第十九話 神具
そうしてユーマ達はレノスを連れ、再び王都北のダンジョンを訪れていた。
三人は坑道風の入り口からダンジョンへと足を踏み入れると、慣れた様子でその足を進めていた。
「なるほど。このダンジョンの先に祭壇があったというわけですか」
「ああ。だが、このダンジョンは古代の魔王が作り出したものと聞いている。そんなところと神の祭壇がなぜ繋がっているのだ?」
ユーマの疑問は至極当然だ。魔王と神は相対するもの。故に、それぞれに関するものが隣接していることは本来であればあり得ないことなのだ。
「このダンジョンが出来たのははるか昔の話です。さすがに私も当時を生きていたわけではないので詳しいことはわかりませんが……古代の魔王は神の使いであったと言われています」
「──ん? そんなの初耳じゃぞ?」
魔王は首を傾げながらレノスを見つめる。
しかし、レノスは呆れ顔をしながら魔王に応えた。
「いえ、魔王様には何度かお話しておりますが……」
「まあいい。それで、どういうことなんだ?」
「はい。古代の魔王……それはつまりは最古の魔王なのですが、その魔王は人々に恐怖を与えるための存在として神に作り出されました。そしてその魔王を、神から授けられた能力を駆使して勇者が打ち倒す。そうして神の力を誇示することで神への信仰心を作り出すことが目的であったと言われているのです」
「ふむ。なるほどな。と、するとその勇者も神の使いなのか?」
「さすがユーマ様。おっしゃる通り、神と魔王の争いは神達によってでっち上げられたものなのです」
「それで最古の魔王以外に魔王に扮した神の使いはいたのか?」
「はい、数代は神の使いが魔王に扮していたと聞いています。おそらくは魔物達を扇動し、凶悪な魔物の出現を待っていたのでしょう」
「なるほどな。そうして神が望んだ通りに人対魔物の争いが起き、現在まで継続したということか」
魔王は頭から煙が出そうなほど、難しい顔をして考え込んでいるようだ。
「さっぱりわからんのう……」
魔王の発言を無視するかのように、ユーマはレノスとの話を続けた。
「だがなぜそんな面倒なことを? 神にそこまでの力があるのであれば、力でこの世界を支配してしまえばよいのではないのか?」
「──ユーマ様のおっしゃる通りです。ですが、私もそこまで詳しいことまでは……」
「そうか。しかし、有益な情報を得られて助かる」
「まあレノスは代々、魔王に仕えてきた由緒ある魔族だからのう。魔王に関する歴史については誰よりも詳しいのじゃ」
魔王はさも自分のことのように誇らしげに語る。
そうこうしているうちに、魔王が床を抜いた広場へとたどり着いた。
そこは広場一面の床が抜け落ちており、先の見えないほどの大穴が開いている状態であった。
「登るのは簡単だったが、もう一度降りるのはちと骨が折れそうだのう」
魔王は腕を組みながら穴を覗き込む。
「お前は俺に掴まっていただけだろう……。まあいい、先に行っていろ。すぐに追いつく」
ユーマはそう言うと、腰から剣を抜き去り魔王の足元の床を切り裂いた。
「--へ??」
魔王は切り裂かれた床と共に大穴の中へと落ちていった。
「ひぃいいぃい!!」
魔王の叫び声は大穴をこだましているが、少しずつその声は遠くなっていく。
「レノスは俺から離れないように」
レノスはユーマに頷き、背後から抱きつくような形となる。そして二人は躊躇なく大穴の中へと飛び込んでいった。
二人はそのまま魔王の元へと勢いよく降下していく。
床石による抵抗によって降下速度が遅い魔王に追いつくのは難しくはなかった。
ユーマは魔王に追いつくや否や魔王を抱きかかえ、床石を利用して大穴の壁へ向かって飛び跳ねる。
そして右手に携えた剣を壁へと突き刺した。
ユーマの能力によって高速振動する剣は、大穴の岩壁をいとも簡単に切り裂いていく。
その鋭すぎる切れ味はユーマ達の降下速度をわずかに遅くさせただけであった。
その後ユーマは機をみて剣の『振動』を緩やかなものにしていった。
すると、徐々に降下速度が低下していき、そし地面ギリギリの高さで停止するに至ったのであった。
「おい、着いたぞ」
ユーマはそう言うと魔王を抱きかかえた手を開放した。
魔王はうつ伏せの状態で地面と衝突する。
それと同時にドサッというにぶい音が地面から発せられた。
「…………」
魔王は自らの扱いが不服であったのか、不満そうな顔をしてユーマを睨んでいる。
それとは対照的に、レノスはスマートにユーマから離れた。
「では行くぞ」
ユーマは魔王の手を取り立ち上がらせると、祭壇のある広場へと足を進めていった。
そして広場へと到着するや否や、レノスは早速祭壇を確認する。
「──これは確かに神聖文字ですね」
「読めるか?」
「はい、なんとか。──神具は神と会するのに必要なもの。それは三つの指輪からなり、三つの祭壇に祀られている。三つの指輪を集めしものは、聖殿にそれをささげよ。さすれば道は開かれん」
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