幕間 タロウは温泉に入りたい
ユーマがタロウと暮らし始めて半年が経ったころであった。
ユーマとタロウは二人の野営地の近所にある山へと登っていた。この世界にも慣れたタロウから少し探検がしたいと持ち掛けられたためである。
その山は高さこそないものの、うっそうとした森林に覆われ、程よい探検感がかもちだされている。
ゴロゴロとした岩が点在する山肌の上を頂上を目指して順調にその足を進めていく。
そして山の中腹に差し当たった辺りで、タロウは先行して進むユーマを呼び止た。
「ユーマよ、少し喉が渇いたのう。どこかに川はないかの?」
「うーん……ここを下ったところにあるかもしれない」
ユーマは左手側の下方を指しながらタロウに答えた。
「ここは崖じゃのう」
「崖だな。でも降りれそうな道もある」
「……おぶっておくれ」
ユーマは慣れた手つきでタロウをおぶる。幸いにもタロウは非常に小柄であり、十二歳のユーマであっても難なくおぶることができ、事あるごとにタロウをおぶっていたのであった。
「ゆ、ゆっくりで頼むぞ」
少し怯えた声でタロウは言う。
「わかってる」
そうして崖を降りていくと、かすかに水の流れる音が聞こえ始めた。さらにさらに崖を下っていくと、その音は徐々にはっきりとしたものと変わっていった。
そしてユーマはその視界に川の存在を捉えた。
「タロウ、川だ。あったぞ」
「う、うむ。ま、まずは地面に降りてくれ」
タロウはどもりながらユーマに答えた。
「ふぅ。生き返るのう」
タロウは川の水を飲みながらほっと一息ついている。
「ああ。──この水、少し味がおかしくないか?」
「ん? そうかのう? あまり感じんが」
「いや、間違いない。少しだけ血の味が混ざっている」
「血の味が……? となると、もしかすると」
タロウはそう言うとユーマの背におぶさるように乗りかかった。
「……どこへ行けばいい?」
ユーマはタロウの行動の意図をすぐに理解し、タロウをおぶさり立ち上がった。
「このまま川を上流に向かっておくれ」
「ああ、わかった」
ユーマは足元の悪い河原をゆっくりと上流に向かって進んで行く。
そしてタロウの重さが苦に感じ始めたその頃、ユーマは川の右岸あたりの地面から何かがこんこんと湧き出ているのを見つけた。
湧き出しているものの周りの岩は、鉄の成分が茶色く色づいてしまっている。
「タロウ、あれは何だ? 何か出てるし、茶色いし……」
ユーマは川の右岸を指さしてタロウに問いかける。
タロウは心地よい揺れに寝入ってしまっていたようだ。反応が少し遅れる。
「──ん……、おお! あれじゃあれじゃ!」
タロウはユーマに川の右岸まで運んでもらうと、早速、目当てのものに触れてみせた。
「……ぬるいのう。川の水と混ざりすぎてるようじゃな。だが、うまく調整出来れば……」
タロウは独り言を呟くかのようにぼそぼそと言葉を発していた。
「何を言っているんだ?」
「ユーマよ。この世界には『温泉』というものはあるのかのう?」
「『温泉』?? なんだ、それは?」
「まあ、そうであろうな」
タロウはわかってはいたものの念のため確認したという様子であった。そしてユーマに『温泉』について熱く説明していった。
「なるほどな。──でもこんなところから本当にお湯が出ているとしても、どうやって入るんだ? このままじゃ冷たくていつもの沐浴と何にも変わらないぞ」
「うーん…………あ、そういえば。ユーマよ、お主『振動』が使えるのだったな。一つ試して欲しいことがある」
タロウはそう言うとユーマに護身用の剣をその手に取らせる。
そして、剣身が高速で『振動』するように頭で想像しながら能力を発動するように伝えた。
ユーマはタロウの言う通りに能力を発動する。
するとユーマの瞳が赤く光ると同時に、その手に握った剣の剣身がゆっくりとカタカタと音を立てながら『振動』し始めた。
「よしよし。それを少しずつ細かく高速に『振動』させてごらん」
「──!」
すると剣身の『振動』が僅かに早くなる。
そうして何度か練習を繰り返すと、ユーマの剣からは異様な低音が放たれるようになっていった。
「おお、見事なもんじゃ。どれ、その剣でそこの岩を切ってごらんなさい」
「!? 剣で岩を??」
(……そんなことしたら手が痛くなるんじゃ……)
ユーマは半信半疑ながら、近くにあった大きな岩に向かってその剣を振りかぶった。
そして上段から一気に振り下ろす。
しっかりと腰の入った型から繰り出された剣は、子どものものとは思えない速さで岩を襲った。
瞬間、岩は音もなく真っ二つに切り裂かれていた。
「──!!」
ユーマは驚きを隠せない様子だ。
いくら冒険者を目指して日頃から鍛錬を怠らなかったユーマと言えど、ただの剣で岩を切ることなど不可能であった。
それを役立たずとさげすまれた自らの能力で可能にしたのだ。驚くのも無理はなかった。
「ほほぉ。だから言ったじゃろ? 『振動』は最上の能力だと。ワシの見立てではまだまだ色々な使い方が出来るはずじゃ。それも追々教えてやろう。──じゃが何より先にまずは『温泉』じゃ。ユーマよ、この調子で岩を四角に切り裂いていくのじゃ」
そう話すタロウの目はいつになく輝いていた。
そうしてユーマは『振動』を利用して岩を切り刻み、川と源泉を隔絶するように源泉の周りを一周するように積み重ねていく。鋭利に切断された断面は重ね合わせたときに水を通さないほどであった。
──岩を切り、運び、積み重ねる。それを繰り返し、人が五人ほど横になれるほどの大きさの岩の浴槽が完成した。
「ユーマ、ありがとうのう。──それにしても最高の湯じゃのう」
「これが『温泉』か。本当に気持ちがいいな!」
二人は肩まで温泉へと浸かり、ほっと一息。その姿はまるで祖父と孫の関係のようであった。
こうして二人はゆっくりと『温泉』を楽しんだのだった。
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