第十二話 複製品
火炎がユーマに触れるかと思われた時、ユーマは剣を地面へと突き刺した。
瞬間、ユーマの周りから衝撃波が発生し、火炎を吹き飛ばす。
だが、その衝撃波には遠く離れたグリフォンを怯ませるほどの威力はなく、グリフォンは再び火炎を放射する準備に入った。
グリフォンは火炎をその体内に貯めるかのごとく、大きく息を吸い込むようにその体を大きく仰け反らせた。
その瞬間をユーマは見逃さなかった。
ユーマはグリフォンへと向かい駆け出した。そしてグリフォンが火炎を放射せんと大きく口を開き、前傾姿勢になった瞬間、ユーマは自身の右脚で強く地面を踏みつける。
刹那、ユーマの足元を震源とした空気を震わせるほどの衝撃音が発せられた。
グリフォンの口から火炎が放射される。しかし、火炎の先にいるべき者の姿は既にそこにはなかった。
傍目で見ていた魔王ですら何が起きたのか理解出来ていなかった。
「──ユーマは!?」
魔王は咄嗟にユーマの姿を追った。
なんとユーマはグリフォンの頭上へと跳躍していたのであった。
「隙だらけだぞ」
そしてユーマはその言葉とともに、中段で構えた剣を左から右へ一閃させるように片手で斬り払い、グリフォンの首を一刀両断した。
グリフォンの頭と胴体が切り離され、その頭が地面へと落下して行く。
しかし、それが地面へと辿り着くことはなかった。
グリフォンの頭と胴体はは切断された箇所から小さな粒子と化していき、崩れ去ってしまったのであった。
それに少し遅れてユーマは地面へと着地する。
そしてユーマはグリフォンであったものを掬い上げた。
「──これは……砂?」
その砂は天井の岩と同じ、少し黄色味がかった白色をしている。
「うむ。──と言うことは、こやつは複製品のようじゃのう」
「複製品?どう言うことだ?」
「我も配下のものから聞いただけで実際に見るのは初めてなのじゃが、グリフォンなどの神の僕には原種の他に、岩や土などから作られた複製品がいるらしいのじゃ。──こやつが天井から姿を現した時にもしやと思っておったのじゃが、砂になって確信したのじゃ」
「ほう。原種と複製品の違いはそれだけか?」
「いいや、違う。複製種は複製される時の素となった岩や土の側から離れることができないようじゃ。それ故、何かを守護するのに使われるようじゃのう」
「そうか。と言うことは……」
「ん? なんじゃ?」
「いや、いい」
この時のユーマの脳裏には村を焼かれた時の光景が広がっていたのであった。
「して、ユーマよ。お主、あんなに早く移動出来たのか?」
「ああ、あれか。あれは自分にだけ衝撃波を発生させるようにして、自分を吹き飛ばしただけだ」
「ほう。なるほどのう……」
魔王はわかったような口ぶりでそう答えた。しかし、その言葉とは裏腹に魔王の顔はとぼけたような表情を浮かべていた。
「……まあいい。それで、あの祭壇には一体何が? お前のグリフォンの話が本当であれば、あいつはあの祭壇を守っていたのだろう?」
「ああ、おそらくはな」
ユーマ達はそう言いながら祭壇へと近付いた。
するとそこには1個の指輪が供えられていた。
「おお? 指輪か??」
魔王が不思議そうに手を伸ばし、そしてあろうことかその指にはめてしまった。
「どうじゃ? 似合うか??」
無邪気にも指輪を付けた手を顔の横に広げ、ユーマへとひけらかした。
「ふん。──それでここにあるのはそれだけか?」
「ああ、そのようじゃ」
魔王はそう言いながら、指輪を指から抜こうとする。
──が、どうにもこうにも魔王の指から指輪が抜ける気配がない。
「なにをしている?」
ユーマが呆れた顔で魔王をみる。
「──いやな、何かおかしいのじゃ……外れん。もしや呪いの類なのか!?」
「神の僕が守っていたくらいだ。神に関するものなのだろう。何か仕掛けがあってもおかしくはないが……。まあ、大聖堂に行けば何かわかるだろう」
「…………つまり、それまではこのままと?」
「当たり前だ。無用心なお前が悪い。──それで、出口は……あそこか」
ユーマは魔王を簡単に突き放すと、その空間唯一の扉に向けて歩き始めた。
そしてその扉を開けると、その先は先ほどまでのダンジョンと同じような坑道へと繋がっていた。
(──これは……なぜ神に関する施設と古代魔王が作ったと言われるダンジョンの造りが似ているんだ? そもそもダンジョンの真下にこの施設があったこと自体、偶然なのか……?)
ユーマが扉の前でそんなことを考えていると、その隣からユーマを呼ぶ声がする。
「おい、行かぬのか? 行かぬなら置いていくぞ? 朝の仕返しじゃ」
魔王はそう言うと、坑道へと走り出した。
☆
結局、扉の先の坑道は本来目指していた出口から大幅に外れた所へと繋がっていた。とは言え、ユーマ達は無事に関所を抜けることが出来たのであった。
そしてユーマ達は大聖殿を目指して、平原の中の街道を進んでいた。
だが、ユーマの足取りに比べ魔王のそれははるかに重く、坑道へと走り出した時の元気はすっかりと失われていた。
「あの坑道があんなにも長いとは……」
「おい、魔王。この街道をあと少し進んだ所に、ミッドランドという街がある。今日はそこで宿を取ることにするぞ」
「おお! 宿か! 良いな!!──さあ早く行くぞ!」
先ほどまでの重そうな足取りはどこへやら、ユーマの先陣を切ってずいずいと進み始めた。
するとその時、魔王は対面から歩いてきた少女と肩同士がぶつかった。
軽い衝撃音と共に、魔王とぶつかった少女が尻餅をついた。
「──!」
魔王は少女を認識していなかったようだ。驚きの表情を浮かべている。
「おい、大丈夫か?」
ユーマはそう言うと、倒れた少女へと右手を差し伸べた。
少女はまだ幼さの残る顔付きで、ユーマ達よりも少し年下のように思える。
少女の髪色は綺麗な金髪で、そして顔立ちも綺麗なものであるが、身なり含めてどことなく汚れている、そんな印象であった。
「はい……ありがとうございます」
少女はユーマのその手を左手で取って立ち上がりる。
そして少女がユーマの手を離そうとしたその瞬間、ユーマは少女の左手を強く引き、少女の体制を崩させた。
そして今度は少女の右の手首を強く掴み、ひねりあげるようにして手を上へと掲げさせる。
「おい、これはどう言うつもりだ??」
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