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第十四話 光と音

 するとユーマ達の拘束が解かれ、その体が自由になった。


「おい、魔王。お前の能力(スキル)で神官の精神の時間を進めることは出来るのか?」

「出来るとは思うが?」

「ではやってみろ」


 魔王は神官の頭に手をやり、その瞳を赤く光らせた。


 瞬間、神官の悲鳴にも似た叫び声が教会中にこだまする。

「あああぁああああぁああぁ!!!」


 神官は膝から崩れ落ち、四つん這いの姿勢になる。そして地面に置いた手で何かを探るような仕草を見せていた。


「これは……??」

 魔王は怪訝(けげん)な表情を浮かべている。


「光も音も『振動』しながら進んでいる。それを少しいじり、神官に届かないようにした。──つまりいま神官は音も光もない、本当の暗闇の中にいる感覚に囚われているはずだ。そしてそんな中に長時間置かれたら誰であろうと発狂するだろうな」

「…………」

 魔王は思わず息を呑む。当たり前と思っていた視覚や聴覚を突然失ってしまったらと思うと、背筋がゾッとする


 そしてしばらくすると神官の動きが止まり、神官の荒い息遣いだけが聞こえてくる。

「はぁ……はぁ…………はぁ……」


「どうだ? 聖水を渡す気になったか?」

「──誰が貴様らなんぞに!」

 神官は苦悶の表情を浮かべながらもユーマの言葉を拒絶する。


「そうか。そんなに暗闇が好きか」

 ユーマはそう言うと神官の光と音を再び奪った。


「こんなものには屈しはせぬぞ……」


 そうして何度も何度も繰り返して暗闇を与えた。

 神官の叫び声だけが何度もこだまする。


「ああぁぁああぁああああぁああぁ!!!」


「あああぁああああぁああぁ!!!」


「ああぁぁああぁああああぁああぁああああ!!!」


「──そろそろか」

 ユーマはそう言うと、その手に持った剣を神官に向けて上段に構えた。


 瞬間、神官の暗闇が解かれる。

 そして神官は状況を確認するかのように周囲を確認した。


 しかし、その目に入ってきたのはユーマから放たれた剣の一撃であった。

 上段から振り下ろされる剣圧により押し出された空気が風となり神官を襲う。


「ひっっ!!」

 神官は目の前に迫る一撃を前に、その体を硬直させる。


 だがユーマの剣は神官へと届くことはなく、神官の額まで紙一枚の隙間で止められていた。

 そして神官は腰が砕けたかのようにその場でへたれこんだ。


「俺達は既にお尋ね者だ。無理矢理にでも奪っていってもいいのだが……さあどうする?」

「──わ、わかった……もう許してくれ」

 そう話す神官の顔は憔悴(しょうすい)しきったものであった。


「おい、こいつらに聖水を──」

 神官は警備兵に声を掛けるも、既にここには警備兵の姿はなかった。


「……少し時間を掛け過ぎたか。おい、聖水はどこだ?」

 神官は祭壇の付近にある棚を指差した。

 そしてユーマは棚を開け、大量に陳列された聖水を二本抜き取った。


「これが金貨一枚か??」

 その聖水は見るからに量産品であり、精々銀貨一枚が相場であるようなものであった。


「ふん。この国の民どもは我ら教会の庇護の元で職にありつけているわけだ。そこから搾り取って何が悪い? それが我ら教会の特権だからな」


 神官のその言葉に、ユーマは憤怒の表情を浮かべ神官を睨みつけた。

「おい、ユーマ。早くしないと面倒なことになるぞ」

「ああ。わかっている。──代金だ。受け取れ」


 ユーマはそう言うと、神官に向けて金貨を一枚放り教会を後にした。

 そして建物の影で待機していた少女にこう声を掛けた。

「お前が盗みを働いた街道まで来い。誰にも見つからないようにな」


 ☆


「──あ、あの、言われた通り誰にも見られずに街を抜けてきました」

 少女がユーマ達へ声を掛けた。


「ああ。早速だが、これをやる。たまたま拾ってな」

 ユーマはそう言うと少女に聖水を二つ手渡した。


「え……これって!?」

「素直じゃないのう。どうせ教会の話を聞いて腹が立ったのであろう?」

「ふん」

「──な、なんとお礼をしたら良いのか……」

「気にするな」


「もしよろしければお名前を教えていただけないでしょうか? 申し遅れましたが、私はクレアと言います。本当にありがとうございます」

「気にするなと言っているだろう。──俺はユーマだ」

「我は……」

 魔王は言葉に詰まってしまう。

 しかし、ユーマは臆せずに魔王が魔王であると伝えた。

「こいつは魔王だ」


「え!? 魔王って、あの魔王ですか??」

「ああ、そうだ」

「──魔王って意外と抜けてるんですね」

 クレアはそう言うと口を片手で隠しながら笑っている。

 そしてこうも続けた。

「でも優しい魔王さんでよかったです」


「驚かないのだな。──でもまあ、こんなやつが魔王と言われて驚けと言う方が難しいか」

「おい、ユーマ。それはどういった意味かのう?」

 二人の掛け合いをみてクレアは再び笑っていた。


「そう言えばユーマさんはなぜ魔王さんと一緒に旅をされているんですか?」


「ああ、ちょっとした野暮用でな。大神殿まで向かっている」

「大神殿ですか……。大神殿までの道には神官しか通ることを許されない森があると聞いたことがあります。詳しいことはわかりませんが、どうかお気をつけて……」


「ああ。では行くぞ」

 ユーマはそう言うと、少女をその場に残し歩き始めた。


「うむ! 宿屋はどんなところかのう? 楽しみじゃな!!」

「──何を言っている? あれだけの騒ぎを起こして街に入れるとでも思っているのか??」

「な! 王都では大丈夫であったではないか!!」

「あれは手配書が出回る前だったからな。既に出回ってしまっている上に、騒ぎを起こしたとなれば警戒が上がるのが必然だろ?」

「ぐぬぬぬ……せっかくの宿屋が……」


 こうして二人はこの日も野営することになったのであった。

お読みいただきありがとうございます!


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