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第8話 恋するアップルパイ

カランコロン♪

ドアベルが鳴る。

木の香り。

コーヒーの香り。

どこか懐かしい空気。


やってしまった……。

思わず頭を抱える。


先日、バイト先の気になる先輩から

「親戚からたくさん送られてきたから良かったら」と

リンゴをいただいた。

そこまでは良かった。

なにを思ったのか、そのリンゴをフィリングにして

「これ、この間いただいたリンゴをフィリングにしてみました。よかったら」

と、渡してしまった。

なにがまずかったか。

それはあとから知ったことだが、先輩はかなり料理上手だということだ。

先輩は笑顔で「ありがとう」と受け取ってくれたけれど。

完全にやらかした……。


はぁ、とため息をつきながら頼んでいたコーヒーを飲む。

その時。

「ただいま、アップルパイが焼きあがりました」

女性店員がそう言いながら、アップルパイをワンホール持って奥の扉から入ってきた。

今の自分には追加ダメージでしかない。

奥のテーブル席の女性がアップルパイを注文している。


「どうせ渡すなら、アップルパイにすればよかった……」

思わずつぶやく。

どこかで、先輩に喜んでもらえると思って。

自分が料理ができるって知ってほしくて。


リンゴをもらった時に頭をよぎったのは、幼いころ母が作ってくれたアップルパイ。

単純に、リンゴを手にして「そうだ、フィリングを作ろう」と思ったのだ。


はぁ……コーヒー飲んだらもう出よう。

そう思っていると、スマホが震えてメッセージの着信を知らせる。

開くと、相手は『先輩』

そこには

『いただいたリンゴのフィリングでアップルパイをつくりました』

というメッセージと共に、美味しそうなアップルパイの写真が添付されていた。

続いて、メッセージ。

『よかったら、食べに来ない?』


……これは夢だろうか。

でもすぐに『行きます』と返信を入れる。

コーヒーをぐいっと飲み干す。

アップルパイの香ばしい香りが、店内に広がっている。

その、甘酸っぱい香りはさっきよりも少しだけ、特別に感じた。

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