やっぱり全国大会は、こんななんだよね!」

「でも、紗季ー、 入賞したんだよ! 全国大会だからね! すごいことだよー!」

「うん、智子と一緒の七位だよ! やったよね!」


「イヤーもう―、凄すぎるよー、あなたたち! 南ヶ丘がこんな生徒の集まりになってたなんて、もうシンジラレナーイ!!」

「それ、日ハムの、元監督の言葉」

「そう? でもね中川弟君、私たち卒業生にとってはねーぇ、こういうニュースに接することなんかめったにないのよーぉ。後輩が同じ大学に来ることはあるけどね、インターハイの全国大会で優勝しちゃうとか、何人も入賞しちゃうとか、そんなこと考えられないものー。ものすっごい嬉しいんだよー!! もうホント来てよかったわ! あなたたちが裕也君の友達だったことがホント、うれしいの! もう最高の夏休みだよー。ねえ裕也君。自慢していたこと本当だったものねー!!」


「えー、なに? 自慢してたって?」

「美由起! ホントにもう余計なこと言うなってば―!」

「武部、困ってる。」


「裕也君はねーぇ、『陸上部はすごいヤツらばっかりで、ファインダー覗くのが楽しみでしょうがねえ』って、こないだからパパやママみんなに自慢してたのー。だってさー、仕事でもないのに四国まで自腹でやってくるんだからねー、いくら一人旅が趣味だからって、不思議でしょう」

姉がしゃべりだしたら止められないことを嫌というほど知っている武部はもうあきらめ顔だ。

「今日見ててね、私もそう思うよ。トモちゃんがお姫様のように優雅にふるまってるだけじゃ無くなって、なんかさー、スポーツウーマンの強さが見えていたものね。私なんかがさーぁ、三つの時から知ってるトモちゃんじゃなくなってきたものねー。そりゃもー、裕也君だって興味深いよねー」


「あのー、川合さんはお姫様だったんですか?」

「そうよー、KKID SAPPORO企画の社長令嬢ですもの。トモちゃんはそこのお姫様。祥ちゃんはオテンバいっぱいなその妹。でね、私と裕也君はね、そのお屋敷の隣に住んでる幼馴染」

「あらららー、お嬢様なんですか? 祥子さんも、ねー。いやー、オテンバって言葉初めて聞いた」

「私なんかほら、こんな姿見ることできないでしょ普段は。こうやって陸上やってるときは別人だものー。やっぱり、時間かけてもここにやって来る価値あったもの。それにほら、山野さんだってスーパーウーマンの強さ発揮しているものね。見てて惚れ惚れするってやつ? 私なんかよくわかんないんだけど、一つ一つの動きがねー、すっごいシャープで見ごたえあるものホントに!」


「それって、武部が言ってるんですか?」

「いやー、裕也君はね、カメラマン的なもっと芸術的な言い方するんだけどね、私は直接的な言い方の方が伝わりやすいと思うから、ちょっと違った言い方してるよ。でも、裕也君が一日中カメラ構えているわけわかるよー。すっごい魅力的だものみんなー」

「あのー、中川もですか?」

「うん、中川弟君の走りは見てないけど、全国大会まで来たんでしょ、それだけで立派だよ。だって中川弟君も山野さんも南ヶ丘でトップ争いしてるわけでしょ、学力でも。……ああ、あなたもね、野田琢磨君ね。そんな人たちがここですごい活躍してるんでしょー、もう信じられないよー」


「へへ、なんか僕まで入れてもらっちゃいました。明日なんですけどねー」

「うんそうねー、明日は残念ながら来られないんだー。四国まで来たんでちょっとね、坊ちゃんの湯まで行くことになってるんだよねー」

「漱石だ!」

珍しく大きな声で言った健太郎は夏目漱石の作品だけはすべて読んでいる。

「でね、裕也君がいつも言ってるのはねノダケン君のこと」


武部の姉さんの話が速すぎて付いて行けなくなってきたノダケンは、背中を少し伸ばように身構えた。

「学校祭の歌の映像見てても周りの子たちと全然違う雰囲気だったからねー、裕也君に詳しく聞いたんだけどすごいよねー。だって裕也君が毎日迎えに行ってるんでしょ。もう、そんなこと考えられないもの。トモちゃんは知ってるはずだけど、裕也君ってそういう人じゃないものねー……」


川合智子が二度三度頷いた。

「ノダケン君の最後の走りをホテルで見せてもらったけどねー、やっぱり魅力あるものねー。ああいう姿ってやっぱり周りの人を引き付けるのよねー。どうしたって人間の感情ってそういうもんでしょ。そんでもって優勝しちゃったわけでしょう。わお!なんてこったーだよね。もうすごいを通り越しちゃったわよー。もうまったくねー、今まで南ヶ丘にいなかったタイプだよねー。こんなの絶対モテちゃうでしょうー!」

「そうなんですよ。一年生もそうだけど三年生の先輩たちにすっごい人気あるんですよ!」

山野紗季は自分自信が褒められたような表情でそう言った。

「だよねー! なーんか他の人たちが子供っぽく見えちゃうものねー」


女の子二人が無言でうなずいたところで上野悦子先生と清嶺高校の5人がやって来て、ますますそこだけが大盛り上がりになった。四基の照明灯が明かりを強める中、このスタジアムの中心のようになっったこの場所が数少なくなった観客の耳目を集めていた。


三人の女の子たち? が何やらこれから中心になっていきそうな雰囲気が……。

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