表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/48

探り合い・すれ違い その三

 アカゲラが郷巻(さとまき)の動向を探っている頃、土蜘蛛(つちぐも)一縄(いちなわ)の動向を探っていた。土蜘蛛(つちぐも)は、日が沈むと行動を起こし、毎日、一縄(いちなわ)の屋敷の庭の(すみ)(かげ)になっている場所に(ひそ)んで屋敷の様子を(うかが)うのを日課にした。

 その日は、昼間から一縄(いちなわ)家人(けにん)達が正虎(まさとら)の元に集まり、評議(ひょうぎ)を行なっていたらしい。板戸を閉め切った広間の中に、男達が(こも)っている。夏だと言うのに、さぞ暑いだろう。それだけ重要な話と言う事だ。土蜘蛛(つちぐも)がいるのは庭の(すみ)。板戸を閉めきった広間との間に広い庭があり、到底(とうてい)物音が聴ける距離ではない。近付こうにも、下女(げじょ)下男(げなん)が回り廊下(ろうか)をうろつくので危険過ぎる。土蜘蛛(つちぐも)は無理をせずに、庭の隅でじっと我慢(がまん)し続けている。

 土蜘蛛(つちぐも)は知る(よし)も無かったが、中では次の(いくさ)の詳細について一縄(いちなわ)正虎(まさとら)が武将達に告げていた。それまで目標を慎重に()せていた正虎(まさとら)が、(つい)にこの日、目標を宣言した。彼が口にした目標は、(さわ)(ごう)曲輪(くるわ)鷹ノ巣(たかのす)山に隣接し、鷹ノ巣(たかのす)山と他の山々に囲まれた盆地の集落・(さわ)(ごう)。川の流れが(ゆる)やかになるその場所は、谷が開けて平地になり、隅々(すみずみ)まで田が広がっている。この地を守るため、郷巻(さとまき)は盆地の郷巻(さとまき)本領近くに小振(こぶ)りの曲輪(くるわ)(もう)けて、守備の兵を常駐(じょうちゅう)させている。曲輪(くるわ)に高い楼台(ろうだい)は無い。周囲に空堀(からぼり)(めぐ)らし、その内側に土塁(どるい)を設けて、外敵の侵入を(さまた)げた簡単な造りだ。これを奪い取ろうと言う(わけ)だ。本格的な城郭(じょうかく)が無い分、攻め(やす)い。勢力を()り返して来たとは言え、まだ郷巻(さとまき)(ぜい)と正面からぶつかるのは()が悪い。しかも、一縄(いちなわ)正虎(まさとら)の元に家人(けにん)達を引き付けておくには、常に勝ち続ける必要がある。正虎(まさとら)の苦しい胸の内が生み出した作戦だ。彼は、詳細を(みな)に話す。

「良いか、曲輪(くるわ)攻めは忠隆(ただおき)に任せる。」

「おうよ!」

 勢いよく土薙(つちなぎ)忠隆(ただおき)が応じる。

「諸将はこれに加勢しろ。宇木正(うきまさ)鷹ノ巣(たかのす)物見砦(ものみとりで)で待機しろ。」

「は。」

 宇木正(うきまさ)は頭を下げる。

「こちらの(すき)をついて、山猿が物見砦(ものみとりで)を奪い返しに来るやも知れぬ。その時は、相手を引き付けて離すな。…郷巻(さとまき)が攻めて来ないなら、物見砦(ものみとりで)から(さわ)(ごう)の様子を見張っていろ。(さわ)(ごう)曲輪(くるわ)攻めで、万一、不測の事態があれば、山を()(くだ)り、曲輪(くるわ)攻めに側面から加勢しろ。」

