パーティー当日
パーティー当日。
私は動きやすさを重視したドレスに身を包み、華やかにセッティングされた会場に降り立った。
もちろん、隣にはブレイドがいる。
「姫様、とても美しいです。今宵の貴方はまるで女神のようだ。どうかエスコートをする権利を私にくださいませんか?」
そういって手を差し出す彼も正装に身を包んでおり、亜麻色の髪を軽く結んでいた。
わずかに見える首筋からは、色気が醸し出されていた。
普段の凛々しい恰好には慣れているが、フォーマルな服装は新鮮で、思わずときめいてしまいそうだ。
「あ、ありがとう。ブレイドも素敵よ」
「本当ですか? そう言ってもらえるなら頑張った甲斐がありました。やはり好きな人には格好いいと思ってもらいたいですから」
「っ」
ストレートに好きだとか言われると、やはり意識してしまう。
顔の熱を止める術は、私にはなかった。
「も、もう! 早く行きましょ!」
「ふふ、ええ」
クスクスと笑い声を上げるブレイドの手を取り、会場へと足を踏み入れた。
途端に会場中の視線が集まる。
主役の登場と言わんばかりに、わっと人が押し寄せてきた。
「英雄様~!」
「騎士様!」
「ブレイド様!」
あちらこちらからそんな声が聞こえてくる。
このパーティーは一応、ドラゴンに立ち向かった者をねぎらうという名目で開かれたものだ。
けれど大抵の参加者の興味は御覧の通り、私ではなくブレイドへと注がれていた。
あっという間に囲まれたブレイドは、老若男女問わず、ひっきりなしに声を掛けられている。
(国を救った英雄だもの。無理もないわ)
ブレイドは建国以来、ずっと悩まされていたドラゴンを葬り去った騎士だ。
そりゃあ機会があれば話してみたいだろう。
邪魔をしては悪い。
そう思い、そっとその場を離れ、壁際に寄る。
(しばらくは忙しそうね)
ここからだと、ブレイドの周りに集まっている人達がよく見える。
侯爵をはじめ、地位の高い貴族。
安堵の笑みを浮かべる貴婦人。
美しいドレスに身を包んだ可憐な令嬢たち――。
……圧倒的にご令嬢の数が多いのは気のせいだろうか。
いや、きっと気のせいではない。
(お近づきになりたい人が多いのね)
英雄とお近づきに慣れれば将来安泰。
それだけでも十分なのに、甘いマスクで態度も柔らかいときた。
そんな憂慮物件、未婚のご令嬢が狙わらないわけがない。
自分が無理に婚約を結んだりしなければ、今ごろきっと良家の婿になっていただろう。
(というか……ああいう可憐なご令嬢と並ぶととっても絵になるのね……)
今ブレイドと話をしているご令嬢はおしとやかに笑い、洗練された淑女然とした振る舞いをしていた。
純然たる紳士淑女という感じでお似合いだ。
隣にいるのが私だったら、そうは思われないだろう。
ズキリ。
胸が痛んだけれど、気が付かないふりをする。
近くを通ったウェイターから飲み物を貰い、その痛みごと飲み込んだ。
「一国の姫がなに壁の花をしてるんだ?」
「兄様と……オルター様?」
無遠慮に掛けられた声に振り返ると、兄様と兄様の幼なじみのオルター・シュバール侯爵子息が手を振っていた。
「お久しぶりです姫様」
「こんばんはオルター様。お久しぶりです」
「調子はもう大丈夫なのかな? またずいぶんと無茶をしたと聞いたけど」
「ええ、おかげさまで。もう大丈夫ですわ」
慣れないながらもカーテシーをうつと、柔らかくほほえまれる。
その笑みに、私の背後にいたご令嬢がうっとりと目を蕩けさせた。
(わかる。わかるわ。オルター様も格好いいものね)
深い緑の柔らかそうな髪と、海を映した穏やかな青い瞳。
傍にいるだけで癒し効果がありそうなお声。
ブレイドがきりっとした顔つきなのに対し、オルター様は王子様のような甘い雰囲気を持っている。
「そっか。それならよかった。ところでさ、こんなところで何をしていたの?」
オルター様は兄様と同じ疑問を口にした。
「それは……」
ちらりとブレイドの方へ視線を向けると、オルター様は何かを察したように顎をさすった。
「なるほどね。ブレイドのことか。流石に囲まれているね。……そう言えば聞いたよ。ブレイドのためを思って婚約破棄したんだって? 今その話題でもちきりなんだよ」
「……ええ、まあ」
どうやら私とブレイドの話は、既に国中に広がっているらしい。
再びブレイドの方に耳を傾けると、ちょうどその話題になっているみたいで……
「婚約破棄したのなら、私が立候補してもいいですか~?」
そんな言葉が聞こえてきた。
誰が言ったのかは分からない。
けれど可愛らしいソプラノの声だった。
きっと麗しいご令嬢なのだろう。
「……」
なんだか胸がモヤモヤする。
今すぐこの場から逃げ出したい。
「……兄様、オルター様、私少し外の空気を吸ってきますね」
「え? あ、おい。ララフィーネ!?」
兄様の驚いたような声が聞こえたけれど、足を止めることはなかった。
私はブレイドを囲むいくつもの声から逃げるように、その場を後にしたのだった。




