壊れた植木鉢
朝の森を、ミホとリリがココのパン屋へ向かって歩いていると、どこからか大きな声が聞こえてきました。
「ぼくじゃないよ!」
「あっ、待ちなさい!」
声のするほうを見ると、雑貨屋のガロンと、アライグマのカイが店の前で話しています。
店先には土が散らばり、きれいな花が植えられていた植木鉢が、粉々に割れていました。
「どうしたの?」
ミホが駆け寄ると、ガロンは困ったように頭をかきました。
「店の前に置いていた植木鉢が割れてしまったんです。」
「ぼく、走っていただけなんだ!」
カイはあわてて言いました。
「友だちと競走していたら転んじゃって……。」
リリは割れた植木鉢を見つめます。
「じゃあ、そのときにぶつかったの?」
カイはしょんぼりとうつむき、小さくうなずきました。
「……うん。でも、わざとじゃないんだ。」
そのときでした。
「何かお困りですか。」
聞き慣れた優しい声がして振り向くと、森の法律やさん、ルツ先生が歩いてきました。
ガロンは事情を説明します。
ルツは静かに割れた植木鉢を見つめ、それからカイにたずねました。
「カイさん。植木鉢を割ろうと思って走ったのですか。」
「そんなわけないよ!」
「そうですね。」
ルツは穏やかにほほえみました。
「では、急いで走っていたのですね。」
「友だちと競走してたんだ。」
「店の前でもですか。」
「……うん。」
ちょうどそのころ、池のほうからカモンとピコもやってきました。
割れた植木鉢を見ると、ピコは目を丸くします。
「わあ……。」
ルツはみんなのほうを向いて話し始めました。
「森では、わざと物を壊す人はほとんどいません。」
「ですが、不注意で誰かの大切な物を壊してしまうことはあります。」
ピコは首をかしげます。
「わざとじゃなくても?」
「はい。」
ルツはうなずきました。
「自分の不注意で相手に損をさせてしまったなら、そのままにしてはいけません。」
「壊れた物を直したり、新しい物を用意したりして、できるだけ元に戻そうとすることが大切なのです。」
カイは割れた植木鉢を見つめたまま、小さな声で言いました。
「……でも、おこづかいじゃ買えないよ。」
ガロンはやさしく笑いました。
「私も、全部を一度に払ってほしいとは思っていませんよ。」
するとルツが続けます。
「大切なのは、責任から逃げないことです。」
「たとえば、おこづかいを少しずつためて植木鉢代を払う方法もあります。」
「お店のお手伝いをして、お返しをする方法もあります。」
「相手が納得できる方法を、お互いに話し合えばよいのです。」
カイはしばらく考えていましたが、やがて顔を上げました。
「ガロンさん。」
「はい。」
「ぼく、お店のお手伝いをする。」
「それと、おこづかいも少しずつためるよ。」
ガロンはにっこり笑いました。
「ありがとうございます。」
「それなら、一緒に新しい植木鉢を選びましょう。」
それから数日後。
カイは毎朝、ガロンの店へ行き、店の前を掃除したり、荷物を運んだりしました。
「ずいぶん助かっています。」
ガロンはうれしそうに笑います。
そして、新しい植木鉢が店先に並びました。
前より少し大きな植木鉢には、色とりどりの花が元気いっぱいに咲いています。
「きれい!」
リリが思わず声を上げました。
カイも、ほっとしたように笑っています。
お店の外で、ミホはルツに話しかけます。
「今回は、誰が悪いかっていう話じゃなかったね。」
ルツはやさしくうなずきました。
「はい。」
「もちろん、わざと物を壊すことはいけません。」
「ですが、不注意で起きた出来事でも、相手は困ってしまいます。」
「だから法律は、『どう責任を果たして元に戻すか』も大切に考えているのです。」
ミホは新しい植木鉢を見つめながら、大きくうなずきました。
「ちゃんと謝って、元に戻そうとすることも、大事なんだね。」
「その通りです。」
ルツは穏やかにほほえみ、ふたりは花いっぱいの雑貨屋を眺めながら帰っていきました。




