だましたり、こわがらせたら?
フウの配達所には、森のあちこちへ届けられる荷物が、きれいに並べられていました。
小さな包み、大きな箱、そして大切そうにしまわれた手紙。
「この荷物はナナさんのところへ……。こっちはココさんのお店へ……。」
ミホはフウの隣で、荷物に付けられた札を確認しながら仕分けを手伝っていました。
「ミホ、助かるよ。」
フウは翼を動かしながら、にっこり笑います。
「配達って、ただ荷物を運ぶだけじゃないんだ。」
「大切なものを預かって、ちゃんと相手へ届ける仕事なんだよ。」
「大切なもの?」
ミホが首をかしげると、フウはうなずきました。
「うん。荷物だけじゃないよ。」
「手紙や、みんなの約束に関わる大事な書類を預かることもあるからね。」
ミホが感心していると、そのとき入り口から声が聞こえました。
「フウさん、少しいいですか?」
入ってきたのは、ビーバーのタクトでした。
手には一枚の紙と、古い工具が握られています。
「どうしたの?」
ミホが尋ねると、タクトは困った顔で紙を見せました。
「昨日、ガイからこの工具を買ったんだ。」
「『まだ新しくて、問題なく使える』って言われたから。」
「それなら大丈夫だと思って、この紙に名前を書いたんだ。」
紙には、
『木材十本をガイへ渡します。』
と書かれていました。
「でも、家に帰って使ってみたら、すぐに壊れてしまったんだ。」
タクトはため息をつきます。
「最初から壊れていると知っていたら、この約束はしなかったよ。」
そこへ、灰色のオオカミのガイが入ってきました。
「タクト……。」
ガイは気まずそうに目を伏せます。
「ごめん。」
「本当は少し傷んでいることは分かっていたんだ。」
「でも、まだ使えると思って……。」
ミホは首をかしげました。
「でも、本当の状態を知らないまま約束したなら、タクトさんはちゃんと考えて決められなかったんじゃないかな。」
その言葉に、フウもうなずきました。
「これはルツ先生に相談した方がよさそうだね。」
しばらくすると、ルツが配達所へやってきました。
「お話を聞かせていただけますか。」
タクトとガイから事情を聞いたルツは、静かに紙を確認します。
「タクトさんは、ガイさんの説明を信じて、この約束をしたのですね。」
「はい。」
「もし、工具の状態を最初から知っていたら、同じ約束をしましたか?」
タクトは首を横に振りました。
「いいえ。」
ルツはゆっくりとうなずきます。
「それでは、正しい判断をするために必要な情報が足りなかったということになります。」
「相手に本当ではないことを伝え、それを信じさせて約束をさせることを、法律では『詐欺』といいます。」
ガイはうつむきました。
「そんなつもりじゃなかったけど……。」
「でも、ちゃんと本当のことを伝えるべきだった。」
「ごめん、タクト。」
そのとき、配達所の入り口から声がしました。
「フウさん、この道具を届けてもらえますか?」
入ってきたのは、タヌキのゲンでした。
ゲンは道具箱を預けるために来たのです。
その様子を見ていたモコが、少し離れた場所から声をかけました。
「ぼくも相談していい?」
モコは大切そうに道具箱を抱えています。
「昨日、ゲンさんにこれを貸してって言われたんだ。」
「でも、これは父さんからもらった大切な道具だから、断ったら……。」
モコは少し黙り込みます。
「『貸してくれないなら、もう仲間じゃない』って言われた。」
「嫌われるのが怖くて……貸すって言っちゃった。」
ルツは優しく尋ねました。
「そのとき、本当はどうしたかったのですか?」
「本当は……貸したくなかった。」
「でも、断ったら嫌われると思った。」
ルツは静かに説明します。
「相手を怖がらせたり、脅したりして約束をさせることを『強迫』といいます。」
「そのような状況で決めたことは、本当の意味で自由な意思によるものとは言えません。」
ゲンは驚いた顔をしました。
「そんなに怖い思いをさせていたなんて……。」
「ごめん、モコ。」
モコはほっとしたように笑いました。
「もう大丈夫。」
ルツは二人に向かって言いました。
「約束は、お互いが納得して決めるからこそ大切なものになります。」
「相手をだましたり、怖がらせたりして作られた約束は、そのまま守らなければならないとは限りません。」
ガイはタクトへ紙を返しました。
「この約束はなかったことにしてほしい。」
「次からは、ちゃんと本当のことを話す。」
タクトも笑顔でうなずきました。
「僕も、分からないことは確認してから決めるよ。」
モコも道具箱を抱えながら言いました。
「ぼくも、嫌なことはちゃんと言えるようになる。」
帰り道。
ミホはルツに尋ねました。
「約束って、守ることが一番大事だと思ってた。」
ルツは優しく答えます。
「もちろん、守ることは大切です。」
「ですが、その約束がどんな気持ちで作られたのかも大切なのです。」
「相手を信じて、自分の意思で決めた約束だからこそ、大切に守ることができるのですよ。」
ミホは笑顔でうなずきました。
「じゃあ、みんなが安心して約束できる森がいいね。」
「はい。私もそう思います。」
二人はフウの配達所を後にして、森の道を歩いていきました。
そのころ、配達所ではフウが新しい荷物を丁寧に整理していました。
今日もまた、森の仲間たちの大切なものを届けるために。




