第4話 嘘つきな大学生とたまごサンド
カランコロン♪
ドアベルが鳴る。
木の香り。
コーヒーの香り。
どこか懐かしい空気。
『嘘つき』
彼女は僕にそう言って睨んだ。
なんのことだったのか、その時には全く分からなかったけど。
後から知った。
彼女を手に入れるために、別の男があることないこと嘘を吹き込んでいたんだと。
だけどもう、正直どうでもいい。
幼馴染に指定されたカフェの片隅で、ぼーっと座る。
窓からは花壇に花が咲いているのが、よく見える。
カランコロン♪と音がして、「待ち合わせです」という声。
そしてほどなくして、僕の前に幼馴染が座った。
「ひっどい顔」
幼馴染は僕の顔を見て笑う。
「どうせここ数日何も食べてないんでしょ?」
幼馴染が、茶色い革張りのメニューを広げた。
「あ、これいいじゃん。『たまごサンド』」
「腹減ってねぇよ」
「いいから食べるの。とりあえず一皿頼んで半分こしよ!」
「腹減ってねぇって」
「ひと口でもいいから食べなさいよ!」
「…」
昔から変わらない強引さで、幼馴染は店員を呼ぶ。
「すいません!紅茶のホットを2人分と、たまごサンドを一皿ください」
「かしこまりました」
すらりとした長身の男性店員は、会釈をするとカウンターのほうへ向かった。
あいつの新しい彼氏も背が高いらしい。
ぼんやりと、そんなことを思う。
「お待たせいたしました」
ほどなくして、目の前に置かれる紅茶とたまごサンド。
白い皿の上に、三角形に切られたサンドイッチが4切れ。
白いパンにたっぷりはさまった、たまごフィリング。
「いただきます」
ぱちん、と手を合わせて幼馴染がたまごサンドに手を伸ばす。
「ほら、アンタも!」
無理やり一切れ持たされた。
「ん~!美味しいっ!」
早速ひと口かじった幼馴染が、笑う。
仕方なく、ひと口かじる。
「…うまい」
「だよね!」
そういってパクパクと、一切れあっという間に食べてしまった。
「そういえばさ」
「何?」
「昔、あったよね。『たまごサンド』事件」
「あぁ…あったな」
「アンタが、たまごサンドのたまごだけぜ~んぶ食べちゃってさ」
「幼稚園の時の話だろ?」
「そうそう!あれ、確かアンタの家でパーティーやった時だよね?」
「あぁ、そうだったかも。母さんたちが用意してる間に、サンドイッチに挟むたまごを俺が全部食っちゃったやつ」
「それで口の周り、たまごだらけなくせに『たまごさん、ねこちゃんがぜんぶたべちゃったよ~』とか言って」
「お前も『たまごサンド食べたかったのに~』って大泣きしてたな」
「懐かし」
「懐かしいな」
「猫ちゃんが全部食べちゃったとか、しょうもないウソ」
「しょうもないとか言うな」
「嘘つきだもんね」
いたずらっぽく、幼馴染が笑う。
「…嘘つきじゃねぇよ」
吐き捨てるように言うと、幼馴染は笑うのをやめて僕の顔をじっと見た。
「知ってる。アンタは嘘つけるほど器用じゃない」
そういって、もう一切れのサンドイッチに手を伸ばす。
「ほら、あとひとつずつ。食べちゃお」
差し出されたサンドイッチに手を伸ばす。
「ねぇ、これ食べたらさ。行きたいとこ、あるんだけど付き合ってよ」
「えぇ、めんどくせぇ」
「いいじゃん、どうせ何にも用事ないんでしょ」
ぱくり、とサンドイッチにかぶりつく。
「しかたねぇなぁ」
昔から変わらない強引さで、この後の予定も勝手に決める。
思わず笑いがこぼれた。
外の花壇には、色とりどりの花が風に揺れていた。




