25 国王夫妻
25 国王夫妻
その夜、国王は寝室の扉が閉まるのを待って、王妃に目を向けた。
「侍女たちも下がらせたか」
「ええ。朝まで呼ばないと伝えました」
王妃は扉の前から離れ、寝台の脇の椅子に腰を下ろした。いつもなら侍女に任せる髪も、今夜は自分で解いていた。抜き取った髪飾りを、鏡台の上へ置く。
「宰相から、貴族たちの書状が届いていると聞きました」
「来週、大広間に集まる」
国王は手にしていた書類を小卓へ投げ出し、椅子に座って額を押さえた。
「昼間は、あれほど問い詰めたというのにな」
「ええ。あの子たちを前にして、私も言いすぎました」
王妃は、膝の上で両手を重ねた。
「ですが、あの場で聞いたことを、あの場から外へ出すわけにはいきません。違いますか」
国王はすぐには答えなかった。小卓の書類は、裁判での証言をまとめたものだった。数行に目を通しただけで、再び伏せる。
「宰相が言っていた。王女の企てだと認めれば、王家は、身内の嫉妬のために無実の令嬢を殺そうとした、と言われる。……その通りなのだが」
「その通りだからこそ、認められないのです」
王妃の声は低かった。
「そんなことをすれば、貴族たちは、どの家の娘も同じ目に遭うと考えるでしょう。王家への不信は、取り返しのつかないものになります」
「毒まで使う者は、そう多くない」
「でも、誰も死んでいません」
「死ななかったから騒ぎになったのだ」
言い終えた国王は、顔をしかめた。
王妃も、夫を見つめたまま動かなかった。
「……今の言い方は、よくない」
「ええ。人前では、決しておっしゃらないでください」
「わかっている」
国王は水差しに手を伸ばし、自分でグラスに水を注いだ。
「では、どう収める」
「毒は、侍女が買ったことにします」
王妃は即座に答えた。
「王女付きの侍女が、主人の不満を聞いて取り入ろうとし、毒を用意した。侯爵家の侍女も、ポーラ嬢に取り入ろうとして、姉を陥れた。主人たちは、何も知らなかった」
「購入の書類は」
「侍女が偽造した、で十分です。細かいことは、役人に考えさせましょう」
国王はグラスを持ったまま、しばらく黙っていた。
「証言では、王女本人から渡されたと言っているぞ」
「取り違えだったと整理させればいいでしょう。記録は残します。ただし、閲覧できる者は限ります」
調査は続けさせる。関わった者の確認も進める。だが、結論は先に決めておく。二人の間では、その二つは矛盾なく並んだ。
「私は、出ないほうがよいな」
「ええ」
王妃が答えると、国王は妻の顔を見た。
「そなたも、出たくないのだな」
王妃の指が、膝の上で強く組み合わされた。
「出たくありません」
返事は、思いのほか早く出た。
「娘をどうするのかと、皆の前で尋ねられたくないのです。罰すると言えば、あの子を見捨てることになる。罰しないと言えば、私が責められる」
国王は黙って聞いていた。
「それに……証言者たちの様子が気になります」
国王の視線が、伏せた書類へ落ちた。
「記録を読んだ。闘技場の証言台に立った者は、皆、聞かれてもいないことまで話している。侍女も、侯爵も、あの家庭教師までな。あれが偶然だと思うか」
「思いません。ですが、理由もわかりません」
王妃は夫を見つめた。
「私たちが出席して、同じことになったら?」
国王は答えなかった。
寝室の時計が、小さな音を立てていた。
「王太子を出そう」
やがて、国王が言った。
「司会は役人に任せる。質問も、答える内容も、あらかじめ決めておく。王太子は、王家として遺憾に思うとだけ述べればよい」
「王女も出席させましょう」
王妃が言った。
「あの子が姿を見せなければ、かえって疑われます。受け答えは、私が言い聞かせます。何も知らなかった、侍女の企みに驚いている。それ以外は、一言も話さないようにと」
「不安だな。あれは、口が過ぎる」
「だから、釘を刺すのです。王太子にも、余計なことは言うなと」
国王は、重く息を吐いた。
「貴族たちには、多少の譲歩が必要かもしれん」
「祝宴に招くとか、拝謁の機会を増やすとか。それで足りるでしょう」
「その程度なら構わん。宰相に任せておけばよい」
国王は書類を重ね、机の端へ押しやった。
「しばらくすれば、皆も別のことに関心を向ける」
「ええ。華やかに園遊会でも開きましょう。いつまでも、この話ばかりしてはいられませんもの」
王妃は立ち上がり、寝台の掛け布団を整えた。
「説明会が済んだら、王女の好きなお菓子を届けさせます。随分、落ち込んでいるようですから」
「甘やかしすぎるな」
「あなたこそ、顔を見ると叱れないではありませんか」
国王は答えず、寝台へ向かった。
二人とも、エミリーの名を一度も口にしなかった。
来週の説明会には出席しない。役人が説明し、王太子が王家の意向を伝える。必要なら、宰相が貴族たちをなだめる。
二人の間では、それで話がまとまった。
その席で貴族たちが何を求めるか、国王は予想もできなかった。
◆◇◆◇◆
国王夫妻は家族会議のとき、わざと厳しい態度をとりました。
試していました。厳しいことを行った後で、なんとかするから気にしないで。と口走るかどうかを。
地の文で表現したかったのですが、できなかったので(力不足です)補足です。




