暁編あらすじと解説文
〇「暁編」「終章」あらすじ
ルキシルで気ままにレキが修練場を開こうとしている頃、リィアではキオンによる「ティロ探し」が行われていた。その中で聴取を受けたシャスタはティロ・キアンの正体にある程度の目星をつける。そしてレキ・ラブルがエディアの対岸にあるルキシルにいると突き止めたシャスタはシェールに現場へ急行することを告げ、ついでに「発起人ライラ」へ取り次いで欲しいと言う。何故か渋るシェールから無理矢理ライラの居場所を聞き、シャスタは発起人ライラと再会する。そしてライラもレキ探しに同行することになり、二人はルキシル行きの船に乗る。
シャスタとライラはひと芝居打って、ザファ親分からレキの身元を預かることに成功する。二人に見つかってパニックに陥るレキをシャスタは強引に船に乗せ、エディアに連れて帰る。久しぶりの故郷に涙するレキの心理を知ってか知らずか、シャスタは「デイノ・カランの闘技場を見たい」など観光気分を醸し出す。深夜、逃亡しようとするレキをシャスタは呼び止め、誰も来ない広い場所で話したいという。レキはシャスタと共に闘技場の柵を跳び越え、二十年ぶりに中に入った。
闘技場内で、シャスタはレキに「オルド攻略時の命令違反」についての真相と推測を話して聞かせた。オルド攻略には特務も関わっていて、味方にも秘密裏にゲリラ戦法をとることでそれぞれの士気を操作する作戦であったことが告げられた。そして様々な要因が重なりシンダー連隊長はレキを本物の特務と勘違いした結果が命令違反なのではないかとシャスタは推測した。あまりの理不尽にレキは激昂し、そして自身がキアン姓であったことも要因のひとつであったことに悲しさを覚えた。レキの感情に隙が見えたことでシャスタが「なあジェイド」とカマをかけると、闘技場内で心が昔に戻っていたレキは思わず返事をしてしまう。
その後自分はジェイドではないとレキは慌てて否定するが、シャスタにより様々な矛盾を突きつけられて降参し、自分がジェイドであることを認める。自棄になったレキにシャスタは「土産」と称して、古い発注書の控えを渡す。それは災禍の数日前、エディア港に大量の硝酸アンモニウムを納品するというものであった。それは特務の指示で発注された可能性が高く、シャスタは特務が災禍を引き起こした可能性を提示した。更にいくつかの事情により、おそらく特務が想定した以上の被害が出てしまったために資料の破棄と捏造、そしてエディア王家周辺の処刑の断行があったのではないかと推測した。既に当時を証明するものは発注書の控えしかなく、「一番持っているのに相応しい人物」としてレキは災禍の証拠をシャスタから受け取る。
それから、レキは何故シャスタがここまで自分のために行動するのか疑問に思う。レキの過去を暴いた代わりに、シャスタは自分の過去を打ち明ける。父母の顔を知らず聖獅子騎士団という過激派に少年兵として育てられたシャスタは、災禍があった後に拷問紛いの刑罰を受けたこと、そこから逃げ出したが育った思想と一般社会のギャップに苦しんだ結果露悪に振る舞っていたことを告げられる。妻と子がいる今でも存在を全否定された後遺症に苦しんでいることを告白するシャスタに、レキは「手合わせをしよう」と持ちかける。闘技場内に残存していた模擬刀でシャスタ手合わせをしながら、レキはかつてのジェイドに戻れないか考える。
翌日、レキはライラに真実を告げようと港へ誘った。道中、ライラは災禍の日に自身が避難できた経緯などをレキに告げる。レキはアルセイドとよく来た展望台にライラを連れて行き、自分の話をしようと試みる。その前にライラはレキに「何故自分の元を去ったのか」と問いただし、レキは正直に「薬のせい」と答えた。呆れるライラにレキは思い切って自身の名前を告げると、ライラは自分に遠慮をして名乗れなかったレキを受け入れると言う。「自分に戻るために自分と相談をしなければならない」と思ったレキはライラに一晩自分でじっくり考えたいと申し出るが、今までのことを踏まえて却下される。レキはライラに信じてもらうため、姉の指輪をライラに預けるという。ライラは彼の強固な覚悟を受け取り、指輪を受け取らずに一晩の猶予を与えた。展望台からレキが立ち去った後、ライラが帰ろうとしたところでセラスとフォルスに遭遇する。レキを探していた二人に顛末を話すと、二人は不安になる。しかしライラはレキを信じているとして「大丈夫」と告げ、展望台を後にする。