「親方、そんな必要ねぇ。あんなちっぽけな曲輪(くるわ)俺等(おれら)で一気に蹴散(けち)らしまさぁ。」

 忠隆(ただおき)は不満そうに言い(つの)る。

「万一だ、万一。良いから、お前の戦いぶりを宇木正(うきまさ)にとくと見せてやれ。」

「へへ。」

 忠隆(ただおき)はニヤリと宇木正(うきまさ)を見る。宇木正(うきまさ)は冷ややかな目でそれをやり過ごす。

「俺は、稲荷(いなり)山に陣を敷く。」

 稲荷(いなり)山は、(さわ)(ごう)の中にある小高い丘だ。頂上に稲荷(いなり)神社があるからその名が付いた。曲輪(くるわ)(さわ)(ごう)郷巻(さとまき)側に作られているのに対して、稲荷(いなり)山は一縄(いちなわ)領に近い位置にある。正虎(まさとら)は、稲荷(いなり)山に彼の側近たる一族郎党(ろうとう)を従えて陣を敷く。曲輪(くるわ)で不測の事態が起これば、()ぐに加勢できる位置だ。(さわ)(ごう)全体が見渡せて、鷹ノ巣(たかのす)山の物見砦(ものみとりで)も肉眼で確認できる。戦況を把握するにはもってこいの場所だ。

「決行は、今から十日後。(みな)心して準備せよ。」

 評議(ひょうぎ)が終わると祝宴(しゅくえん)(もよお)された。板戸が(すべ)て取り払われ、酒と(さかな)が下女達によって持ち込まれる。暑いさ(なか)、板戸で閉じ込められ、雪隠詰(せっちんづ)めにあった(よう)な気分の武将達は、汗だくで乾いた(のど)に酒を流し込んで生き返る。(にわ)かに(うたげ)は盛り上がる。

 土蜘蛛(つちぐも)はこんな機会を待っていた。宴の一部始終(いちぶしじゅう)を庭の(すみ)の暗がりの中から見守る。そこに人が居ると分かっていれば、(やみ)にぼんやりと浮かぶ二つの(まなこ)に気付きもするだろう。だが、解放された気分の武将達は勿論(もちろん)彼等(かれら)の接待に一生懸命な下人達も、庭の隅などに注意を払う者は居ない。

「親方、ちゃんと後ろで俺の(いくさ)ぶりを見ててくだせぇよ。」

 酔いが回り始め、活舌(かつぜつ)が怪しくなった土薙(つちなぎ)忠隆(ただおき)が声を上げる。

「ああ。しっかり働け。」

 正虎(まさとら)面倒臭(めんどくさ)いのを隠さない。だが、酔っ払い相手ならば、それで充分だ。

「おめぇもだ、宇木正(うきまさ)。」忠隆(ただおき)は、今度は宇木正(うきまさ)(から)む。「山の上じゃ、すん事もねぇんだから、ちゃーんと目ん玉ひん()いて見てろ。」

 宇木正(うきまさ)は取り合わない。無視して(さかな)(はし)を伸ばす。

「おめぇの助けなんかいらねぇ。俺の後ろにゃ、親方が居んだから。いざとなりゃぁ、トトーンと()けつけて下さらぁ。おめぇは、物見砦(ものみとりで)で見物してりゃあ良い。」

「もうやめろ。」

 静かに宇木正(うきまさ)は言う。

「なぁ、親方、そうだろ?稲荷(いなり)山ってのは、そう言う事で良いんだろ?」

「ああ、もう良い。そのくらいにしておけ。」

 流石(さすが)正虎(まさとら)も、酔いが回って口の軽くなった忠隆(ただおき)を制する。

「へいへい。承知。」

 忠隆(ただおき)は座っていても上体がフラフラしている。宇木正(うきまさ)は、忠隆(ただおき)醜態(しゅうたい)を見せつけられて、(にが)りきった顔で酒を(あお)った。


 (うたげ)は、(よい)の内に(まく)()ろした。武将達はほろ酔いの体を馬の背にあずけて、家路に()いた。土薙(つちなぎ)忠隆(ただおき)酩酊(めいてい)している(よう)に見えて、不思議と馬に乗ると背筋を伸ばし、まるで正気の人間の様に帰って行った。土蜘蛛(つちぐも)は、一縄(いちなわ)の屋敷の者達が(すべ)て寝静まるまで庭の(すみ)でじっとしていた。動く者の気配が無くなってから、慎重(しんちょう)に屋敷を抜け出す。

