24 王室の家族会議(二)
24 王室の家族会議(二)
国王は、机に広げた記録へ目を落とした。それから王太子へ顔を向け、問いかけた。
「エミリーが捕らえられたのは、王女がお茶会を開いた日だな」
ひざまずいた王女の肩が、小さく揺れた。
「その席で、自ら毒を使った騒ぎを起こし、エミリーの仕業だと訴えた。そういうことだな」
王女は膝の上で両手を握りしめた。
「私は……」
口を開いた王女を、国王が制した。
「今は、お前には聞いていない」
国王は王太子へ視線を戻した。
「お前は、そのことを知っていたのか」
王太子は顔を上げた。
「いいえ。知りませんでした」
すぐ隣で、王女が兄を見た。
「お兄様」
すがるような声だった。
王太子は妹へ顔を向けた。その目には、先ほどまでの困惑に代わって、怒りが浮かんでいた。
「何だ。間抜けな王女」
王女が目を見開いた。
「私の優秀な婚約者を陥れたな」
王妃の手が、記録の上で止まった。
王女はしばらく兄を見つめていたが、やがて唇をゆがめた。
「寝取りが」
「何だと」
「ポーラとあんなことをしておいて、今さら、私の優秀な婚約者ですって?」
王女の声が鋭くなった。
「昨日までは、冷酷な女だ、王太子妃にはふさわしくないとおっしゃっていたではありませんか」
「お前が、あれに毒を盛られたと言ったからだ」
「それで、喜んでポーラを隣に座らせたのでしょう?」
王太子の顔が赤くなった。
妹をにらみつけ、何か言い返そうとしてから、ふと口を閉じた。
「……昨日、私が何を言ったか、聞いていたのか」
王女は視線をそらした。
王太子が身を乗り出した。
「やはり、あそこにいたのだな。さすが卑怯だ」
「何が卑怯なのですか」
「自分は姿を見せずに、エミリーが裁かれるところを見ていたのだろう」
「お兄様だって、見にいらしたではありませんか」
「私は隠れてなどいない」
「そうですね。ポーラと並んで、皆に見えるところにいらっしゃいましたね」
王女は兄の顔を見据えた。
「婚約者が血のついた服で連れてこられても、何もおっしゃらなかったくせに」
王太子の口元が引きつった。
「お前こそ、毒を使ってまで追い出そうとしたではないか」
「だって、お兄様もポーラのほうがいいと――」
「やめなさい」
王妃の声に、二人の言葉が止まった。
王太子は姿勢を正し、王女はうつむいた。荒くなった息だけが、静かな部屋に残った。
王妃は息子を見た。
「あなたは、エミリーが優秀だと知っていたのですね」
「はい。学ぶことにも熱心で、王宮の仕事もよくこなしておりました」
「では、なぜ、本人の話を聞かなかったのです」
王太子は口を開きかけた。
けれど、王妃の前に置かれた記録を見て、言葉をのみ込んだ。
「妹が毒を盛られたと聞いて、動揺しておりました」
「そのあとも、聞く機会はあったでしょう」
「……はい」
「優秀な婚約者だと思っていたのに、侍女の言葉だけで罪人と決めつけたのですね」
王太子は膝の上で拳を握った。
国王は王女へ向き直った。
「お前は、どこで裁判を見ていた」
「闘技場の、控えの部屋です」
「最初からか」
王女は小さくうなずいた。
「では、ポーラやロザリーが証言台に呼ばれたことも、自分の名が出たことも、知っていたのだな」
「はい」
「なぜ、出てこなかった」
王女の指が、ドレスの布をつかんだ。
「……あのようなところへ、出ていけません」
国王は娘を見つめた。
「エミリーは、そこへ連れ出された」
王女の手が止まった。
「大勢の前で冷酷な娘だと知らせるために、血のついた服のまま座らされていた。お前は、その様子を見るために出向いたのだな」
王女は答えなかった。
王太子が妹へ冷たい視線を向けたが、国王はすぐに息子へ声をかけた。
「お前もだ」
王太子が顔を戻した。
「妹の企みを知らなかったことと、エミリーに何をしたかは、別の話だ。あの娘が無実だとわかった途端、優秀な婚約者だったと言えば済むと思うな」
「そのようなつもりでは……」
「では、何のつもりで妹を責めた。エミリーのためか。それとも、自分が間違えた理由を、妹に押しつけるためか」
王太子はうつむいた。
王妃は、二人を見比べた。
「エミリーは、家も王宮も嫌いだと言ったようですね」
記録をめくる音がした。
「国を出たいとも。あなたたちの言い争いを聞いていると、あの娘がなぜそう言ったのか、よくわかります」
王女が顔を上げた。
「お母様……」
「今、あなたたちは、互いのしたことを責めていましたね。では、自分のしたことを話しなさい」
王妃は、お茶会についての記録を娘の前に置いた。
「あなたからです。毒を用意したところから、順に」
王女は兄を見た。
王太子は、その視線を受けても何も言わなかった。
国王が役人へ合図をすると、役人は筆を構えた。
王女は唇を湿らせ、ようやく口を開いた。
「……エミリーを、王宮からいなくしたかったのです」
「何をやらせても、自分より上だからね」
王妃は、妙に明るい声で相槌を打った。
王女は顔を上げた。母の口元には薄い笑みがあったが、娘を見つめる目は冷たかった。
「エミリーが裁判で、そう話していますね」
王妃は記録の一節を指で示した。
王女は首を振った。
「違う……違う……」
膝の上で握った手が震えた。
「私は王女よ。誰よりも上なのよ」
声を張り上げても、誰も同意しなかった。
王太子はうつむいたままだった。役人の筆だけが動き、今の言葉を記録していく。
王女がさらに何か言おうとしたとき、扉を叩く音が響いた。
国王は娘から視線を外し、扉へ顔を向けた。
「何だ」
◆◇◆◇◆
国王夫妻はわざと、厳しい態度をとりました。
試していました。厳しいことを行った後で、なんとかするから気にしないで。と口走るかどうかを。
地の文で表現したかったのですが、できなかったので(力不足です)補足です。




