約束の橋
ルツの相談所には、朝のやわらかな光が差し込んでいました。
ミホは机に向かって、本を読んでいます。
「ルツ、信頼ってどういう意味?」
ルツは書類から顔を上げて答えます。
「信頼とは、相手を信じて任せる気持ちのことですよ。」
「約束も、その信頼があるから成り立つのです。」
ミホは「なるほど」とうなずきました。
そのとき、相談所の扉が勢いよく開きました。
「ルツさん、困りました!」
入ってきたのは、村長のナナです。
「どうしましたか。」
「小川にかかる新しい橋が、今日完成する約束だったのですが……まだできていないのです。」
「橋がないと畑へ行けませんし、荷物も運べません。」
「みんな、とても困っています。」
ルツは静かに立ち上がりました。
「事情を聞きに行きましょう。」
「ミホさんも一緒に行きますか。」
「うん!」
ミホは元気よく返事をしました。
二人はナナとともに、小川へ向かいました。
橋のたもとには、たくさんの動物たちが集まっています。
「今日から渡れると思ってたのに。」
「パン屋へ届ける小麦も運べないよ。」
困った声があちこちから聞こえてきました。
そのとき、大きな木材を抱えたタクトが走ってきました。
「すみません!」
息を切らしたタクトは、深く頭を下げます。
「橋は……まだ完成していません。」
周りは静まり返りました。
ルツは穏やかな声で尋ねます。
「タクトさん。橋は今日までに完成させる約束だったのですね。」
「はい。」
「完成できなかった理由を教えていただけますか。」
タクトは申し訳なさそうに話し始めました。
「別の橋の修理も頼まれていて……。」
「どちらも間に合うと思って引き受けたのですが、思ったより時間がかかってしまいました。」
「途中で断ることもできず、こちらが遅れてしまったんです。」
ルツは静かにうなずきました。
「大雨や事故など、どうしても避けられない出来事ではなかったのですね。」
「……はい。」
「私の見通しが甘かっただけです。」
ミホが首をかしげます。
「橋を壊したわけじゃないのに、何か責任があるの?」
ルツは優しく答えました。
「あります。」
「『約束したことをきちんと行うこと』も大切な義務なのです。」
「できると約束したのに、正当な理由がないまま果たせなかったときは、そのために困った人への責任が生じることがあります。」
リリが橋の向こうから駆け寄ってきました。
「ミホ! こっちに来ようと思ったのに、橋がなくて遠回りしてきたよ。」
「みんな困ってるんだね。」
ルツは続けます。
「もちろん、誰にも防げない出来事なら責任を負わない場合もあります。」
「ですが、自分で防ぐことができた理由なら、約束を守れなかった責任について考えなければなりません。」
タクトはもう一度頭を下げました。
「皆さん、本当に申し訳ありません。」
「今日中に完成させます。」
すると、ガロンが前へ出ました。
「木材を運ぶくらいなら手伝うよ。」
フウも手を挙げます。
「道具なら私が運びます!」
「ぼくも!」
「私も!」
ミホやリリも枝や縄を運び始めました。
みんなで力を合わせると、夕方には立派な橋が完成しました。
「渡れる!」
子どもたちは橋を駆け渡り、嬉しそうな声が森に響きます。
タクトは集まったみんなへ深く頭を下げました。
「これからは、引き受けられる仕事だけを約束します。」
「もし間に合わないと思ったら、すぐに相談します。」
ルツは穏やかに微笑みました。
「約束を守ることは、相手との信頼を守ることです。」
「そして、守れなくなりそうなときは、早めに伝えることも誠実さなのですよ。」
ミホは完成した橋を見つめながら言いました。
「約束って、相手が信じて待ってくれているからあるんだね。」
「その通りです。」
ルツは静かにうなずきました。
橋の上には、安心したみんなの笑顔が広がっていました。