 評議(ひょうぎ)の中身は聞けなかったが、必要な情報は手に入れた。忠隆(ただおき)のあの発言から大体(だいたい)の予想は付く。奴等(やつら)(ねら)っているのは(さわ)(ごう)だ。稲荷(いなり)山と言えば、まずそこだ。その上、あの雰囲気では、攻めるまでそれ(ほど)()がない。直ぐに戻って郷巻(さとまき)興嶽(おきたけ)に報告せねば。

 土蜘蛛(つちぐも)は夜の山中を急いだ。一縄(いちなわ)(ぜい)(さと)られぬよう、鷹ノ巣(たかのす)山の道なき林を抜け、大きく迂回(うかい)して郷巻(さとまき)領に入る。郷巻(さとまき)の屋敷に辿(たど)り着いたのは明け方だった。土蜘蛛(つちぐも)棟梁(とうりょう)に会いたいと告げれば、()ぐに興嶽(おきたけ)に伝えられる。興嶽(おきたけ)土蜘蛛(つちぐも)が帰って来たと聞くと、人払(ひとばら)いをして自室に呼び寄せた。

一縄(いちなわ)は、近々(ちかぢか)兵を(おこ)す計画を立てています。目標は(さわ)(ごう)曲輪(くるわ)を攻め取るつもりでしょう。」

「ふぅん。」土蜘蛛(つちぐも)の報告を聞いて、興嶽(おきたけ)は思案顔になる。「昨年の冬は、鷹ノ巣(たかのす)山。そして、今年の夏は(さわ)(ごう)随分(ずいぶん)(きざ)むじゃないか。」

「正面からやり合うだけの自信がないから、(すき)を見て(かす)め取る事ばかり考えているのでしょう。」

「まあ、そんなところか…。だが、やられてばかりでは、ちと悔しい。」

 興嶽(おきたけ)は目を伏せ、思案に(ふけ)る。興嶽(おきたけ)の思考の邪魔をしない(よう)土蜘蛛(つちぐも)は黙る。

「渡来人の(ぞく)一縄(いちなわ)領内を荒らし回らせようと思っていたが、向こうがそう出るなら、それを利用して、ぐうの音も出ない(よう)にしてやるか…。」

 興嶽(おきたけ)は、渡来人の騎馬軍団を(ぞく)仕立(した)て上げ、一縄(いちなわ)領内で活動させる計画を進めていた。神出鬼没(しんしゅつきぼつ)に村を(おそ)い、一縄(いちなわ)軍が救援に()け付ける前に姿を消す。一撃離脱(いちげきりだつ)蛮行(ばんこう)を繰り返せば、一縄(いちなわ)の里は荒れ、体力が落ちていく。その上で、一縄(いちなわ)領の治安(ちあん)悪化が目に(あま)(よう)になって、郡司(ぐんじ)として兵を繰り出す口実に利用できればしめたものだ。だが、現実は相手のある事。相手の動きに合わせて作戦を変えるのも肝要(かんよう)

 興嶽(おきたけ)がそんな事を頭の中で考えていても、土蜘蛛(つちぐも)には分からない。()いたところで教えてはくれまい。策の全貌(ぜんぼう)を知るのは、将だけでなければ成功は危うい。

土蜘蛛(つちぐも)一縄(いちなわ)領に戻って、(いくさ)の始まる日を探ってくれ。少しでもあやつ()に動き出しの兆候(ちょうこう)が見えたら、急いで知らせてくれ。それまでに、こっちはあやつ等を出迎(でむか)える準備を進めて置く。頼めるか。」

「承知。」

「おい、ちょっと待て。」頭を下げて立ち上がり、部屋を()そうとする土蜘蛛(つちぐも)興嶽(おきたけ)が呼び止める。「先日の夜、この屋敷に(ぞく)が入った。」

 興嶽(おきたけ)の話の趣旨(しゅし)が見えず、土蜘蛛(つちぐも)は座り直す。

「賊と言っても、何も取られておらん。きっと一縄(いちなわ)間者(かんじゃ)に違いない。相手もこっちの手の内を探っていると言う事だ。ただ、間者と相対(あいたい)した者が面白い事を言っておった…。真っ暗闇の中で両目が光って見えたそうな。」

