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第十一話 グリフォン

 魔王の背後には人の上半身と蜘蛛が融合したような、半人半蜘蛛の魔物が天井からぶら下がっていた。そしてその爪で魔王を突き刺さんと、脚を広げて狙いを定めている。


 魔王が魔物の気配を感じ取り後ろを振り向こうとした瞬間、魔物がその脚を閉じるようにして魔王へと突き刺さんとした。

 ──が、その爪が魔王へと届くことはなかった。


 魔物の脚は力なくぶらりと垂れ下がっている。


「我を誰と心得ておる? 我は魔王ぞ。──三下風情が敵うとでも思うたか」

 魔王は瞳を赤く光らせながらしたり顔でそう言った。

 どうやら魔王は自身の周囲に『時間進行』を展開し、近付くもの全ての時間を進めるという全方位かつ無差別の防衛手段を取っていたようだ。


「俺が近付いていたらどうしたんだ?」

「ん?──そ、それは……えーと……」

 魔王はそこまで深く考えてはいなかったようで答えに窮していた。しかし、全方位の防衛手段などそう簡単に張れるものではない。魔王の名は伊達ではなかった。


「しかし、ここで行き止まりか」


 ここでユーマがあることに気付く。

「おい、魔王。お前まだ『時間進行』を使っているのか?」

 魔王の足元の地面が細かい欠けら状に割れ始めていた。


「ああ。まだ使って──」

 魔王がそう答えようとした瞬間、魔王の後方から「ドスン」と重量物が落ちたような音がする。

 天井からぶら下がっていた魔物が地面へと落下したようであった。


 瞬間、魔王の足元の地面に大きくひびが入る。

 それは薄い氷にひびが入るかのごとく広場全体への地面へと一瞬にして広がり、そして一気に崩れ去った。


 一瞬の間ののち、ユーマ達は地面とともに落下し始める。

「おおおおい、ユーマ! これはなんじゃ!!」

「お前のせいだろうが……」


 ユーマ達の落ちる先は暗闇で包まれており、その深さがどこまであるのかの検討もつかなかった。


「──仕方ないか」

 ユーマはそう呟くと、その瞳を光らせながら魔王を抱きかかえた。


「あと三十秒といったところか」

 ユーマは超音波を使って、暗闇の先の底までの距離を測った。

 そしてユーマ達が乗れるほどの大きさの地面の岩石を自身の元へと手繰り寄せ、その上へと片膝を付くように乗り込んだ。


「──あと五秒…………二……一……いまだ」

 ユーマはそう言うと、オーク達を倒した時のように剣を地面の岩石へと突き刺した。

 瞬間、けたたましい音とともに吹き飛ばされんほどの衝撃波が岩石から放出された。


 ユーマ達の乗る岩石はその衝撃波によって、まるで時が止まったかのように空中で停止した。

 直後、再び落下し始めるも、落下を感じないほどのうちに底へと到達してしまった。

 ユーマは穴の底と衝突するすれすれの位置で岩石を停止させたのであった。


 そしてユーマ達が地面へと到達した瞬間に壁のランプに明かりが灯った。


「おい、もう離れろ」

 魔王はあまりの出来事にユーマの腰に抱き着くような形でしがみついていた。


「──お、おおう。何を言っておる。お主に掴まってなどおらん」

 魔王はそう強がりと、すっと立ち上がり地面へと降り立った。

 だが魔王の脚はカタカタと震えており、その足取りも朧気であった。


 ユーマは辺りを見回した。

「どうやら広さはほとんど同じらしいな。──それとあの穴の先にさらに広い空間かあるようだな」

 ユーマは広場から続く、人が一人ギリギリ通れそうな横穴を指しそう言った。

「ふむ。ここを登るのは骨が折れそうだ。まずはそこの横穴に進んでみるかのう」


 そして横穴を抜けるとそこには先ほどまでの広場よりもさらに一回り大きい広場へと辿り着いた。


「──ここは?」

 そこは無機質なダンジョンとは明らかに異質で、壁には天使などの彫刻が数多く施されまるで高位の教会のようであった。

 その中でも特に異彩を放っていたのは、天井に掘られたグリフォンを象ったであろう彫刻だ。それは今にも動き出しそうなほどのリアリティで掘られたものであった。


 そして、その中央には祭壇のようなものが設けられ、その上には何かが祀られているようである。


(何か怪しいが……進むしかないか)

 ユーマがそう考えながら祭壇へと近付こうと一歩足を踏み出したその時、天井からピキピキと何かが割れるような音がする。

 直後、ボロボロと石の皮のようなものが落下を始め、そして彫刻であったはずのグリフォンがまるで生き物のように動き始めた。


「あれは……敵か??」

「ああ、そのようじゃのう」

「そうか」

 魔王の答えを聞くや否や、ユーマは腰に下げた剣を抜きグリフォン目掛けて駆け出す。その顔に憎悪を浮かべながら。


 そしてグリフォンはその羽を羽ばたかせながら地面へと着地する。

 間近で受ける羽ばたきによる風圧はかなりのもので、魔王はその身を一瞬怯ませた。


 しかし、ユーマはそんなものお構いなしにグリフォンへと突っ込む。


 グリフォンもユーマを敵と認識しているようだ。

 その目はしっかりとユーマを捉えていた。そして次の瞬間、グリフォンの口が大きく開き、そこから巨大な火炎が放出される。


 全てを焼く尽くさんとするほどの火炎が、一帯にこだまするほどのブレス音と共にユーマを襲った。

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