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勇者の魔石を求めて  作者: 圭太朗
王国歴622年6月13日(月)
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32-19「上申をめぐる重み」


「イチノスさん、本当に話を聞くだけでしたね(笑」


 ヤセルダさんたち商人が大会議室から退席して静寂が戻ったところで、ナログさんの含みを持たせた言葉が耳に届いた。


「そうですね。私が口を挟むと『領主代行への口利き』を願われそうなので控えていました(笑」


「ハハハ やはりイチノスさんは気付いていたんですね(笑」


「ククク ナログさんも気付いていたんでしょ?(笑」


「ハハハ⋯」


 俺の切り返しに、ナログさんの笑いはどこか冷ややかだ。


 まあ、ナログさんも商人たちと約束してしまった上申書の作成など、この先のことを考えて負担を感じているのだろう。


 そして何より、上申書が通るように領主代行となったフェリスさんと俺との関係を頼りたい思いもあるのだろう。


「それにしても、シーラさんは腕木通信と運河運送組合の関係性をご存じだったんですね?」


 おっと、ナログさんが矛先をシーラに向けて来たぞ。


「えぇ、その付近は相談役の採用試験や面接を見越して学んでいましたね」


 相談役の試験?

 シーラはそんなものを受けるつもりだったのか?

 俺にはそんな話はなかったな。


 来ていたとしても、自分から受けに行く考えにはならなかっただろう。


「結局、試験はなく面接だけだったのですが、そのときに随分とランドル領とウィリアム領、それにジェイク領の関係を学ばせていただきました」


「それって⋯ シーラさんはもしかして、あの対策本を読まれたりしたんですか?」


「あら、ナログさんはあの本をご存じなんですか?」


「ちょっと自慢話になりますが、よろしいですか?」


 そう告げたナログさんが椅子に座り直して話を続けた。


「あの本に腕木通信を運河運送組合で担う話がありますよね?」


「えぇ、先ほどのヤセルダさんたちがお話しされていたことですよね?」


「実はですね、ウィリアム領とランドル領、そしてその先の王都まで腕木通信を運河運送組合で担うようにするように進めた仕事に、若い頃に関わったんですよ」


 ナログさんから思わぬ話が出てきたぞ。


「あら、それなら今回の調整役にはナログさんで決定ですか?(笑」


「いやいや、シーラさん。それはフェリス様やアキナヒさんが決めることですよ。今の私は、三つの領での連携を西方再開発事業の案件に組み込んでもらう上申を作り上げるだけです(笑」


 そうした口ぶりのナログさんだが、なぜか嬉しそうに聞こえる。


 それにどこか俺への視線が強くないか?


 これは俺にもシーラと同じ知識があるかを確かめているのか?


 いや、違うな。

 これはナログさんもヤセルダさんたちと同じで、フェリスさんへの上申に力を貸せと言うことか?


 とはいえ、ウィリアム領、ストークス領、ジェイク領での連携を密にして確実なものにする仕組み作りは、西方再開発事業の目玉にもなる気がする。


 このリアルデイルの街は、三つの領主領土の中継地点になり得る場所だ。


 ナログさんがどんな上申を書き上げるかにもよるが、何らかの形で腕木通信のような連絡手段を整える必要は出てくるだろう。


 そしてそこには魔法技術による支援を求められる可能性も否定できないな。


 コンコンコン


 そんなことを頭の中で巡らせていると、会議室の扉をノックする音が響いた。

 その音に皆が一斉に視線を向けると、そこには軽く頭を下げたアナスタが立っていた。


「シーラ様、イチノス様、帰りの馬車の支度が整いました」


「そうだったわ。待たせてしまったわね。アナスタ、ありがとう」


「まだお時間を要するようであれば、今しばらく待たせますが?」


 その声に改めて皆が壁の時計を見やると、四時半を回っていた。


「もうこんな時間、直ぐに向かいます」


 空かさずシーラが応じたことで、アナスタは頷くように軽く一礼すると扉の向こうに消えていった。


「シーラさん、イチノスさん、引き止めて申し訳ありませんでした」


 急に立ち上がったナログさんが頭を軽く下げながら告げて来た。


 その時、同じように立ち上がったシーラが俺を見てきた。これは俺に締めの言葉を言わせる気だな。


「いえ、こちらこそナログさんに時間を取らせて申し訳ありませんでした」


 俺は席から立ち上がり、ナログさんに応えて軽く頭を下げると、隣のシーラも軽く頭を下げていた。


 ナログさんの見送りを固辞し、シーラと共に大会議室を後にした。

 階段を降りると、アナスタとナタリアさんが立ち話をしており、アナスタはすぐに俺とシーラに気づいて軽く頭を下げた。それにつられたのか、ナタリアさんも少し慌てて軽く頭を下げた。


「シーラ、すまんがちょっと寄らせてくれ」


 俺はそれだけ告げて、商工会ギルド裏口外の便所へ向かった。


 ◆


 用を済ませて外に出ると、ナタリアさんが一人で待っていた。


「イチノスさん、シーラさんは先に乗り込んでます」


 手を洗い終えたところで、ナタリアさんが黒塗りの馬車を指差して知らせてくれた。その馬車を見ると、個室のドアが開かれたままで、その前にアナスタが一人で立って待っていた。


「ナタリアさん、待たせて済まないね。申し訳ないがナログさんに伝言を頼めるかな?」


「はい、何ですか?」


「さっきの会合だけど、『議事録の確認は不要です』と伝えて欲しいんだ」


 ナタリアさんが微笑みながら視線を少し右上に向けた。まるで、その視線の先に記憶が貼り付いているかのように、ゆっくりと応えてきた。


「あぁ、わかりました(笑」


 先程の会合で俺が一言も発さなかったことに気づいたようだ。


「言われてみれば、イチノスさんとシーラさんの確認は不要ですよね(笑」


「理解してくれて、ありがとう(笑」


「はい(笑」


「じゃあ、ここで失礼しますね」


「はい、お疲れさまでした」


 そうして俺は、ナタリアさんに見送られて黒塗りの馬車へ向かった。


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