転生したみたいですが……スキルを発動したら、従者ができました。
そのスライムは飢えていた。
そして、このスライムはどこにでもいるFランスライムではない。
凶暴な――えー……そう。
フェラルスライムなのだ。
だから、そこら辺をうろうろしていた十五歳くらいの、なんか貧乏そうな娘に襲いかかった。
「え、スライム?」
突然襲いかかってきたスライムに、娘は驚いた。
けれど、すぐに何かを思い出したようにハッとすると、手を振り上げる。
「スキル〈ご都合展開〉……発動!」
そう叫んだ瞬間、娘の身体が眩く光った。
・ ・ ・ ・ ・
目を覚ますと、そこは何もない草原だった。
……いや。
正確には、遠くに林が見える。
だから「何もない」は違う。
でも、少なくとも私の周りには、草しかない。
草、草、木、草、木、スライム、土、草。
……スライム?
その瞬間、頭の中に知らない記憶が流れ込んできた。
私は、この世界のどこでもいる普通の町娘だった。
両親は既に亡くなっていて、親戚の叔母さんに引き取られて育った。
そして十五歳になったある日、スキル鑑定を受けた。
そこで判明したのが――今どきあり得ないほど低ランクの、どうしようもないハズレスキル。
―――こんな、スキルだなんて……アンタなんか、家の子じゃないわ! そもそも、姉さんの遺子だからって、私が面倒を見なきゃいけないこと自体、忌々しいのよ! 一刻も早く、私の前から消えなさい!―――
こうして、私は追放された。
とても悲しくて、これからどうしよう、と途方に暮れて。
でも、それも仕方がないことで――。
「……うん」
記憶を整理する。
「いや、こういうのはさ……」
なんとなく空を見上げた。
「普通、追放宣言された時とかに、記憶戻るもんだよね?」
今までずっと一緒に暮らしていた家族から出ていけと蔑まされて。
正式に追放する、と宣言されて。
ショックで前世とやらの記憶が戻る。
そういうものじゃないの?
「追放されて、途方にくれて、嘆いて、そこでやっと記憶を取り戻すとか……」
自分の中にあるはずの記憶を、思い出す。
「……え? なに、…この子、大丈夫なの?」
どこか他人事のように呟いた。
いや、私のことなんだけど。
……多分。
とりあえず、周囲を見回してみる。
辺り一面、草、草、木、草、木―――。
そして。
スライム。
「スライム……? え、スライム!?」
ぷるぷると震える半透明の水色の物体。
「スライム……あのゲームとかアニメで、最弱の雑魚キャラクターで有名な? ……え、でもスライムって、たまに恐怖のクリーチャーみたいに呼ばれていたような……?」
前世――というか、さっきまでの私の知識では、そんな存在だった。
でも。
目の前のスライムは、どう見ても私の知っている『雑魚』の雰囲気ではない。
「最弱のモンスター」として似つかわしくないような、凶暴そうな…
『グルルルル……』
うん。……スライムだよね?
今の鳴き声、絶対スライムが発して良いものではない気がする。
次の瞬間。
スライムが、こちらへ飛びかかってきた。
「うわっ!」
咄嗟に横へ飛ぶ。
身体が勝手に動いた。
「あれ……?」
今の、結構早かったような。
十年間鍛えていた洗濯物干しで培った瞬発力が、まさかこんなところで役に立つとは。
…いや、何それ。
私、洗濯、干してただけなんだけど。
『ヴヴゥゥゥウウ……!』
「うん、やっぱりスライムだよね?」
どう見てもスライムなのに、どう考えてもスライムらしくない。
そして、こちらを完全に敵として……獲物として、私を見ている。
「仕方ないか……」
私は腕を上げた。
「せっかくチートスキルを授かったんだし…」
……いや。
なんか、ハズレスキルとか言われて追放されたんだっけか。
でもまあ。
「やってみよう」
私は神様から貰ったスキルの名前を口にした。
「スキル〈ご都合展開〉……発動!」
腕を振り上げる。
……いや、だって。
何が正しいのか、よく分からないし。
次の瞬間、私の身体が一瞬だけ光った。
……ような気がした。
多分、気のせいだ。
「……これで、発動にしたのかな?」
特に何も変わっていない。
そう思っていた。
さっきまで私を襲っていたスライムが、こちらへ近づいてくる。
「……また来る?」
身構えた。
必要なかった。
いや、身構えたのは正解だったのかもしれない。
『さっすがシリア様です! 一生お供させてください!』
「………」
今。
何か聞こえた。
「……え?」
スライムが、私に飛びついてきた。
「わわっ!」
『お供させてください!』
「えぇー……」
どうしよう。
確か、スキルの発動時間は一分くらいって神様が言っていたはず。
もうそろそろ切れるんじゃ……
そう思ってスライムから離れようとする。
時計なんてないけど。
体感では、もう一分くらい経ってる。
こんなに近かったら、効力が切れてまた襲われてたら大変だ。
が。
全っ然、離れない。
『シリア様!』
「はいはい……」
『僕はしがないスライムですが、シリア様のお望みなら人型にも擬態できます!』
「……へえ」
『シリア様は、どのような容姿がお好みですか?』
「…………」
私はスライムを見た。
そして、考えた。
……ん?
「えーっと……」
効力、切れてなくない?
というか。
「スライムって、性別あるの?」
目の前のスライムは、明らかに少年っぽい声をしている。
いや、そもそもスライムの声って何。
「……まあ、いいや」
なんか少年とかに擬態したがってそうだったから、適当に答えた。
「あー……じゃあ、無邪気な少年とかで」
次の瞬間。
目の前にいたスライムの姿が変わった。
そこに立っていたのは、天真爛漫そうな、あどけない少年だった。
『一生着いていきます! シリア様!』
「……」
私は、少年になったスライムを見つめる。
――これから、どうしよう。
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