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第2話 はじめての転職と深煎りブレンド

カランコロン♪

ドアベルが鳴る。

木の香り。

コーヒーの香り。

どこか懐かしい空気。


手に入れたパンフレットをじっくり見たくて、適当に目についたカフェに入ってカウンターの一番端に座った。


「いらっしゃいませ」


カウンターの中から男性が声をかけてきた。


「ええと…ホットを」


「いくつか種類があるのですが」


男性は、メニューを開いて指をさす。

【コーヒー】と書かれたメニューの下には

ずらりと並んだコーヒーの名前と思しきものたち。


「…おすすめはなんでしょうか?」


「そうですね。こちらの『深煎りブレンド』などはいかがでしょうか?」


「じゃぁ、それで」


「かしこまりました」


ぱたん、とメニューを閉じると、男性はコーヒーミルに豆を入れる。


慣れた手つきでゴロゴロと音をさせながら、豆を挽いている。


そんなに大きい音ではないはずなのに。

静かな店内にミルの音が響く。


ふと思い出してカバンの中からパンフレットを出す。

それは昔からやりたかった業種の会社のパンフレットだ。


運がいいのか悪いのか。


就職活動をしていた頃には、やりたかった会社の求人はなかった。

だから今の会社に入って、それなりに頑張ってきた。

ようやく昇進の話も出始めた、その矢先だった。


カウンターの中では、いつの間にかこぽこぽと微かな音をたてながら、コーヒーが淹れられていた。


ふわ、とコーヒーの香りが強くなる。


「お待たせいたしました」


ことり、とコーヒーカップが目の前に置かれる。

香ばしくて、甘いような香り。


「深煎りブレンドです。

 コクと苦味を感じられますが、酸味は控えめですのでミルクを入れても美味しいですよ」

そう言って、隣にそっとミルクピッチャーも添えられた。


「ごゆっくりどうぞ」


「いただきます」


そういって、手を伸ばす。


まずはブラックでひと口。

そういえば、就職したころはコーヒーをブラックで飲めなかったな。


こく、と喉を通っていく熱さに新人の頃を思い出す。


あの頃は、半分やけくそだった気がする。

やりたい仕事ではない。

でもやらなきゃいけない。


そんな時、今は転職してもういない先輩が言っていたっけ。


『お前さ、やりたくない仕事かもしれないけど。

目の前にあることの中から、面白さを探してみろよ。

わからなかったらとりあえず、動いてみればいいんだよ。

そのあと考えりゃいいと思うぜ』


そういって、笑っていた。


ちら、と横に置いたパンフレットに目を向ける。


ごくり。

少し冷めてきたコーヒーの最後のひと口を飲み込む。

苦味の奥に甘さを感じた気がした。


よし。


かちゃ、とカップをソーサーに置く。


パンフレットをカバンにしまう。


「ごちそうさまでした」


そう言うと、目の前の男性がにっこりと微笑んだ。

カランコロン♪

ドアベルが鳴る。

来た時とはどこか街の景色が違って見える。

スマホをポケットから取り出す。

「わからなかったらとりあえず動いてみる」

そう自分に言い聞かせて、スマホの画面をタップした。


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