第12話 ハロウィンのクッキー
カランコロン♪
ドアベルが鳴る。
木の香り。
コーヒーの香り。
どこか懐かしい空気。
「トリックオアトリート!」
今日のひだまりカフェは、子どもたちの出入りが激しい。
ドアベルがひっきりなしに鳴っている。
「ハッピーハロウィン!」
子どもの声が響くたびに、魔女の帽子をかぶったオーナーの陽菜と、猫耳のカチューシャをつけた店員の灯里が、子どもたちに小袋にラッピングされたクッキーを渡していた。
「にぎやかだなぁ」
カウンターでコーヒーを飲んでいた男が呟く。
「すいません、うるさくて」
バリスタの朔が、カウンターの中から謝る。
「いやいや、子どもばっかり来るから、なんか意外だなと思って」
「ああ、ハロウィンになるとこの店、昔から近所の子どもたちが訪ねてくるんです」
「へぇ、昔から?」
「そうなんです。先代オーナーが新しいもの好きで、ハロウィンを知って、子どもたちにクッキーを配り始めたんですよ」
朔がカップを拭きながら言う。
「へぇ、斬新なオーナーさんだったんだね」
男はコーヒーをひと口飲んで呟いた。
「ええ、面白いことが好きな人でした」
そう言って、朔は懐かしそうに笑う。
「ですので、このあたりの子どもたちにはもう『いつものこと』なんですよ。毎年、来る人数が増えてますね」
こと……とカップを置いて、朔は男の前にそっと小袋に入れられたクッキーを差し出す。
「よろしければ、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
クッキーは、ジャックオーランタンとおばけの形。
「可愛いね」
「ありがとうございます」
「さっそく、コーヒーのお供にいただいてもいいかい?」
「ぜひどうぞ」
小袋から、そっとクッキーをひとつ、つまみ出す。
サク……という軽い歯触りと、ホロホロと崩れる食感。
そして、優しい甘さ。
「なんだか懐かしいね。甘すぎなくて、大人にもぴったりだ」
「ありがとうございます」
その時、小袋の後ろに貼られているシールに気付いた。
『ハッピーハロウィン!素敵な時間をお過ごしください!』
手書きのメッセージが書いてある。
「こういうの、大人でもちょっともらうと嬉しいね」
ははっと、男は笑う。
「なんだか癒されたよ。ごちそうさま」
「ありがとうございました」
男は、子どもたちにぶつからないようドアを抜けて外に出る。
向こうから、仮装をした子どもが3人、駆けてくるのが見えた。