一方、姉が埋められている廃屋へひとり戻ってきたレキは「姉」と語りながら自分のことを整理していく。そしてもう逃げないために「薬の類いは断つ」「頭の中の友達との会話を止める」ことを決める。そこで、姉の墓の前で最後の「自分会議」を開く。一晩中「友達」と「姉」と一緒に過ごしたレキは、明け方になりライラの元へ戻る決意をする。それは「友達」との別れであった。次第に明るくなる空を見上げながら、レキは「友達」と「姉」に別れを告げて、ライラとシャスタの待つエディアの街へ帰っていった。
○キャラ概要
レキ/ジェイド/ティロ
バッドエンドの事件編から正規ルートに入れた主人公。このルートへの分岐は「ライラと両思い(?)になる」「レリミアから謝罪を受ける」が必要になります。ライラはわかりやすいフラグですが、意外とレリミアから「私の命でもって、もう誰も恨まないで」と言われたことが彼の心に大きな影響を与えています。この二つがないと本格的に誰も信じられなくなり、事件編の結末に繋がります。しかし今回はザファ親分のところに留まり、それなりに信頼を得て成功体験を積んだところでシャスタがやってきます。終章ではこれから前を向く、と本人は決断していますが、さてどうなるでしょうね……?
ライラ
久しぶりに登場しました赤髪の彼女。何だかんだ言っても、レキの安否を掛け値なく心配してくれる貴重な存在です。彼が生きている、とわかればルキシルまで行くでしょう。そして貴重なレキの心の拠り所でもあります。彼女が「死んだ姉の代わり」になるのか、それともそれ以上の存在になるのか。それは第三部でのお楽しみです。
シャスタ
ライラと同じくレキを心配してくれる貴重な存在。今回で彼の背景等は全て語られました。彼もライラと同じく「気に入らなかった仲間を裏切った」経験を持ち、そしてジェイドのように「今まで育ってきた常識が通用しない世界」で育つことを課されていました。彼の場合は「32番のティロ」に自身を重ねることで厳しい世界を生き延びてきた自覚があるので、レキ本人より彼に対する思い入れが激しいです。ちなみにレキは特務予備隊編で「アルセイドの代わりだと思っていた」と吐露しているのでお互い様です。
○内容解説
※解説上「ジェイド/ティロ/レキ」は基本的にレキに統一しますが、特に呼び名が必要なところはその限りではありません。
《第1話》
「名前さえわかれば、調べるのはそんなに難しいことではないからな」
→特務の調査能力があれば、フルネームと直近の足取りがわかっているので見つけるのはそれほど難しくなかったと思います。ただ、事件編の場合は自分を許せないままザファ親分の元に留まることが出来ずにすぐ逃げ出していたと思われます。そうして人間関係を全て断ち切った世捨て人状態が事件編のラストです。
「ライラの名前を出されて、シェールはシャスタから目を反らした」
→事件編だとシェールはフォルスとライラの接触を強い勢いで拒んでいました。今回も何故かライラとシャスタを遠ざけようとしました。シャスタではありませんが、明らかに何かを隠しています。それが明らかになるのは、第三部です。
「ほら、犬を飼っていそうだろう?」
→シャスタは事件編で明らかになった一連の矛盾から彼が何者であったか推察し、資料を当たることでドンピシャな正解に辿り着いたわけです。それもこれもこの後の推理披露で明らかになるとおり、予備隊で彼のことをずっと見ていたからわかったことです。なお事件編では本人の所在が明らかにならなかったので、この推理がシェールに明かされることはありませんでした。
「俺はルキシルの元外交官補佐だぞ」
→忘れてる人も多いと思いますが、オルド王家の血を引く彼が助かったのはオルド侵攻時に国外にいたからというのが大きな理由です。他にも理由があるのですが、一番はやはり物理的に離れていたというのがあります。何故彼が国外にいたのか、という話になると長い話になるので第三部を待っていてください。
