キャンプ 後編
テントに戻りしばらくボードゲームを遊んだあと、それぞれ寝袋に入ることにした。
「恋バナ! 恋バナ!」
「まなみそれ、何のことだかわかっていってるか?」
「失礼なっ⁉」
まだ遊ぶと騒いでいたまなみを寝かせるために、こういうときは布団に入って恋バナをするのが定番だと吹き込んでからこんな調子である。
いまさらこの三人で話しても……いや、二人は結構色々話が出てくるかも知れない……。毎日のように告白を受けてるわけだし。
「私達は特になにもないけれど、康貴のが気になるわね」
「わたしもわたしも!」
「いや、二人と違って何もないから……」
ほんとになにもない。驚くほどなにもない。中学から通してその手の話にずっと縁がなかった。
「ほんとにー? 康にぃ、わたしのクラスの子に連絡先聞かれてたでしょ」
「えっ」
愛沙がなぜか起き上がろうとして寝袋に引っかかってこけていた。なにしてんだ……。
「あれは応援団の連絡で必要だからだよ」
「えー……でもあれ、絶対それだけじゃない顔だったんだけどなぁ……」
本当そうなら二学期からの活動に少し期待しておくとしよう……と思ったがなぜか愛沙に睨まれてるので考えるのをやめよう。
「康貴、莉香子とも仲良いわよね?」
「莉香子ってこないだ腕くんでたお姉さん?」
「あれは別の人」
「康にぃ……」
いや、なんで責められてるんだ……。どっちもこう、誰にでもそういうことするだけだろう……。
「秋津は誰にでもそうだろ」
「んー……莉香子、誰にでも声はかけるけど、あんなくっつくのは康貴だけな気も……」
それはきっと愛沙の身内、くらいの認識だから気を許してるんだと思う。
「むー……康貴にぃ、やっぱり色々ある……」
「いやいや……」
これで色々だとしたら進展がなさすぎる……。
万が一俺が秋津に惚れたりしてもあいつのことだから察してそれとなく諦めるように促してきたりするはずだ。そんなことになったら割と立ち直れないと思う。
「二人こそ、毎日のように告白受けてるけど誰もいい相手いないのか?」
「んー、わたしは半分くらい女の子だしなぁ」
まぁまなみはそうか。スポーツで勝利の女神として活躍する様子は男女問わずかっこいいと思わせる魅力がある。普段の姿を知ってるとあんまりしっくりこないが。
「愛沙は?」
「私⁉」
「結構告白されてるだろ……」
「お姉ちゃんは興味ない人のことは覚えてないから、告白されててもあしらって覚えてないよー」
流石にそれは……。いや愛沙だしな……。
「そんなことないわよ! ちゃんとひとりひとりお断りしてるから」
「誰かいい相手いなかったのか?」
これだけ告白を受けて首を縦に振らないとなると愛沙の求める人物像が読めない。
最近一緒にいることも増えて嫌でも愛沙の魅力は伝わってきている。油断すればすぐにでもその気になってしまいそうなくらいには……。
ただちょっと、こういうところを見てるとハードルが高すぎるなぁ……。
「「はぁ……」」
「なんで……?」
ヒントになる相手でもいないかと思って聞いてみたが、二人の反応は白けたものだった。
「ま、康貴はしばらく大丈夫ね……」
「そうだね、お姉ちゃん」
「「はぁ……」」
俺にはわからない部分で理解しあった姉妹二人に改めてため息をつかれて、キャンプ一日目は幕を閉じた。
◇
キャンプは一泊二日。つまり今日が二日目にして最終日だ。
「今日はどこかいくんだっけ?」
起きたらもう愛沙はテントの外で朝食の準備までしてくれていた。作ってくれた朝食を食べながら聞く。
「んー、特に決めてないんじゃないの?」
未だ出てこない父親たちの眠るテントを見ながら答える愛沙。
母さんたちはとっくに起きて散歩に出たらしい。メッセージでしばらく戻らない旨が伝えられていた。
「ちゃんと眠れた?」
調理をしながらエプロン姿の愛沙が声をかけてくる。
「ああ」
愛沙たちを意識すると眠れないかと思ったが、俺も朝早くから起きていたのとクライミングやら何やらでいい感じに疲れていたので自分でもびっくりするくらいすんなり眠れた。まなみのことを笑えないなと思うくらいだ。
ちなみにまなみはあの後どうしてもと言って始めたボードゲーム中に案の定船を漕ぎ始めたので愛沙とふたりで寝袋に突っ込んだ。いまも幸せそうに眠っている。
「あ、メッセージだ」
愛沙に言われて携帯を見ると母さんから連絡が来ている。
内容を確認するより先にまなみがテントから飛び出してきた。
「おっふろー!」
「おふろ……?」
いや、それより――
「まなみ、服をちゃんと直してから出てきて」
「わわっ、押さないでお姉ちゃっあっ!」
ちらっと見えたまなみは多分、下はパンツだった。寝袋で脱いでそのままにしたんだろう。
「見た?」
「いや……」
「そう。ピンクだったのにね」
「え? 青じゃなかった? ……あ」
ジト目で愛沙に睨まれた。いやこれ、俺が悪いのか……?
「はぁ、まなみももう少し気をつけさせないとね……」
「それはよろしくおねがいします」
一段落して携帯を確認する。まなみの言葉の通り近くにあった風呂に行こうというものだった。
混浴じゃないから期待しないように、と書いてある。そりゃそうだろ……。
「じゃ、片付けて、お風呂いって、おしまいかぁ」
愛沙がつぶやく。
そう考えるとなんか、寂しくなるな……。
「まだ夏休みは始まったばっかだろ?」
「康貴がどこかに連れてってくれるのかしら」
首をかしげて微笑む愛沙にドキッとする。
「……どこ行きたい?」
「え? ほんとに……?」
多分、どうせ、この夏休みは愛沙とまなみと過ごす時間が増えることはなんとなく感じている。
だったらまぁ、今決めても一緒だろう。
「康貴にぃ! 私も!」
テントから飛び出してくるまなみに抱きつかれる。
「こら! まなみ」
「んー? お姉ちゃんもぎゅってする?」
背中に抱きついてぶら下がったまま声をかけるまなみ。まさか愛沙がそんなことをするはずはないだろう……。
「康貴が困ってるでしょ」
「えー。康にぃ、困ってる?」
「えーっと……」
答えにくい……。
「康貴……早くまなみに困ってるって言いなさい……」
愛沙はそう言うが楽しそうなまなみに言うのはためらわれた。
「言わないなら……私も抱きつくから……」
「それは……」
どんな脅しだ……。いやでも愛沙に抱きつかれるのは色々やばいと思う。
まなみですら最近少し身体つきが女っぽくなって意識させられそうになるというのに……。
「で、どうするのっ!」
愛沙がぐいっと近づいてきた。
「わかった。ほら、まなみ、やめろ」
「えー……もー」
しぶしぶ離れるまなみ。良かった……。これで愛沙も満足――
「そんなに嫌だったのね……」
なぜか少し拗ねた様子で口を尖らせていた。
どうすれば良かったんだ……。




