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第1話 悩める主婦へ贈るプリン

カランコロン♪

ドアベルが鳴る。

木の香り。

コーヒーの香り。

どこか懐かしい空気。


「…はぁ」

店内の一番奥。

窓際の4人掛けのテーブルの最奥で、私は大きなため息をついた。


いや、つきたくてついたわけじゃない。

自然に出てきてしまったのだ。


「もう少しで、お迎えの時間か…」


時計をちらりと見て思わずつぶやく。


毎日が戦争。

本当に、その通り。


今日だってそうだ。


朝起きて、朝食とお弁当を準備しながら

旦那と子どもを起こす。


朝ごはんを食べさせながら、保育園の準備。

その間に家じゅうのごみをまとめて玄関に置いておく。


その隙に、洗濯機から洗濯物を出して干し

立ちながら朝ごはんをつまみ

自分も仕事へ行くためのメイクや準備をする。


そんな私の背中に、のんきな声が飛ぶ。

「俺のワイシャツ知らない?」

と、コーヒー片手に言う旦那に

「出してあるでしょ!目の前!」というと

「違う、青いほうの」

と言われ。

「クローゼットに入ってるでしょ!」

というと

「トイレ行ってくるから出しといて」

と言われる。


子どもは、仕方ない。

まだまだ手がかかるのだから。


だけど、自分の準備にしか時間を使っていない旦那は

なぜ、自分のことすらしないのだろう?


……はぁ。

思い出しただけで、またため息がこぼれる。


いつからだろう。

自分より、子どもや旦那を優先するようになったのは。


その時。


「お待たせいたしました」


ことり、と目の前にお皿が置かれる。


目の前には、プリン。


「え?」


驚いて思わず店員さんを見ると、女性の店員さんは柔らかい微笑みを浮かべて言った。

「どうかされましたか?」


「私、頼んでましたっけ?」


「はい、ご注文されてましたよ」


「…あ、そうか。そうでした」


「ごゆっくりお召し上がりください」


そう言って、店員さんはカウンターのほうへ向かった。


私はお皿を見る。


真っ白なお皿に、固めの手作りプリン。

卵色のプリンに、茶色くつやっとしたカラメルが輝いていて。

小さく添えられたホイップクリームに、ミントの葉とサクランボ。


「…懐かしい」


思わず、小さく声が出た。


そういえば、小さかったころ、お母さんが手作りプリン、作ってくれたっけ。

『今日のおやつにプリン作ったわよ』

そう言われたらうれしくて。


そういえば、うちの子もプリン、好きだよなぁ。

最近、食べさせてないかも。


結局、こんなひとりの時間でも我が子の好きなものを頼んでいたなんて。


そっと、スプーンを手に取る。


プリンをひとすくい。


「…おいしい」


とろけるわけではない、固めのプリンは、素朴で優しい味。


今からプリンは作れない。

お迎えしたあと、一緒にプリンを買って帰ろうかな。


不思議。


朝の忙しい時間の中では、ひとりになりたいなんて思っていたのに。

こうしてプリンを食べていると、思い出されるのは

「ママ!プリンおいしいねぇ~」

と笑う子どもなのだ。


うん、やっぱり、お迎えに行って一緒にプリンを買って帰ろう。

『今日のおやつプリンなの?』

そう言って目を輝かせる我が子を思い浮かべる。

あの頃の私も同じ顔をしていたのかもしれない。

お母さんもこんな気持ちだったのかな…。


お皿はすっかりきれいになった。


よし、行こう。


席を立つ。


プリンは私と子どものおやつでいい。

2人だけのご褒美おやつ。


帰るために歩き出したその一歩は、少しだけ軽かった。

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