「俺は王子じゃない。父親が国王だっただけだ」
→要は嫡出子ではないみたいなニュアンスなのですが、彼の場合は更に複雑な事情が絡まってくるのでそう単純な話にはなりません。少なくとも彼は自分を認知しなかった以上のものすごい憎悪をため込んでいるようです。
「君は何故、発起人ライラを名乗っているんだ?」
→何故これをシャスタが確かめに来たのかというと、ジェイドの姉であるライラとどう繋がりがあるのか確認するためです。ただの偶然、であればジェイドとティロを結びつけることができません。しかしシャスタは予備隊時代に彼のふざけたネーミングセンスを目の当たりにしているので、何らかの意図があって姉の名前を使っていると考えた方が自然だと思っています。
「現段階では納得できないことがあまりにも多すぎた」
→この時点でシャスタは「反乱の黒幕であるジェイドが姉の名前を女に名乗らせた」という仮説を立てていました。何故なら、ライラ本人に関して彼女が反乱を指揮できるほどの能力がないとシャスタは断定しています。つまり、シャスタは裏で反乱の指揮をレキがとっていたと仮定して詰め寄る気でいましたが、「反乱を望んでいた」というライラの言葉でレキ黒幕説が揺らいだといったところです。
「私は、誰でもいいのよ。名前が必要なら、好きに呼んでいいわ」
→最後まで読めば何故彼女がこんなことを言うのかわかるようになっています。これが彼女の一貫したスタイルなので、登場時に彼女の呼び名が違う違和感が払拭されます。つまり、実質彼女は「名無し」であります。
「もし二人が結びついたとして、どのような家庭を築くのかを想像して」
→最後まで読めばそうなるということは書いてあるのですが、第三部はぶっちゃけ彼らが一緒に真っ当に暮らしたらどうなるか、ということをある程度突き詰めて書く予定なので楽しみにしていてください。
「でも迎えに行くなら俺じゃないとダメだろう」
→実際に彼と対峙して、もし彼が抵抗したり言うことを聞かなかった場合に実力行使できる存在はかなり限られています。ノットやリード・シクティスが破れているので、ただ強いだけでは制圧できません。ここは立てこもり犯のお母さんを呼んでくる心理で、シャスタ(及びライラ)が最適になります。事件編での結末は、それが実らなかった形でもあります。
「もし特務にライラがいたらかなり優秀だったのでは」
→知識や思想はありませんが、基本的にライラはかなり頭の切れる人物です。何より他人の懐に潜り込む能力は作中で一番です。その背景には彼女の過酷な生い立ちがあるのですが、そうでなくても潜在能力は高い女性です。もしエディアの港で彼女が捕まっていたら、おそらく予備隊に放り込まれていたでしょう。
「最上級の正装」
→どこかの貸衣装屋で急遽調達したと思われる服装です。上流階級にも入り込めるように仕込まれているシャスタと違ってどうしてライラがすんなりそういう服を着こなせているのかというところに気がつくと闇がちょっと深くなります。
「あれはダイア・ラコスの息子です」
→シャスタの考える最大限に嫌な出自です。本人がどうこうではなく、その血筋を持っていることで周囲が勝手にざわめき始めるような厄介なもの、というとこの辺が妥当だったのでしょう。現代日本で例えると「迷惑なカルト宗教教祖の息子」みたいなものだと思ってください。
《第2話》
「基本飯付きだし、いいかなーって」
→自棄になった人間が何も考えていない様子です。飯がもらえるから人殺しもするくらいの倫理崩壊が進んでいます。そのくらいの人間の方がザファ親分も扱いやすかったと思います。
「もちろん、君を忘れたことはなかったよ」
→これは本音を言うとめちゃくちゃ怒られる奴なのですが、正確に言うと「姉のことはひとときも忘れたことはない、ついでに姉の名前をあげてしまった女も忘れていない」という最悪の奴なので彼を擁護してはいけません。
「先生がそんな酷いことをする人だなんて思ってませんでした」
