第十話 魔王の威厳
ユーマはダンジョンへ向かうため、森の中の街道を北へと向かっていた。
そしてユーマから少し遅れるようにして、魔王がユーマを走って追いかけている。
「──やっと追いついた。本当に置いていくとは薄情なやつじゃ……」
魔王は肩で息をするように、その肩を上下に動かしていた。
「先に行くと言っただろう。聞いていなかったのか?」
「──待ってくれと言ったであろう。ユーマこそ聞いていなかったのかのう?」
「ああ、聞いていなかった」
ユーマは魔王の言葉を切り捨てるように答える。
「ぐぬぬぬ……」
さすがの魔王もここまでバッサリと切られてしまっては、これ以上言い返すことができなかった。
──そうこうしているうちに、ユーマ達の進む街道は森を抜け平原へと入ったようだ。それに伴い、ユーマ達の視界が一気に開ける。
そしてその視界の先には、関所が街道を塞ぐようにして鎮座していた。
遠目からでもわかるほどの頑丈そうな石造りの建物は、関所というよりももはや砦と言っても過言ではないほどの大きさと重厚さであった。
しばし、遠くから関所を観察する二人。
関所の前には警備兵であろうか、立哨が二人ほど立っている。そして関所の上部には見張りの兵も何名か辺りを見渡しているようであった。
どうやら通行の際には荷物の確認や手配書との照合なども行われているようで、ユーマ達が関所を越えるのは困難であることは明白であった。
「やはりだめそうだな。仕方ない、ダンジョンへと向かうか」
「それしかないようだのう。──それで、ダンジョンとはどこにあるのじゃ?」
「まさかそんなことも知らないとは……」
魔王の無知さにユーマは頭を抱えた。
「そう言われてものう。知らんものは知らんのじゃ」
「誇れることではないが……まあいい。ダンジョンはこの街道から東へ進んだ丘にその入り口があると言われている」
「ほう、意外と普通の場所にあるのだのう」
「ああ。だがさっきも話した通り、ここ数百年は通り抜け出来たものがいないらしい。どうやら立地と難度が釣り合っていないようだな」
「──なるほどのう。つまりこのダンジョンを攻略することが出来れば魔王の威厳が保たれるわけじゃな……」
魔王は独り言のごとく、ボソボソと呟いた。
そして魔王は何かを思い付いたようで、ユーマに対し大見得を切ってみせた
「よし!! ではこのダンジョンの先導は我に任せよ。魔王の力で見事に攻略してみせよう!」
「ふん。好きにしろ」
──そうしてユーマ達はダンジョンの入り口へとたどり着いた。
丘の中腹に石組みで補強された坑道の入り口のような横穴が開いている。
「行くぞユーマ! 松明さえあれば我に怖いものはない!」
魔王は松明をその手に持ち、得意顔で進んでいく。
しかしユーマ達がダンジョンへと立ち入ると同時に、壁のランプに明かりが灯った。
「…………」
魔王はあまりのことに松明を投げ捨てた。その顔は泣きそうであり、拗ねたようでもあり、複雑な表情を浮かべていた。
「おい、これはわざわざお前のために買ったものだ。大事に扱え」
ユーマは魔王に追い討ちをかけるように拾った松明を手渡した。
「……うむ……」
仕組みこそわからないもののダンジョン全体の明かりを灯すほど手の込んだ仕掛けが施されているダンジョンだ。きっと他にも仕掛けがあると考えていいだろう。
(慎重に進んだほうがよさそうだな)
ユーマはそう考え、魔王に声をかけようとする。
しかし、その時魔王は再び歩みを進めようとしていた所であった。
「おい、ちょっとま──」
ユーマの言葉が魔王に届く前に、魔王はその一歩目を地面へと下ろし、しっかりと踏みしめた。
と同時に、地面へと下ろした足元の床が沈むように押下されていった。
瞬間、何かがハマるような音がする。
そして入り口には今までなかったはずの石山が下から迫り出すように現れ、入り口を塞いでしまったのであった。
「閉じ込められたようだな」
「ふむ。そのようだのう」
原因をつくった張本人がさも他人事であるかのようにユーマの言葉に返答した。
「……まあいい。これからは慎重に進めよ」
「ああ、任せておくが良い!」
魔王はそう言うと、自信ありありといった顔でズンズンと奥へと進んでいく。
その後は特に異変もなく進んでいくも、しばらく進んだ先で左右二方向への分岐路に行き当たった。
「どちらへ進むかのう」
魔王は手を顎に当てがいながら考えている様子だ。
「よし、決めたぞ。右へ行くぞ」
魔王はそう言うと、右へと進もうと足を踏み出した。──が、その足は再び床を押下してしまう。
床が沈みこむと同時に、魔王目掛けて両側の壁から剣山が勢いよく飛び出した。
そして剣山が魔王に直撃するかと思われた瞬間、剣山は赤褐色に変色し、ボロボロとその形が崩れていったのだった。
魔王はその瞳を赤く光らせながら、「ふん」と鼻先であしらい、その歩みを再び進めていった。
しばらく道成に進んでいくと、今度は真っ直ぐと左の二方向への分岐路に行き当たった。
魔王は今度は左を選ぶ。その先の道中では矢の射撃を受ける罠や、巨大な石が迫ってくる罠などがあったものの、なんとかこれを乗り越え、そして次は真っ直ぐと右方向の分岐路に行き当たった。
しかし、この分岐路にはどうにも既視感があるものであった。
「おい、魔王。この剣山は先ほどお前が破壊したものではないのか?」
「…………」
ユーマはボロボロに崩れた剣山を指し、魔王に問うた。
どうやら最初の分岐路に戻ってきてしまったようである。
しかし魔王は誤りを認めたくないのか、「次は真っ直ぐだ」とあたかも初めてのごとく呟き、二週目の道を進み始める。
そして次の分岐路でも「真っ直ぐだ」と呟き、その歩みをさらに進める。
ユーマは呆れながらも黙って魔王に追従していった。
その後も幾つもの分岐路と罠を乗り越え、今度は広場のような開けた場所へと辿り着いた。
そこは家が数軒納まるほどの広さで、広場の中央付近にはダンジョンに挑んだであろう冒険者達の骸骨が山のよう折り重なっており、先ほどまでとは明らかに空気が異なっていた。
ユーマ達は広場の中央まで進み、辺りを見回す。
「なんじゃこの骸骨の山は……ここで何が起きたのじゃ?」
瞬間、ユーマは何かを察知する。そしてその瞳を赤く光らせながら魔王に忠告した。
「──上だ。上に気を付けろ」
魔王はユーマの言葉を受け上を向く。
「ん? 上? ──何もないが?」
しかし、そこにはただただ暗闇が広がるだけで、魔王には何か危険があるようには見えなかった。
そして魔王がユーマの方へと視線を移した瞬間、不穏な影が魔王の背後に音もなく忍び寄った。
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