 そこまで話して、興嶽(おきたけ)土蜘蛛(つちぐも)の反応を面白そうに(なが)める。土蜘蛛(つちぐも)は大きな目を一層大きく見開いて、興嶽(おきたけ)を見つめている。土蜘蛛(つちぐも)の反応に満足したのか、興嶽(おきたけ)は細い目をなお細くしてニンマリと笑う。

「お前以外にも、ユニ族が残っていたって事だな。」

「その者は、どうなりましたか?」

 土蜘蛛(つちぐも)が身を乗り出す。

「残念ながら、取り逃がした。今頃、一縄(いちなわ)領に逃げ戻っているだろう。」

「そうですか…。」

 土蜘蛛(つちぐも)の肩から力が抜ける。

「相手に心当たりはあるのか?」

 興嶽(おきたけ)土蜘蛛(つちぐも)の反応を楽しんでいる。

「…分かりません。」

 土蜘蛛(つちぐも)は目を伏せる。

「そうか。…ま、その内、分かるかも知れんな。」

 興嶽(おきたけ)はわざと()()なく話を打ち切る。土蜘蛛(つちぐも)はもう一度、興嶽(おきたけ)に頭を下げて立ち上がる。

「もし…」

 興嶽(おきたけ)の言葉に土蜘蛛(つちぐも)は立ったまま動きを止める。

「その者が、お前の知り合いだったとして、それが分かっても、お前は郷巻(さとまき)のために働くのか?お前が郷巻(さとまき)のために働く義理は無い(はず)だ。」

 興嶽(おきたけ)は、立ったままの土蜘蛛(つちぐも)の背中を見つめる。

勿論(もちろん)郷巻(さとまき)のために働きます。一縄(いちなわ)(かたき)ですから。」

 土蜘蛛(つちぐも)は振り返りもせずに即答する。

「その者と殺し合う事になるかも知れないぞ。」

「…それでもです。」

 そんな事態には俺がしない。

 土蜘蛛(つちぐも)はそう思いながらも、口に出さずに興嶽(おきたけ)の部屋を後にする。

 まさか、いや、()()る事だ。

 土蜘蛛(つちぐも)の頭の中には、幼かった谷子呂(やちしろ)面影(おもかげ)が浮かぶ。

 いや、そうだ。そうに違いない。

 土蜘蛛(つちぐも)は、昼日中(ひるひなか)の山を越えて、急いで一縄(いちなわ)領に取って返した。


 アカゲラも笠階(かさかい)宇木正(うきまさ)の元に報告に戻っていた。彼は、宇木正(うきまさ)郷巻(さとまき)の屋敷で見た事、偉丈夫(いじょうぶ)な渡来人の集団と()について告げた。

郷巻(さとまき)がどんな戦術を考えているのかは分からないが」話を聞いて、宇木正(うきまさ)は腕組みをする。「(いくさ)の準備を進めているのは間違いない。…先手を取られると、危ういかも知れんな。」

「渡来人は騎馬の戦いに(ちょう)じていると聞いた事があります。」同席した笠階(かさかい)和正(かずまさ)が声を上げる。「ただ、騎馬で()は扱いにくいのではないでしょうか。やはり、曲輪(くるわ)(とりで)を攻めるつもりかと。」

()なら甲冑(かっちゅう)をも射抜かれるだろう。そのうえ、渡来人と切り結べば、一対一では力負けするに違いない。…()(かく)、俺は親方に知らせる。用心するに越した事は無い。アカゲラは、俺が戻るまで屋敷の中で待っていてくれ。」

 そう言い残すと、宇木正(うきまさ)は手早く支度(したく)をして屋敷を後にする。馬を飛ばして一縄(いちなわ)の屋敷まで行けば、屋敷の中はすっかり(いくさ)の雰囲気に染まっている。弓の手入れに余念(よねん)がない郎党(ろうとう)()き出しの準備に(たわら)を蔵から引き出す下人(げにん)…、忙しく動き回る人の間を()って、宇木正(うきまさ)正虎(まさとら)の元に急いだ。

