改めての覚悟
海斗との勝負後
俺と園木は近くの神社で話していた。
「今回は本当に悪かった。この通りだ」
深々と頭を下げる俺に対して、園木は笑った。
「なんでアンタが謝るのよ、おかしいじゃない」
「なんでおかしいんだ?俺の責任だろ」
「違うわよ。アンタはただ私の命令に従っただけ悪いのは私よ」
強がっているのか、それとも気遣っているのか。
どちらも俺には必要がなかった。
「悪いのは俺だよ。ついて行く手もあった、止める手もあった。しなかった俺が悪い。それに一番悪かったのはお前に怖い思いをさせたことだ。それはお前の命令じゃないだろ?」
「それは……まあ、そうだけど……」
「ただ従うだけが召使いじゃない、時には対立もしなきゃいけないだろう。それができなかった俺は召使い失格だ」
バイトもクビになる覚悟は出来てる。
「アンタ……何言ってんの…。約束したのはアンタでしょ!これから一緒にご飯食べるって!毎日作るって!それを自分から破らないでよ!」
この時既に園木は泣いていた。
何に泣いているのかはわからない。
俺が約束を破ろうとしていること?
怖かったこと?
自分の意見を言っていること?
わからない。
「アンタがいなくなったら私はまた1人じゃない!ふざけないでよ!寂しいって……わかって…るんでしょ……」
園木は膝から崩れ落ちた。
俺は……何故そうしたかはわからないが、園木の肩をそっと抱いた。
「そうだったな……ごめん。給料減らされても、罰金でもなんでもする。お前から離れないことにするよ」
「約束……今度破ろうとしたら…クビだからね」
「わかったよ」
園木をより強く抱きしめた。
「それから、私も強くなる……。少しでも強くなって、自分を守れるようになる」
そんな重荷を背負わせるために俺はここにいるじゃないはずだ。
このバイトをしてるわけじゃないはずだ。
「その必要はねえよ。お前は俺が守る、命に代えてでも。それが俺の仕事であり、義務だ」
「絶対……だからね」
「あぁ、絶対だ」
それから少し話して家に帰ることにした。
園木家
「すいませんでした!俺の責任です、給料を減らすでもなんでもしていいんで。どうかクビだけは!コイツの側でコイツを守るって決めたんです!」
「お母様、私からもお願い。スドーなら私を守ってくれるって信じたいの」
2人で、しかも玄関で頭を下げる。
「? 貴方達は何を言ってるの?なんで私が須藤さんをクビにするのよ。ありえないわ、家族だもの」
不思議そうに美緒はそう答えた。
「ありがとうございますー!」
思わず抱きついてしまった。
「あっ、すいません。ホントわざとじゃなくて」
「えぇ、大丈夫よ。その代わり、今日からお風呂毎日一緒ね♪」
『えええええええ!?』
俺と園木が声を揃えた。
「あら、嫌なの?」
「え、いや、そうじゃなくて〜」
あれって確か気絶したよな俺。
「じゃあ決まりね!さ、入りましょう!お風呂」
上機嫌な美緒と、呆れるような俺と園木。
3人で風呂へ向かった。
その日の風呂では……。
「そこをスドーがスパーン!ってかっこよかったんですよ!」
「おい、変なこというなよ」
「私も見たかったなぁ、須藤さんの晴れ舞台」
「晴れでもなければ舞台でもなかったですよ!?」
今日あった出来事の話をした。
そして最後に、
「あっ、そういえば家族なのに苗字なんて変だし名前で呼びましょう!」
「そうですね!さすがお母様!」
ということになり。
「和也君♡」
「和也♡」
「美緒様……か、可奈」
「やったー!これで決まりね!」
2人が抱きついてきた。
とびっきりの笑顔で。
「ちょっと待ってください!裸で抱きつかれたら、ちょ!まっ」
3人で倒れ込んだ。
「これからもよろしくね。和也君」
「頼んだわよ、和也」
「こちらこそ、よろしくっす。美緒様、可奈」
まだまだこのバイトは終わらない。
長く、疲れるバイトだ。それに危険な。
でも、2人のこんな表情が見れることがあるのなら…………悪いバイトじゃない。
「それじゃ、洗濯よろしくね♪」
「ッ!俺のさっきの感情返せぇぇぇえ!」
悪いバイトじゃないのかもしれない。
残り347日




