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森の法律やさん  作者: 有凪いちほ


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みんなを困らせる約束


森には、いつも鳥たちのさえずりが聞こえています。


「ミホさん、今日はガロンさんのお店へ届け物があります。一緒に行きませんか。」


朝食の片付けを終えたルツが、やさしく声をかけました。


「うん! 帰りにパン屋さんにも寄りたい!」


「では、そのようにしましょう。」


二人は家を出ると、木漏れ日の差す森の道を歩き始めました。


道ばたではリスたちが木の実を集め、小鳥たちは枝の上で楽しそうに歌っています。


「おはようございます、ルツ先生!」


「おはようございます。」


森の仲間たちが次々と声をかけ、ルツも一人ひとりに丁寧にあいさつを返します。


ミホはそんな様子を見ながら、にっこり笑いました。


「ルツって、本当にみんなに頼りにされてるね。」


「皆さんが気軽に相談できる相手でいられたらいいですね。」


やがて二人はガロンの雑貨屋へ荷物を届けました。


「助かったよ、ルツ。」


「いえ、お役に立てて何よりです。」


用事を終えた二人は、帰り道にココのパン屋へ向かいます。


「焼きたてのどんぐりパン、まだあるかな。」


「急がなくても大丈夫ですよ。」


そんな話をしながら広場へ近づくと、突然、大きな声が響きました。


「だから、約束したんだろ!」


やがて二人はガロンの雑貨屋へ荷物を届けました。


「助かったよ、ルツ。」


「いえ、お役に立てて何よりです。」


用事を終えた二人は、帰り道にココのパン屋へ向かいます。


「焼きたてのどんぐりパン、まだあるかな。」


「急がなくても大丈夫ですよ。」


そんな話をしながら広場へ近づくと、突然、大きな声が響きました。


「だから、約束したんだから!」


二人が足を止めると、広場にはアライグマのカイと子鹿のモモが向かい合っていました。


モモは困った顔でうつむき、カイは一枚の紙を手にしています。


「どうしたの?」


ミホが駆け寄ると、モモがほっとしたように顔を上げました。


「ミホ……。」


カイは紙を見せながら言いました。


「昨日、モモがちゃんと名前を書いたんだ。」


紙には大きく書かれていました。


『一日、なんでも言うことを聞きます。 モモ』


ミホは目を丸くしました。


「これ、どういうこと?」


モモは申し訳なさそうに話し始めます。


「昨日、ぼくが重たい荷物を運んでいたら、カイが手伝ってくれたの。」


「お礼を言ったら、『じゃあ名前を書いて』って紙を渡されて……。」


「そんなに大事な紙だとは思わなくて……。」


カイは得意そうに言いました。


「だから今日はぼくの荷物を運んでもらうし、掃除もしてもらうし、お店の手伝いもしてもらう。」


「全部約束なんだから。」


モモは困ったように言いました。


「でも、一日中なんでもするなんて……。」


そのとき、ルツが静かに前へ出ました。


「事情をお聞きしてもよろしいでしょうか。」


二人の話を最後まで聞くと、ルツは紙をゆっくり見つめます。


「確かに、モモさんのお名前がありますね。」


カイは胸を張りました。


「約束なんだから守ってもらわないと。」


ルツは穏やかな表情のまま尋ねます。


「では、モモさんは今日一日、どんなことでも断れないのですか。」


「うん。」


「休みたいと言ってもですか。」


「だめ。」


「危ないことでもですか。」


「もちろん約束だから。」


ミホは少し不安そうにルツを見ました。


ルツは紙を閉じると、ゆっくり話し始めます。


「森では約束を守ることは、とても大切です。」


「ですが、どのような約束でも認められるわけではありません。」


「どういうこと?」


「相手をひどく苦しめたり、自由を必要以上に奪ったりする約束まで認めてしまうと、安心して暮らせる森ではなくなってしまいます。」


「この紙には、『一日なんでも言うことを聞く』と書かれています。」


「これでは、どこまで従わなければならないのか決まっていません。」


「相手を不当に縛る内容になってしまいます。」


カイは驚いた顔をしました。


「でも、ちゃんと名前を書いたよ?」


「はい。」


ルツは優しくうなずきます。


「ですが、みんなが安心して暮らすための大切な考え方に反する約束は、効力を認めることはできません。」


「約束にも限界があるのです。」


広場のみんなも静かに話を聞いていました。


カイはしばらく黙っていましたが、やがて肩を落としました。


「ぼく、面白いと思ってやっただけだった。」


モモは小さな声で言います。


「本当に何でもしなきゃいけないのかと思って、すごく怖かった。」


その言葉を聞いたカイは、はっとしたように顔を上げました。


「……ごめん。」


そう言うと、紙を細かく破ります。


「もうこんな約束は作らない。」


モモは安心したように笑いました。


「ありがとう。」


ルツも穏やかに微笑みます。


「約束とは、お互いが安心して守れるものであることが大切です。」


その帰り道。


ピコが池のほとりから駆け寄ってきました。


「ルツ先生!」


「はい。」


「悪い約束でも、紙に書いたら守らなきゃいけないの?」


ルツは優しく答えます。


「紙に書くことは、約束を確かめる方法の一つです。」


「ですが、人をひどく困らせたり、みんなが安心して暮らせなくなるような約束まで認められるわけではありません。」


「そのような約束は、紙に書いてあっても効力はありません。」


ピコは「なるほど!」と元気よくうなずくと、お父さんのカモンを見つけて手を振りながら走っていきました。


ミホはその後ろ姿を見送りながら、小さく笑います。


「今日はパンを買う前に相談が始まっちゃったね。」


ルツも穏やかに微笑みました。


「そうでしたね。ですが、皆さんのお役に立てたようで何よりです。」


「じゃあ、今度こそパン屋さんへ行こう!」


「はい。焼きたてが残っていると良いですね。」


二人は並んで森の道を歩き始めました。


ほどなくして、ココのパン屋から香ばしい香りが漂ってきます。


「いらっしゃい! ちょうど焼きたてだよ!」


ココが笑顔で迎えると、ミホの目がぱっと輝きました。


「やった!」


ルツはそんなミホの様子を見て、優しく目を細めます。


森の街には、今日も穏やかな時間が流れています。


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