第十三話 聖水
少女の右手からは掌大の革製の袋がこぼれ落ちた。
袋が地面に落ちた弾みで、中に入っていた銀貨と銅貨が地面へと転がる。
「──それは我の!」
その袋は魔王の硬貨入れであったのだ。
「それで、何か言いたいことはあるか?」
ユーマは少女の手首を強く握ったまま、少女へ問いかけた。
「──っ!!」
拘束から逃げ出そうと暴れだす少女。しかし、ユーマの拘束からは少女の力では逃げ出すことが出来なかった。
少女はひとしきり暴れたのち、諦めたかのようにその体を脱力させ、こう話した。
「──お金が必要で……。そのお姉さんなら少し抜けてそうだから大丈夫だと思ったんです……」
「そうか。人をみる目はあるようだな。──しかし、この国は全ての人間に職業が当てがわれる。最低限の生活をしていく分であれば、問題なく稼げるだろう? それなのに金が必要とはどう言うことだ?」
「おい! 聞き捨てならないぞ!!」
魔王はユーマの発言に文句があるようだった。しかし、ユーマは魔王の言葉を無視し、少女との会話を続けた。
「──数日前に両親が病に倒れてしまって。お医者様にも見ていただいたのですが、聖水を飲ませないと一ヶ月も持たないかもしれない、と」
「ほう。それで?」
「そして、聖水をいただこうと街の教会を訪ねたのですが、『お前のような貧乏人を相手にする時間などない! 聖水が欲しければ金貨一枚を用意してこい!』とまともに取り合ってすらもらえなかったのです……」
そう話す少女の顔は悔しさや不安などの感情が入り混じった悲壮感に満ちた顔をしていた。
「聖水は万能薬とは言われているものの、二人分で金貨一枚はちと高すぎる気もするのう」
「確かにな。──しかし教会と言うのはどこもかしこも腐っているようだな。反吐が出る。だが、それとこれとは話は別だ。その金をお前にくれてやることは出来ん。それは俺達の貴重な生活費だ」
ユーマは表情を変えずに淡々と話す。
「──はい。すみませんでした……」
少女はそう言うと、地面に落ちた硬貨を拾い集め自身の服で汚れを落とす。そして硬貨を革袋へと戻し、魔王に手渡した。
硬貨を受け取った魔王は複雑な表情を浮かべている。
「……おい、ユーマ──」
魔王の言葉を遮るようにしてユーマが少女に話しかける。
「盗みの件は許してやるから教会まで案内しろ。丁度教会に用事があってな」
「は、はい!」
ユーマのその言葉を聞き、魔王の表情は明るいものへと一変したのであった。
☆
少女の案内によりユーマ達はミッドランドへと辿りついた。
この街は王都ほどの煌びやかさはないものの、街道は石畳で整備され、建物もしっかりとした石造りのものが大半であった。
そして王都直近の街と言うだけあって王都からの行商人などで賑わっている。
「ミッドランドへようこそ。ここは中央通りで、この先を進んだ所に教会があります」
「そうか。早速で悪いが、このまま教会へ案内してもらえるか?」
「はい。こちらになります」
少女はそう言うと教会へ向けて歩き始めた。
しばらく中央通りを進んで行くとユーマ達の目の前に、天使をモチーフにしたレリーフが彫られている建物が姿を現した。
そしてユーマは対面の建物の影を指しながら少女に指示をする。
「お前はそこの影で待っていろ」
「──はっ、はい!」
少女が建物の影に入ったことを確認したユーマは迷うことなく教会の扉を開き、中にいた警備兵へこう言った。
「聖水が欲しいのだが」
「は? なんだ貴様は?」
警備兵は怪訝な表情を浮かべながらユーマ達の顔をまじまじとみつめる。
「──いや、待てよ。黒髪と銀髪の男女……。王都の教会を襲撃したのは貴様らか!」
ユーマ達の正体に気付いた警備兵は腰に携えた剣を抜き、ユーマ達に向けて構えた。
どうやらこの街にもユーマ達の情報が回っていたらしい。
しかしそんなことお構いなしにユーマは聖水の要求を続ける。
「いいから早くよこせ。二人分だ」
「きさまぁ!!」
警備兵はユーマへと斬りかかろうと、その剣を頭上へと振り上げた。
瞬間、ユーマは腰に携えた剣を抜刀し、そのまま警備兵の剣に向けて斬りあげる。
「──っ!!」
そして警備兵の振り上げた剣は刀身が半分に切断され、床へと突き刺さった。
「ひっひぃいい!!」
警備兵は予想だにしていなかった事態に堪らず悲鳴をあげる。
そしてユーマは剣の切っ先を警備兵へと向けた。
しかしその時、教会の奥にある扉が開き神官服を身に纏った大男が姿を現した。と同時に教会内に響き渡るほどの大声で叫ぶ。
「なんの騒ぎだ! ここは神聖なる神の御前なるぞ!」
しかしユーマはその声にも臆することなく神官へと近付いていく。
「あんたが神官か? 聖水が欲しいんだが」
神官は辺りを見渡した。そしていま起きている状況を把握し、ユーマを睨みつけてこう言った。
「──貴様らが王都の教会を襲撃した不敬なやつらだな? 貴様らに渡す聖水などあるわけなかろう!」
「そうか」
ユーマはそう言うと、神官へと向かって駆け出し、神官の足元の床を軽く斬りつけた。
ユーマの剣はその切っ先が僅かに触れただけであったが、床にはパックリと切り跡が残った。
「……脅しのつもりか?」
神官はその切り跡に臆することなくユーマを睨み続ける。
「別にお前達に危害を加えるつもりではないんだが」
「どの口が言うか!! だがどちらであっても関係はない! 貴様らはここで終わりなのだからな!!」
神官はそう言うと、その瞳を赤く光らせる。
「ほう。体が動かせんな……」
ユーマ達はその体が何かで固められたかのようにその動きが拘束されてしまったのであった。
だが、そう話す魔王の口調は不思議と落ち着いている。
「どうだ。これが我が能力! 神より授けられし恩恵なり!! 貴様ら程度が神官に逆らおうなど、笑止千万。笑いが止まらぬわ!」
神官は気色悪い笑みを浮かべながら、勝ち誇るようにそう言った。
「そうか。それはすまなかったな」
ユーマはそう話すと、赤く光る瞳で神官をじっと見つめた。
瞬間、神官の様子に異変が生じる。
神官は自身の手で目の周りを抑えるように触り始めたのであった。
「な、何をした! 何も見えぬ、何も聞こえぬぞ!?」
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