14.プルースト効果
「ねぇ桐原、聞いて!」
私は体育終わりに席についた瞬間、振り返って桐原に話しかけた。
「どうした工藤」
「今日ね、体育のあとにタオル使ったら……なんだか急に、小学校の頃のこと思い出しちゃったの!」
「ほう」
「運動会のあと、友達と校庭でジュース飲んでた記憶とか。日差しの匂いとか、砂の感じとか。急にぶわーって」
桐原は少しだけ頷いた。
「それはプルースト効果だ。匂いや味がきっかけで、過去の記憶や感情が鮮明に思い出される現象だ」
「そんな現象あるの?」
「ああ。フランスの作家、マルセル・プルーストの小説『失われた時を求めて』が由来だ」
「どんな話?」
「主人公がマドレーヌを紅茶に浸して食べた瞬間、幼少期の記憶が一気によみがえる場面がある」
「素敵……!」
「匂いは脳の記憶や感情に近い場所に直接届く。だから他の感覚より強く思い出を引き出しやすい」
私はそっと袖の匂いを嗅いでみた。
自分じゃ自分の匂いってわかんないけど……
「もし、昔好きだった人の匂いとか嗅いだら?」
「思い出す可能性は高い」
「うわぁ」
なんかちょっとロマンチック。
「でも、匂いってそんなに覚えてるもの?」
「意識していなくても覚えていることは多い」
「じゃあ、もし私の匂いを嗅いだら、桐原は私を思い出すの?」
「唐突だな」
「仮の話よ!」
桐原は少し考えてから口を開いた。
「ローズ系のシャンプーの匂いをどこかで嗅いだときには、思い出すかもな」
どくんって音が鳴った。
桐原が、思い出してくれるって……
「騒がしい同級生がいたな、くらいには」
「騒がしいは余計よ!」
頬を膨らませると、眼鏡の奥の桐原の目が笑った。
ず、ずるい……っ!
でも。
もし桐原がどこかでこの匂いを嗅いで、
ほんの少しでも私を思い出すなら。
それって、ちょっと嬉しいかも。
ーーー♡あやかメモ♡ーーー
*プルースト効果*
特定の匂いによって、過去の記憶やそのときの感情が鮮明に蘇る現象。
由来はマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』のマドレーヌの場面から。
匂いは記憶や感情と結びつきやすいから、ふとした瞬間に昔の思い出がよみがえるんだって!
いつか桐原がどこかでローズ系の香りを嗅いで、
「……工藤か」って思い出してくれたらいいな⭐︎
だけど……本音を言えば、未来の桐原の隣に私がいれば、もっと嬉しい。
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