→何を言ったのかは不明ですが、婚約者を裏切った以上に女性関係で何かとんでもない情報が付与されたのだと思います。他にも何人か女を捨てたとか、女に売春させて金儲けしていたとか……彷徨編などで彼がやってきたことそのままですね。
「たまには手紙をくださいね」
→上級騎士編でリストロの机を見てレキが僻んでいるシーンがあるのですが、一番辛かったのは「手紙を書く相手がいない」ということでした。人間関係をリセットしたりされたりしてここまで来たので、ようやく「継続して付き合える関係」ができたことが彼は何よりも嬉しかったのだと思います。そしてリソスとやりとりをするかどうかは、第三部で書かれるかもしれません。
「だって船、動くじゃないか!」
→この謎の「乗り物嫌い」に関してはこの後シャスタが推測している通り、「災禍後のエディアから何らかの酷い目に合わされて無理矢理ビスキに連れて行かれた」と考えると辻褄が合います。それじゃあ誰が、何のためにというのはこれまで出ている情報から何となくわかると思います。この推測に辿り着いた者は何故か明言を避けている、そしてフォルスはそれを理解しない辺りから察してほしいと思います。この辺については第三部で詳しくやります。
「犬の名前くらいで何がわかるんだ」
→実はその犬の名前が最大のキーワードになっているのですが、知らぬは本人ばかりなり、です。そもそもこの話の一番最初のエピソードが「犬に名前をつける」ことから始まっているので……。
「これから家に向かうと言うのに今更どこに帰るんだろう」
→最高に矛盾している心持ちなのですが、この場合の「帰りたい」はトライト家で胃に穴を開けていた頃と同じ心境です。過度のストレスがかかると彼は「帰りたい」と思うようです。
「大きな港があるところには坂があるんだろう」
→日本だと長崎や横浜に函館、世界だとサンフランシスコやリスボンなど水深が深い地形は港にしやすく、「港町=坂が多い」というイメージはあります。ちなみにエディアの都市の想定イメージはイタリアのアマルフィ海岸で、あの斜面を走って上り下りしていたと考えてください。すごい運動量。
「この辺りを歩いている警備兵の服は皆青鼠色の、リィアのものであった」
→リィア王家は倒れましたが、現段階としてエディアは自治権を取り戻しただけで基本的に所属はリィア国のままです。そのため警備兵の隊服はリィアのものを使用しています。これはビスキもオルドも現状では同じ措置になっています。
「何故かシャスタがライラとこそこそ話している」
→後でわかるのですが、今夜一晩かけてレキから事情を聞き出すことの承諾を得ています。ライラに無断でレキを借りるというような惨い真似はしない、とても偉い奴です。
「無理だ……やっぱり逃げよう」
→彼のダメなところが最大限に詰まった台詞。ただ、リィアに帰ったらいろんな人に復讐編と叛逆編での一部始終を説明しろって言われているので逃げたくなる気持ちはよくわかります(作者所感)。
《第3話》
「絶対誰にも話が知られない場所」
→これは完全に裏話ですが、当初はルキシルでぶん殴った直後にその辺の倉庫に連れ込んでオルド攻略に関する話をする予定でした。ところが、このシチュエーションですとどこで誰が聞いているかわかりません。そこで「誰か来てもすぐにわかるように広い屋外で」「そもそも誰も来ないような場所はあるか」となったとき、闘技場に連れてきて話をするということに決まりました。割と後付けの設定です。
「戦闘状態で小隊からはぐれたのが、そんなにいけなかったのか!?」
→もし本部に帰って普通に小隊に戻っていたら、厳重注意くらいで済んだと思います。その時は敵を撃破した話を誰も信じてくれずにやはり敵前逃亡未遂ということで余計肩身の狭い思いをしたと思いますが……。
「泥棒と人殺しは事実だろう」
→ちなみに、シャスタは盗みはやらないですし任務以外では人殺しをしたことがありません。おそらく小銭を稼ぐ詐欺も恨みを募らせた挙げ句の殺人もしません。彼自身もいろいろとねじ曲がっていますが、その辺の倫理観は他の登場人物に比べてかなりマトモではあります。