 正虎(まさとら)は、一人部屋でくつろいでいた。元服(げんぷく)前からの腹心だ。笠階(かさかい)宇木正(うきまさ)土薙(つちなぎ)忠隆(ただおき)は、いきなり正虎(まさとら)の元に入って来る事が許されている。正虎(まさとら)を見つけるやいなや、宇木正(うきまさ)はその前にかしこまって話を切り出す。

「親方、耳に入れたき知らせがあります。」

「ん?」

 気乗りの無い返事。今の機嫌(きげん)はどうなのだろう。

郷巻(さとまき)方に間者(かんじゃ)を放ち調べさせたところ、気になる事が分かりました。郷巻(さとまき)は、偉丈夫(いじょうぶ)な渡来人を味方に招き入れ、更に、大量の()を準備している(よし)にございます。」

「それで?」

 言われて、宇木正(うきまさ)は言葉に詰まる。まさかこの情報を聞いても、何も反応しないとは思いも寄らなかった。

「つまり、奴等(やつら)は攻めて来る準備をしているに相違(そうい)ありません。」

「そりゃ、そうだろ。鷹ノ巣(たかのす)山を取られたまま、黙っている山猿じゃあるまい。そんな事は百も承知だ。お前もそう思っていたのだろ?」

「はい、それはそうですが、まさか()まで持ち出すとは思いませんでした。」

 しどろもどろだ。宇木正(うきまさ)の全身に汗が()き出す。

()か…、一の矢を(しの)いでしまえば、取る()らん。所詮(しょせん)、騎馬武者の敵にはならん。」

「は。」

 正虎(まさとら)の言う事は分かる。どんなに強い矢が射れても、次の矢を(つが)えるまでに時間がかかっては、その間に騎馬なら間合(まあ)いを詰められる。事実だが、それはあくまで一対一の想定の話だ。と言って、これ以上反論するだけの情報は持っていない。

「気にするな。宇木正(うきまさ)の心配は分かる。お前の性分(しょうぶん)なら心配になるだろう…。こっちが先手を取れば良い。奴等(やつら)()や渡来人を押し立てて攻めて来る前に、こっちが攻めれば無駄な(そな)えだ。帰って戦支度(いくさじたく)に専念しろ。」

 こう(さと)されては、もう取り付く島もない。やむなく宇木正(うきまさ)はその場を()し、すごすごと帰宅した。

「いかがでしたか。」

 屋敷に付くと、和正(かずまさ)が出迎える。

「うん…。心配には(およ)ばないと追い返された。」

谷子呂(やちしろ)はどうしますか。」

 和正(かずまさ)だけが、いまだに彼を本当の名前で呼ぶ。待っている(よう)に申し渡したから、アカゲラは郎党(ろうとう)の部屋で待っている。

「そうだな…。」

 宇木正(うきまさ)は思案する。正虎(まさとら)の言う(よう)に、先手が取れれば良いのだろう。そうなれば、対応を(せま)られるのは郷巻(さとまき)(ぜい)だ。ならば、逆に相手に先手を取られれば、(さわ)(ごう)など攻めている場合じゃなくなる。準備した兵で対応を迫られるのはこっちだ。

「アカゲラを呼べ。」

 宇木正(うきまさ)は自室に陣取り、アカゲラが来るのを待つ。程無(ほどな)くして、背の高い黒々とした髪のアカゲラが姿を現し、宇木正(うきまさ)の前にかしこまる。

郷巻(さとまき)の領内に戻り、奴等(やつら)がどこに向かって討って出るつもりか探れ。もし、それが分かるより前に奴等が動き出したなら、急を知らせに戻って来い。良いな。」

「承知。」

 アカゲラは一言だけで(こた)えると、頭を下げて姿を消す。

 嫌な予感しかしない。正虎(まさとら)歯牙(しが)にもかけない場合は、大抵(たいてい)悪い方に転ぶ。

 宇木正(うきまさ)は一人、苦虫(にがむし)()(つぶ)したような顔をして腕を組んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