第11話 ひだまりブレンドの作り方
カランコロン♪
ドアベルが鳴る。
木の香り。
コーヒーの香り。
どこか懐かしい空気。
いつぶりだろう、この店に訪れたのは。
絵本のような可愛らしい外観。
中は昔ながらの喫茶店。
いや、確かに昔来たときは『喫茶店』だった気がする。
「あの」
「はい」
カウンターの中にいた男性に声をかけてみる。
「以前、こちらは喫茶店じゃなかったですか?」
「名前が変わっただけで中身は変わっていませんよ」
「そうなんですか?」
「はい、オーナーが代替わりしてまして」
「なるほど」
確かに、昔訪れたときは年配の男性がカウンターにいた。
今はその姿はなく、代わりにこの背の高い男性が立っていた。
「ご注文おきまりですか?」
「あ……えぇと……昔飲んだコーヒーを飲みたいのだけど」
ぱら、と手元にあったレザーのメニューを開く。
【コーヒー】と書かれたそこには、たくさんの名前が並んでいた。
「こんなにあったかねぇ?」
「少しずつ、増えてしまってるんですよね」
男性が苦笑しながら教えてくれる。
「先代も、現オーナーも美味しかったらメニューに入れてしまうので」
「そうか……久しぶりにこのあたりに来たから、昔の味をと思ったのだけど」
メニューを見ているが、昔飲んだものが何だったのか思い出せない。
「このあたりにお住まいだったんですか?」
「あぁ、だいぶ昔だけどね」
「そうですか」
う~ん……と男性がつぶやく。
「差し支えなければ、昔飲んだコーヒーのお味を教えていただけますでしょうか」
「あぁ……確か……苦味はそんなになくて、飲みやすかった気がする」
「なるほど」
「香りは良くて……甘い感じの香りかな」
そうして、記憶を頼りに思い出したコーヒーの味を伝えていくと、
男性はにっこりと微笑んだ。
「たぶん、それは『ひだまりブレンド』ですね」
「『ひだまりブレンド』?」
「先代が、お客様の好みに合わせてその場でブレンドしていたんです」
「あぁ、そういえば好みは何か聞かれたかもしれん」
「今はそのサービスはやってないんですよ、大変なので」
「まぁ、そうだよな」
「ですが、今回は特別にお客様に『ひだまりブレンド』をご提供します」
「え?いいんですか?」
「もちろんです」
そう言うと、男性はいくつかのコーヒー豆を手際よく混ぜ始めた。
『私、このコーヒーなら飲めるわ』
あの日。
ここで出されたコーヒーをひと口飲んで、彼女はそうやって笑っていた。
そうだ、思い出した。
コーヒーが苦手だった彼女が、唯一飲めたコーヒー。
彼女は、今頃どうしているのだろうか。
まだ、この街に住んでいるのだろうか。
「お待たせいたしました」
コーヒーの香りが強くなって、顔を上げた。
「お客様の思い出の味に近いと良いのですが」
そう言って、男性はそっとコーヒーカップを置いた。
「ありがとう」
そっと、カップを持ち上げてひと口飲んでみる。
「……うん、美味いよ。コーヒーが苦手でも飲めそうな味だ」
「それは良かったです」
ふと、外を見る。
あの向かいの公園は、あんなに大きな樹が立っていたのだろうか。