「オルド攻略自体が結構無理のある作戦」
→ここで語られる内情はシャスタから見たものですが、基本的に客観的な出来事や事情が並んでいます。ヴァシロ国王の見解に関しては、後に彼の身内からもう少し詳しく話が聞ける予定です。
「予備隊での厳しい山岳訓練」
→実はあの山岳訓練自体がオルド攻略の布石だった、というわけなのですが山岳訓練を受けたレキがいたからフォルスは国外逃亡出来た、と考えると何がどこでどう繋がってくるのかわからないよね! という話です。
「俺たちはハーシアが人知れず活躍した、って思うことにした」
→実は随分と昔の下書きだとハーシアがオルド攻略時に生死不明というのは、作中のフレーバー要素として「昔の仲間は死んだよ」というくらいの意味でした。その段階ではハーシアのキャラも何もかもは一切決まっていなかったので、フレーバー要素でも書き出してみるというのは大切だと思います。こうして巡り巡って辻褄合わせにもなるので。
「つまり連隊長の勘違い」
→実際に、これが「命令違反」の本当のところです。もしハーシアが生存していれば撃破数が異様に多いことに気がついて「シンダーが隠し玉を持っている」ことを特務が察知したかもしれません。また、レキが当時真っ当な階級であれば「元気のある一般兵」くらいに思われて即刻小隊に戻されていた可能性もあります。つまり、全ては悪い条件が重なった末の悲劇でした。ただ、それでは済まされないくらい酷い顛末なのですが。
「……なあ、予備隊って良かったよな」
→事件編でシャスタが予備隊のことを「子供の刑務所」と言っていますが、実際に出所してから居場所のなさに苦しむ方もいます。頼る人もなく放り出されたレキがああなってしまうのも、仕方ないところはあると思います。
《第4話》
「無数にばらまいてきた嘘」
→この件に関しては、フォルス/キオンが探求編で調べ上げなければおそらく誰も真実に辿り着かなかったでしょう。それだけ巧妙に彼は嘘をつき続けてきたわけですね。
「そうやってすぐに思い詰める」
→実際にすぐに思い詰めるのは昔からの彼の癖ですが、特に「誰にも相談できない秘密がある」という強迫観念がこの性格を更に嫌な感じに追い詰めたところがあります。
「硝酸アンモニウム」
→窒素を豊富に含むので肥料の原料になり、また鉱業や土木作業などで使う爆薬の材料にもなります。また、吸熱性が高く保冷剤にも使用されているそうです。この発端の爆発事故で事故現場付近にいた百数十名が爆死、その後発生した火災や避難による混乱等で死者が増大しました。
「災禍は特務が仕組んだ陰謀」
→何となくそうじゃないか、という雰囲気はありましたが何しろ証拠がないので誰も口にはしなかったことです。
「疑わしき者は何でもクロにして殺す」
→どうしても登場人物がリィアの特務に近い人物が多いので特務が何となく味方、みたいに見えるのですがもちろんそんなことはありません。普通に特務も最悪な思想弾圧集団です。それに輪をかけて悪いのが革命派の一部、という構図です。作中だと「過激派>特務>>>普通の革命派>反リィア組織>一般人」くらいのグラデーションはあります。反リィア組織は「広義で反ダイア・ラコス派」であるため、一般ウケは革命派よりいいです。
「当人たちのことを思うと気の毒では済まなそうだった」
→もしシャスタの推論通りであったら、責めるよりも前に彼らの安否が心配される案件です。これは作者の雑感ですが、最初に新型コロナウィルスを研究所から漏洩させた人物は一体どうなったんだろうと考えています。ミスか下心かで、世界中で何億人も死ぬような大惨事になって果たして生きていられるのだろうか、と……。
「そういうところが実にお前らしい」
→彼の代名詞である「そういうところ」なのですが、具体的には隠しきれない育ちの良さやカリスマ性、そして本来の生真面目で正義感に溢れる性格の総称です。特にカリスマ性に関しては何人かを取り返しのつかない境地に追いやっているのですが、本人はその辺に大変無自覚です。彼がもっと悪い奴だったら、こんな風に追いかけてきてくれる友達もいなかったでしょう。
