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百人目の囚人  作者: 朝山みどり


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25/33

25 国王夫妻

25 国王夫妻


 その夜、国王は寝室の扉が閉まるのを待って、王妃に目を向けた。


「侍女たちも下がらせたか」


「ええ。朝まで呼ばないと伝えました」


 王妃は扉の前から離れ、寝台の脇の椅子に腰を下ろした。いつもなら侍女に任せる髪も、今夜は自分で解いていた。抜き取った髪飾りを、鏡台の上へ置く。


「宰相から、貴族たちの書状が届いていると聞きました」


「来週、大広間に集まる」


 国王は手にしていた書類を小卓へ投げ出し、椅子に座って額を押さえた。


「昼間は、あれほど問い詰めたというのにな」


「ええ。あの子たちを前にして、私も言いすぎました」


 王妃は、膝の上で両手を重ねた。


「ですが、あの場で聞いたことを、あの場から外へ出すわけにはいきません。違いますか」


 国王はすぐには答えなかった。小卓の書類は、裁判での証言をまとめたものだった。数行に目を通しただけで、再び伏せる。


「宰相が言っていた。王女の企てだと認めれば、王家は、身内の嫉妬のために無実の令嬢を殺そうとした、と言われる。……その通りなのだが」


「その通りだからこそ、認められないのです」


 王妃の声は低かった。


「そんなことをすれば、貴族たちは、どの家の娘も同じ目に遭うと考えるでしょう。王家への不信は、取り返しのつかないものになります」


「毒まで使う者は、そう多くない」


「でも、誰も死んでいません」


「死ななかったから騒ぎになったのだ」


 言い終えた国王は、顔をしかめた。


 王妃も、夫を見つめたまま動かなかった。


「……今の言い方は、よくない」


「ええ。人前では、決しておっしゃらないでください」


「わかっている」


 国王は水差しに手を伸ばし、自分でグラスに水を注いだ。


「では、どう収める」


「毒は、侍女が買ったことにします」


 王妃は即座に答えた。


「王女付きの侍女が、主人の不満を聞いて取り入ろうとし、毒を用意した。侯爵家の侍女も、ポーラ嬢に取り入ろうとして、姉を陥れた。主人たちは、何も知らなかった」


「購入の書類は」


「侍女が偽造した、で十分です。細かいことは、役人に考えさせましょう」


 国王はグラスを持ったまま、しばらく黙っていた。


「証言では、王女本人から渡されたと言っているぞ」


「取り違えだったと整理させればいいでしょう。記録は残します。ただし、閲覧できる者は限ります」


 調査は続けさせる。関わった者の確認も進める。だが、結論は先に決めておく。二人の間では、その二つは矛盾なく並んだ。


「私は、出ないほうがよいな」


「ええ」


 王妃が答えると、国王は妻の顔を見た。


「そなたも、出たくないのだな」


 王妃の指が、膝の上で強く組み合わされた。


「出たくありません」


 返事は、思いのほか早く出た。


「娘をどうするのかと、皆の前で尋ねられたくないのです。罰すると言えば、あの子を見捨てることになる。罰しないと言えば、私が責められる」


 国王は黙って聞いていた。


「それに……証言者たちの様子が気になります」


 国王の視線が、伏せた書類へ落ちた。


「記録を読んだ。闘技場の証言台に立った者は、皆、聞かれてもいないことまで話している。侍女も、侯爵も、あの家庭教師までな。あれが偶然だと思うか」


「思いません。ですが、理由もわかりません」


 王妃は夫を見つめた。


「私たちが出席して、同じことになったら?」


 国王は答えなかった。


 寝室の時計が、小さな音を立てていた。


「王太子を出そう」


 やがて、国王が言った。


「司会は役人に任せる。質問も、答える内容も、あらかじめ決めておく。王太子は、王家として遺憾に思うとだけ述べればよい」


「王女も出席させましょう」


 王妃が言った。


「あの子が姿を見せなければ、かえって疑われます。受け答えは、私が言い聞かせます。何も知らなかった、侍女の企みに驚いている。それ以外は、一言も話さないようにと」


「不安だな。あれは、口が過ぎる」


「だから、釘を刺すのです。王太子にも、余計なことは言うなと」


 国王は、重く息を吐いた。


「貴族たちには、多少の譲歩が必要かもしれん」


「祝宴に招くとか、拝謁の機会を増やすとか。それで足りるでしょう」


「その程度なら構わん。宰相に任せておけばよい」


 国王は書類を重ね、机の端へ押しやった。


「しばらくすれば、皆も別のことに関心を向ける」


「ええ。華やかに園遊会でも開きましょう。いつまでも、この話ばかりしてはいられませんもの」


 王妃は立ち上がり、寝台の掛け布団を整えた。


「説明会が済んだら、王女の好きなお菓子を届けさせます。随分、落ち込んでいるようですから」


「甘やかしすぎるな」


「あなたこそ、顔を見ると叱れないではありませんか」


 国王は答えず、寝台へ向かった。


 二人とも、エミリーの名を一度も口にしなかった。


 来週の説明会には出席しない。役人が説明し、王太子が王家の意向を伝える。必要なら、宰相が貴族たちをなだめる。


 二人の間では、それで話がまとまった。


 その席で貴族たちが何を求めるか、国王は予想もできなかった。


◆◇◆◇◆

国王夫妻は家族会議のとき、わざと厳しい態度をとりました。

試していました。厳しいことを行った後で、なんとかするから気にしないで。と口走るかどうかを。

地の文で表現したかったのですが、できなかったので(力不足です)補足です。



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― 新着の感想 ―
ゴミ夫婦が産んだゴミ兄妹が立派なゴミ兄妹に育ったのか。 ゴミはまとめて焼却処分しないと。
この国王と王妃なら、やると思った
うわー……さっさと国外に逃げてて良かった。呼び出されて何されてたか判らんわ。こんな支配者のいる国は嫌だ。
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