思い違い
森の奥にある、小さな相談所。
朝になると、ミホはいつものように相談所の窓を開けました。
「今日もいい風ですね、先生」
窓から入ってくる森の香りに、ミホは大きく息を吸いました。
机の上には、昨日届いた相談の手紙や、法律の本がきれいに並べられています。
ルツ先生は温かいお茶をいれながら、静かに笑いました。
「ミホさん、まずは机の上の書類を整理しましょうか」
「はい!」
ミホは元気よく返事をすると、手紙を種類ごとに分け始めました。
そうしていると、相談所の扉が開きました。
「先生、聞いてほしいことがあるんです」
やってきたのは、森で木の実のお店をしているリスのモモでした。
「昨日、珍しい金色の木の実を見つけたんです。それを欲しいと言ったキツネさんに売る約束をしました」
「金色の木の実? それはめずらしいですね」
ルツ先生が言うと、モモは少し困った顔をしました。
「でも……あとから大変なことが分かったんです」
モモは小さな箱を開けました。
中には、きれいな金色の木の実が入っています。
「キツネさんは、この木の実を『食べると幸せになる特別な実』だと思って買ったそうなんです」
「えっ?」
ミホは驚きました。
「でも、それは違うんですか?」
「はい」
モモは首を振りました。
「これは色が金色になっただけの普通の木の実なんです」
その時、相談所の扉がもう一度開きました。
「先生、お願いします!」
入ってきたのはキツネのコンでした。
「僕はだまされたんでしょうか? 幸せになれると思って、高いお金を払う約束をしたんです」
モモは慌てて首を振りました。
「だますつもりなんてありませんでした。ただ、コンさんがそう思っていたとは知らなくて……」
ルツ先生は二人を椅子に座らせ、順番に話を聞きました。
ミホはその様子を見ながら、ノートに大切なことを書き留めます。
「先生、今回の問題は何が関係しているんですか?」
「これは『錯誤』について考える必要があります」
ルツ先生は答えました。
「錯誤とは、大切なことについて思い違いをしてしまうことです」
「思い違い……」
ミホはノートにその言葉を書きました。
「例えば、買う人が『これは宝石だ』と思って買ったけれど、実際には普通の石だった、というような場合です」
「では、間違えていたら、全部約束はなくなるんですか?」
ミホが尋ねます。
ルツ先生は首を振りました。
「いいえ。どんな思い違いでも認められるわけではありません」
「その思い違いが、約束をする大切な理由だったのか。そして、相手にもそのことが分かっていたのか。そこを考える必要があります」
コンはうつむきました。
「僕は勝手に特別な力があると思い込んでいました」
モモも言いました。
「私も、もっと詳しく説明すればよかったです」
ルツ先生は二人に優しく言いました。
「約束をするときは、言葉にしたことだけでなく、お互いが同じ意味で理解しているかを確かめることが大切です」
二人は話し合い、木の実の売買について改めて考えることにしました。
相談が終わったあと。ミホはルツと話します。
「法律って難しいですね」
「そうですね。でも、難しいからこそ、誰かを守ることができます」
ルツ先生は窓の外を見ました。
森の仲間たちは、それぞれ違う考えを持って暮らしています。
「約束は、言葉だけじゃなくて、お互いが同じことを分かっていることが大切なんですね」
ルツ先生は笑顔でうなずきました。
森の法律やさんには、今日も新しい学びが増えました。