「俺は王子じゃないぞ」
→第1話で全く同じ台詞をシェールも言っています。大変複雑な背景があるシェールと違い、ジェイドに関しては事実を述べているまでです。なおシャスタは、フォルスに関しては「世間知らず」という意味で王子様呼びをしていますが、シェールの場合は「自分と同じ匂いがするがどうなんだ」という意味で使用し、ジェイドに関しては「やっぱりお前はそういう生まれだったか」というニュアンスが混じっています。同じ「王子様」でも意味が随分違います。
《第5話》
「聖獅子騎士団」
→度々登場していた、過激派の総本山みたいな集団です。国家を否定するために子供を攫ったり捨て子を拾ったりして思想を植え付けて私設兵士みたいにしていました。普通に最悪な集団です。
「わからない。何も覚えていない」
→シャスタに関しては一応出自の設定はありますが、自分が覚えていないものは語ることができないので本編で明らかになることはありません。もしかすると、本編以外で明らかになるかもしれません。
「犬も殺せない奴には水も飯もやらない」
→よくある殺し屋養成の手順です。わりとこの手の虐待や見世物は創作物で見るのですが、オリジナルが何なのかは把握できていません。誰か知っていたら教えてください。
「人が吊されているのが当たり前であった」
→特務予備隊編でも見せしめに半死半生で返された特務隊員が吊されていたという話がありました。教義を広めるため、遠くからでも様々なものを見せたいのかもしれません。しかし、吊るし台が常設されているのはやはり異常です。
「今思うとすっげえ不細工の女」
→ここまで語られて来ませんでしたが、シャスタの根本的な人間不信には彼女の振る舞いが大きく関係しています。特務予備隊編でその他大勢と一緒に女性を見に行かなかったのは、基本的に女性へのトラウマがあるからというのも大きな理由のひとつです。
「木製の鞭」
→要は竹みたいな植物で作った竹鞭です。イメージとしては割れた竹をそのまま振り下ろすみたいな運用だと思うので最高に痛いはずです。刑罰の域を超えているのですが、この養成所にはストッパーがいないのでやりたい放題です。
「気がついたら病院にいた」
→レキもそうでしたが、心優しい人に見つけてもらって彼らは大変運が良かったのだと思います。しかし、発見者は心穏やかではなかったでしょう……。
「優しくしてから聞き出す尋問の一種」
→おそらくシャスタを保護した人たちは普通に怪我した子供に接していただけで多分そんなことはないのでしょうが、彼の生い立ちとして基本的に人を疑うようになっているのでそういう発想になったようです。
「俺はダメな奴だと思ってたから、そう言ってもらえてすごく有り難かった」
→なかなか理解されないでしょうが、散々に自尊心を損壊された状態で「いい子になる」というのがどうしてもできませんでした。だったら人から恐れられ、嫌われる状態が自分に相応しいと思い込むことで自分を守っていました。それは一般兵時代のレキも全く同じ状況でした。
「一生懸命他の人の真似をしている」
→自分の育ってきた環境が全否定されたことで、彼は自分の行動も思考回路も全て「間違っているのではないか」という強迫観念に苛まれています。そのためある程度大人になるまで常に周囲を観察してひたすら真似をして生きてきました。予備隊でハーシアに「丸くなった」と言われていたのはレキの行動を真似るようになったからです。つまり、シャスタが生き残れたのはレキがいたからです。
「お前を法的に殺すことは相当難しいだろう」
→これは第三部でも話題になりますが、「ティロ・キアンにどう罰を与えるべきか」というのは非常に難しい問題になってきます。何しろティロ・キアンは死亡扱いになってますし、本部の放火も反乱の成功の要因になっているので大々的に罰しにくい。更にトライト家の件は表向きになると、主にリニアの借金の件が絡んでくるので遺族としては「このままそっとしておいてくれ」と思っています。皮肉ですが、彼らはいなくなってもレキを探したフォルスのように本気で探してくれる人がいなかったのです。
「なあ、ティロってどんな奴だったんだ?」
