17.気分一致効果
「はぁ……」
私は自分の席から、どんより空を眺めていた。
「どうした、工藤。天気と同じ顔をしているな」
「だって今日、なんか全部うまくいかないのよ。小テストも微妙だし、朝は電車遅れるし……」
思い出すだけで、さらに気分が沈む。
「あー、嫌なこと思い出しちゃった」
「どんなことだ?」
「小学校の頃、めちゃくちゃ点数の悪いテストを落として、クラス全員に知られちゃったのよ……最悪だったわ」
あの後しばらく、あほ工藤って言われたっけ。もう、こんなこと思い出したくなかったのに。
「工藤、それは気分一致効果だ」
私が頭を抱えていると、桐原がお得意の効果を出してきた。
「気分一致?」
「今の気分と一致した記憶や情報を思い出しやすくなる現象だ」
「そんなのあるの?」
「ああ。落ち込んでいるときは、過去の失敗や嫌な出来事ばかり思い出しやすい。逆に機嫌がいいときは、楽しい記憶が浮かびやすい」
言われてみれば、そうかもしれない。
今の私、完全に落ち込んでるし。
「じゃあ今の私は、嫌なこと思い出し放題ってこと!?」
「極端に言えばな」
最悪じゃない!
「どうにかならない?」
「ある。気分を変えればいい」
「それができたら苦労しないの!」
むうっと唇を突き出して見せると、桐原は少しだけ考えるようにしてから──
「工藤」
「なによ……」
「可愛いな」
「……っ!?」
え、ちょ、なに、いきなり──
「ヘアピンが」
ヘアピンだった!
もう、その言い方ずるい。
私はそっとヘアピンに手を伸ばす。
「これ、お気に入りなの。中学の時に友達が誕生日にプレゼントしてくれてね」
「いい友達がいるな」
「そうなの! もう毎日一緒に帰って、コロッケを半分ずつしてたのよ。美味しかったなぁ、あの時のコロッケ!」
「他に、思い出は?」
「もちろんあるわよ! 公園のベンチでだらだら喋ってたり。でもそれが楽しいんだよね。一緒に雨宿りもしたし、その後は綺麗な虹が出てたりして。ラッキーだねって、それだけで最高だった」
あの子の笑い声とか、夕焼けとか、風の匂いとか。
なんか全部、ふわっと思い出せる。
「少しは気分が変わったか?」
「あ……言われてみれば、確かに。どうして?」
「最初の一つを変えたから、連鎖も変わった」
「あ、ヘアピン!」
そう声をあげると、桐原の口の橋が少し上がった。
桐原……強制的に、私の気分を変えてくれたんだ。
「ありがと、桐原」
「効果の説明をしたかっただけだ」
もう、素直じゃないんだから!
ーーー♡あやかメモ♡ーーー
*気分一致効果*
今の気分と一致した記憶や情報を思い出しやすくなる心理現象。
落ち込んでいるときは嫌な記憶が浮かびやすく、楽しい気分のときはポジティブな記憶が浮かびやすい!
つまり、気分は世界を見るフィルターみたいなもの。
だからちょっとしたきっかけで気分を変えると、そのあとの思い出や考え方も変わるみたい。
これから気分が沈んだ時には、桐原が可愛いって言ってくれたヘアピンを思い出しちゃうぞ⭐︎
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