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百人目の囚人  作者: 朝山みどり


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28 説明会(三)

28 説明会(三)


「王女殿下の処遇も、ここで決めておくべきではないか」


 税の免除について書記に指示を出していた年配の貴族が、王女へ目を向けた。


 王女は立ったまま、客席をにらんでいた。侍女二人に責任を負わせる話がまとまっても、その表情は緩まなかった。


「事件を侍女のせいにしたところで、殿下がまた同じことをなされば、我々が後始末をすることになる」


 別の貴族が言葉を継いだ。


「今度は、我が家の娘が目障りだと言われるかもしれん。冗談ではない」


「毒を買うための書類を用意し、看守に食事を出すなと命じた。殿下の命令に従う者がいる限り、同じことは起こり得る」


 前列の男も、王女を見た。


「人も金も、これまでどおり自由に使わせておくわけにはいかんな」


 王女は、発言した貴族たちを順に見渡した。


「……私に、指図するつもり?」


「はい」


 年配の貴族が即答した。


「これ以上、殿下の勝手な振る舞いに振り回されたくありませんので」


 王女は息をのんだ。


「私は……私は、この国の王女よ!」


「存じております。だからこそ、侍女よりも厄介なのです。殿下のお名前ひとつで、役人も騎士も動くのですから」


 客席のあちこちで、うなずく者がいた。


 王女は椅子の背を強くつかんだ。


「私が命じれば、あなたたちなど……!」


「牢へ入れられる、とでもおっしゃるのですか?」


 年配の貴族に問い返され、王女は唇を結んだ。


 だが、黙っていられたのは、ほんのわずかな間だった。


「……入れてしまえばいいのよ!」


 王女の声が、広間に響いた。


「あなたたちを全員、地下牢に放り込んでやるわ! そうすれば、少しは私におとなしく従うでしょう!」


 私語がやんだ。


 侯爵夫人はポーラの腕をつかみ直した。ポーラも、今度はその手を振り払わなかった。


 年配の貴族は司会者へ向き直った。


「今のご発言を、一言一句漏らさず記録していただきたい」


「は、はい……」


 司会者は青ざめた顔で書記へ合図した。書記は急いで筆を動かした。


「やはり、王宮に置いておくわけにはいかんな」


 前列の貴族が言った。


「地方の離宮へ移っていただこう。王宮への出入りは禁じ、役人や騎士へ命令する権限も取り上げるべきだ」


「仕える者も、殿下のお好きな者を選ばせてはならん」


 隣の貴族が続けた。


「今回の件に関わっていない者に入れ替え、離宮の管理者から陛下へ直接報告させよう」


「外部との連絡も制限する必要がある。手紙は内容を確かめ、訪問者には許可を求める。誰かを呼びつけて、また企みを持ちかけられては困る」


 次々に条件が挙げられた。


 王女は首を横に振った。


「嫌よ。何もない田舎の離宮へ行くくらいなら、ここで処刑でも何でもしてちょうだい!」


「殿下のご希望を伺っているのではありません」


 年配の貴族は答えた。


「離宮での衣食住は整え、王女としての体面は保っていただく。ただし、人を処罰するよう命じることも、王家の名で勝手に書類を出すことも認めない。そのように陛下へ申し入れます」


「お父様が……こんな横暴、お父様が許すはずがないわ!」


「陛下には、先ほどのご発言も添えてお届けします」


 貴族は書記の机を示した。


「自分を批判する者は全員牢へ入れればよい。そのようにお考えの方を、自由に人を動かせる立場に置いておくわけにはまいりません」


 王女は王太子へ向き直った。


「お兄様! 何かおっしゃってよ。あなたからも、何か言って!」


 王太子は椅子に座ったまま、妹を見上げた。


「……私の代わりの王太子を選ぶと言われたときには、お前もすぐに黙ったではないか」


「それと、これとは違うでしょう! 私は、あなたの妹よ!」


「私も、お前の兄だ」


 王太子は冷たく答えた。


「私のことは見捨てておいて、自分のことになれば助けろと言うのか」


 王女は口を開いたが、言葉が続かなかった。


 王太子は妹から目をそらし、膝の上で両手を組んだ。


 年配の貴族が、広間を見渡した。


「では、王女殿下には地方の離宮へ移っていただく。王家の名を用いた命令を禁じ、外部との連絡を管理する。この条件も、陛下へお届けする文書に加える。異議のある者は?」


 誰も声を上げなかった。


 侯爵夫妻は目を伏せていた。ポーラも母の隣に座り直し、王女を見ようとはしなかった。


 ロザリーは膝の上の手を見つめていた。王女の処遇について話し合われても、侍女二人に責任を負わせるという先ほどの結論は、取り消されていなかった。


「異議なし、と認める。では、そのように」


 書記が、再び筆を動かし始めた。


 王女は椅子の背をつかんだまま、その手元を見つめていた。


 先ほどまで、侍女が勝手にしたことだと説明すれば済むと思っていた。今は、その同じ文書に、自分を王宮から遠ざける条件が書き加えられている。


 筆の音が止まっても、王女に言えることはなかった。

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