→これを聞かれると作者も困るのですが、本当にどういう少年か一切想定していません。ただ彼と少年当時に背格好が何となく似ている、くらいの情報しかありません。その代わりお母さんと妹に関してはある程度設定がありますので、そのうち出てくるかもしれません。
「剣だけがお前の価値じゃないんだ」
→これは上級騎士編あたりで「付属品」と言われていたことへの反証です。ちなみに付属品呼ばわりを始めたのはザミテスで、その周辺で使われていた悪口です。うーん、ろくでもない。
「剣だけが取り柄のバカ」
→実は付属品呼ばわりと対になる台詞がこの初っぱなに出てきた父からの台詞で、これは彼の存在をまるごと認めていないと出てこない台詞です。そう言って調子に乗って親父に小突かれていた闘技場で、二十年後に今度は親友から「目を覚ませ」とぶん殴られてます。
「心が三つくらいあるんだよ」
→基本的に彼の思考回路は「友達」と分担しているので、1と2と本体合わせて三つあります。誰が何を担当しているのかは、もう少し彼が自分自身を見つめた時にわかるかもしれません。
「お前は本当にあの女好きなのか?」
→この問いはそのまま第三部に繋がる台詞です。果たして彼らは平凡な「恋人」という関係性を維持できるのでしょうか。好きなら好きでいい、とその辺の事情に関してシャスタは比較的呑気でいますが、それは妻帯者故の余裕というものもあります。
「なに、それが俺の仕事だったからな」
→今回の案件はかなり個人的な動機もありましたが、基本的に彼は損得抜きの打算人間なので特務の仕事は忠実にこなしていました。だからこの一連の仕事も特務の仕事のうち、という考え方です。そんなシャスタのメインの登場はこれでおしまいです。お疲れ様でした。
《第6話》
「あんな陰気くさい場所に女の子を連れて行ったとしたら、即座に愛想を尽かされても仕方ないと思われた」
→気がつくのが遅すぎます。しかし、彼の居場所はリィアではあそこだけだったので仕方ない気もします。それじゃあ彼女のアパートに入り浸ればよかったのでは、と思うのですがそれでは男が廃る、と思ったのかもしれません。
「地下の倉庫」
→ここにきてライラの災禍の日の動向が語られました。災禍の夜に埋められたジェイドに対して、彼女は地下の倉庫に避難して難を逃れました。彼女は災禍の出来事を自身の加害(助けられる人を助けなかった)の記憶として語ることを封印してきました。この話を先にすることで、何らかの語りにくい事情を持った彼の話を引き出しています。なお、彼女はこの時点で彼の正体が「丘の上の裕福な家庭で育った」というところまでは検討をつけていました。
「凄く惨めで、恥ずかしい名前」
→ヒロインなのに名前がないとはどういうことだ、ということなのですが彼女のエディアでの呼称は聞くに堪えないものになっています。その辺が語られるのは第三部で、そして彼女が一体何者であるのかがより明確になってからです。
「つまり、また薬で失敗したってこと?」
→叛逆編の一連の出来事は、ひとことで要約するとこうなります。ライラは薬や酒でよくない状態になったレキを何度も見ているので、より何があったのか想像しやすかったのだと思います。とりあえず、最低ですね。
「こんな話をすると、何だか君に嫌われるんじゃないかって思って、怖かった」
→レキがライラにも素性を明かせなかった理由は、彼女の来歴を知ってしまっているからです。彼女と同じような惨めな境遇になっているので、目の前にいる人が本当は豊かな暮らしをしていたと知ったら嫌な気分になるのは目に見えたこと。僻み根性が爆発していた時代のレキだからこそ、そんな過去の自分すら殺したくなるほど嫌だったのだと思われます。
「革紐に結びつけてた指輪をライラの手の上に乗せた」
→誰にも見せず、触らせなかった姉の指輪を人の手に委ねるということは、それまでのレキになかった行為です。この指輪の意味を知っているライラだからこそ、彼の決意がよく理解できたのだと思います。
「自分に戻るのに自分と相談しないと自分がわからない」
