13.エンハンシング効果
「桐原、聞いて!」
私はノートを抱えて駆け寄った。
「今度の英語のスピーチコンテスト、出ようと思うの!」
「珍しく積極的だな」
「珍しくは余計よ」
私はむっと頬を膨らませる。
「それでね、優勝者には海外研修のチケットが出るんだって!」
「それが動機か?」
「う……まぁ、ちょっとは」
桐原は腕を組んだ。
「それはエンハンシング効果かもしれないな」
「これも効果なの!?」
「外的報酬が、内発的動機を弱めるどころか、逆に高めることがある現象だ」
「この間のアンダーマイニング効果と逆じゃない?」
「条件次第だ。報酬が〝コントロール〟ではなく、〝能力の承認〟として感じられると、やる気はむしろ強化される」
私は首をかしげる。
「コントロール?」
「〝これをやれ。やったら金をやる〟という圧力に感じると動機は下がる。しかし〝君は優れている。その証としてこれを与える〟と感じれば、自信が高まり、やる気も上がる」
「つまり……海外研修は〝すごい人へのご褒美〟ってこと?」
「そうだ。工藤が〝自分の実力で勝ち取る価値あるもの〟と認識しているなら、それは動機を高める方向に働く」
胸が、どきんと鳴った。
「じゃあ私が〝英語うまくなりたい!〟って気持ちも、〝海外行きたい!〟って気持ちも、両方あっていいのね?」
「ああ。報酬が夢を拡張するなら、それはエンハンシングだ」
私はにやっと笑った。
「ふふ。じゃあ私、優勝してくるわ」
「自信過剰だな」
「今エンハンシング中なの!」
桐原は小さく笑った。
「工藤は人前に立つと意外と堂々としている」
「……それ褒めてる?」
「事実だ。発音も悪くない」
「ちょ、急に能力承認しないで! やる気メーター振り切れちゃう!」
顔が熱い。けど、悪くない。
海外研修も欲しい。
でもそれ以上に──
桐原に〝すごい〟って言わせたいんだ。
「桐原」
「なんだ」
「優勝したら一番に報告するわね」
「期待している」
その一言で、心臓が跳ねた。
……ああもう、やるしかないじゃない。
ーーー♡あやかメモ♡ーーー
*エンハンシング効果*
外からの報酬や評価が、内発的動機(やりたい気持ち)を弱めるどころか、逆に強める現象。
ポイントは、〝コントロールされている〟と感じるか、〝認められている〟と感じるか。
「やらされてる」だとやる気ダウン。
「認められてる!」だとやる気アップ!
同じご褒美でも、受け取り方で全然違うんだって。
桐原の「期待している」は最強のエンハンシングでした⭐︎
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