→散々に何重にも自分という存在を否定してされてを繰り返してきたため、もはや彼の中に確固たる「自分」というものは残っていません。自尊心がすり減っているので、露悪的なことをして周囲からの評価を下げるほうが居心地がいい、とすら思っています。しかし、それではいけないことを彼は知っています。つまり、自分で自分の評価を上げなければいけないのですが、その前に「自分会議」が必要になります。面倒くさいですね。
「もう自分と話すのは止めるから」
→実はライラは「自分会議」の存在自体は早い段階で察していました。ただ、薬に溺れた末の何かだと思っていました。だから復讐編で遭遇してしまったようにガッツリやっているところに踏み込んでしまったのは気まずい思いがありました。だからあのように彼が慌てふためいたところを全て「見なかったこと」に仕立てたのが、あの顛末です。
「本当に、救いようがないんだから」
→何気ない台詞なのですが、この台詞がここから先のテーマになります。一体誰が、誰を救おうとしているのか。救いようがない人を救うにはどうすればいいのか。そんな話になってくる、はずです……。
「そこにはセラスと見知らぬ青年が立っていた」
→ここに来て、有明編のセラスとフォルスがライラと合流します。彼らの動向は有明編そのままです。午前中に資料館で家系図を見て、サロスから犬の名前を聞き、そして港を歩いてこの展望台までやってきました。
「大丈夫よ、きっと大丈夫」
→作中でも何度かレキが自分を鼓舞するために使用してきたこのフレーズですが、初出はエディアから落ち延びる覚悟を決めた時の姉ライラの言葉です。彼はずっと姉の言葉に守られていたわけです。
○挿入話について
全容編のIF話は「もしもレキとライラがエディアで知り合っていたら」です。実は企画段階ではこのエピソードを最終話にするつもりでした。当初の最終話はレキとフォルスが失踪して十年後、成長したフォルスがシェールの前に姿を現すというものでした。本編のようにレキはフォルスの面倒を見ないで、その辺に放り出して行方知れずという大変薄情であまりにも悲しすぎる、と救いを求めた結果この話が生まれました。「復讐者ティロなんて生まれなかったのさ!」ということがしたかったのですが、これを最後にしてしまうのも夢オチみたいで嫌だなあと思い、元々の話にもいろいろ改良の手が加えられ、現在の形になっています。
ちなみにこの世界だとやはりレキに出会わないシャスタは救われません。オルド攻略は死神が現れないために事件編の挿入話と似たような感じになると思われます。そして仲良く歩き出した二人は、それなりに力を合わせてどこかで仲良くひっそりと暮らすことになります。一見救われているようですが、この世界で彼はこれ以降カラン家の人間であることがバレるのを恐れて剣を持てなくなり、自分の名前も一生名乗ることが出来なくなります。
ついでにここくらいしか書くところがないので書いておきますが、彼が救われるルートとして「コール村にずっと留まる」というものもあります。隊長が来たとき無難に手合わせして、上級騎士に上がらずにそのままだらだらとコールに居続け、いろいろ諦めてそのまま村の女の子と懇ろになりそこの家で一生過ごします。この結末も穏やかに暮らすという意味では救われるのですが、剣も名前も諦めざるを得なくなります。ちなみにこのルートだとゼノスは即ザミテスに裏切られて辞任、査察旅行はリィア全土を回る必要がなくなるためザミテス隊長は二度とコール村に来ません。割と嫌なバッドエンドです。
IF話は第三部の最後にも載せる予定です。そこには割とパンチの効いたIFを出す予定ですので、そこまで頑張りたいと思います。
○終章について
全ては彼の決断のため、作者から特に言うことはありません。薬を止める、自分会議も止める、自虐はやめて少しでも人として真っ当に生きる。その覚悟は立派ですが、今までの彼の様子から果たしてそれは可能なのか。そんな不穏さもある終わり方なのですが、自分で自分に蹴りをつけるというのは非常に彼らしい心持ちだと思います。つまり、これは「ひとりぼっちのおわり」であり「新たな始まり」でもあります。




