過保護すぎない?
「はい、姫様。あーん」
「……ええと」
目の前でフォークを差し出してくる人物に、私はジトリとした視線を送ってしまった。
(……いったい誰なんだ、この人)
そう思ってしまうほど、今のブレイドは今までと違っていた。
姿は間違いなくブレイドなのだ。
けれど信じられないくらい甘い笑みを浮かべているし、なにより距離が近い。近すぎる。
今もあーんしながら、食べやすいようにと背中を支えられる始末。
(いや、本当に誰!?)
いきなり距離をつめないでほしい。
なんというか、こう……順序というか、とにかく段階を踏んでほしい。
じゃないと耐えられない。
今も心臓が爆発してしまいそうなのだ。
「……ブ、ブレイド? もう何度も言っているけれど、そんなにつきっきりでお世話してくれなくていいのよ? 食事くらい自分でできるわ」
「いえ、お怪我をされた姫様を動かすわけには行きませんから。……それとも、もしかしてお嫌でした?」
「……嫌ではないけれど」
そう、嫌ではない。
嫌ではないから困っているのだ。
けれどそんな思いに気が付かず、ブレイドは太陽のように輝く笑みを浮かべた。
「そうですか! でしたらやらせてもらいます!」
「……そう」
そう言い切られてしまっては、もう何も言えない。
(はあ。どうしてこんなに過保護になったのかしら……)
ドラゴンとの対峙から二週間が経った。
奇跡的に生還した私だったが、無傷とは言えず、背骨を痛めて二週間ずっとベッドの上にいた。
(でも折れてもないから、こんなにべったりとついていなくても大丈夫なのに)
ブレイドは毎日私の部屋に入りびたっては、身の回りのお世話をしてくる。
食事はこうして食べさせてくるし、歩こうとすれば先回りしてお姫様抱っこをされる。
極めつけはお風呂の後のスキンケアまで完璧にこなしてしまうのだ。
(……いや、さすがにやりすぎでは? ていうかなんで知ってるの!?)
おかしい。スキンケアとか、侍女にしかやってもらったことはないはずなのに。
そもそも一応こう見えて姫だし、お風呂の後に殿方と会うなんてはしたないことはしていなかった。
それなのに侍女たちはなぜか温かく見守ってくるだけで異論すら唱えない。
おかしい。本当におかしい。
この状況に軽い恐怖を覚えるのは私だけなのだろうか?
「というかブレイド。忙しいのではないの? ほら、剣聖として発表されたわけだし、こんなところにずっといる暇はない気がするんだけど」
つい先週、遠征から帰ってきたがお父様が、公の場で我が国に史上三人目の剣聖が誕生したと発表した。
それもドラゴンを完全消滅させるほどの実力者だと。
だから今や国中が祝福ムードになっている。
きっとお披露目のパーティーとか、なんかそういうものが開かれているはずだ。
「ああ、ありますよ。でも全部お断りさせてもらってます」
「はあ!? え、大丈夫なの?」
「はい。それに今何より優先すべきは姫様とのお時間ですので」
ニコリと笑ったブレイドは、耳元に口を近づけた。
「またフラれるのはごめんですから」
「う……。それはごめんなさい」
しゅんと項垂れれば、クスクスと笑い声があげられる。
彼は最近、ときおりこうして過去の私の揚げ足を取ってくるようになった。
(どうしてフッたのかの本当の理由を知っている様子だったけれど……)
それでも捨てられたことを根に持っているらしい。
こればかりは間違えたという自覚があるため謝るしかない。
「いえいえ。謝られる必要はありませんよ。ただお世話することを許していただければ」
「……はい」
ちゃっかりと傍にいる口実を作られてしまえば、もう何も言えなくなってしまった。
どうやらしばらくはこの状態を受け入れるしかないらしい。
◇
そんなこんなで食事を済ませると、ちょうどよいタイミングで兄様が顔をのぞかせた。
「調子はどうだ、ララフィーネ。様子を見にきたぞ」
兄様はベッド横まで来ると、しげしげと私の顔を眺めた。
「うんうん。だいぶ顔色もよくなったな! 兄様嬉しいぞ!」
「心配していただきありがとうございます。おかげさまでだいぶよくなりました。……といってもまだ鍛錬はできませんが」
「当たり前だろ。ララフィーネはやりかねないから怖いな。ブレイド、ちゃんと見張っていてくれよ?」
「もちろん。お任せください」
兄様達は親指を上げ、頷き合った。
私よりもブレイドの方が信頼されているみたいで、少し複雑だ。
「それよりも兄様。何かご用があったんじゃないですか?」
思わずムッとしながら言うと、兄様はそうだったというようにこちらへ向き直った。
「父上がお前のことを気にしていてな。執務室に来られないかってさ」
「お父様が? なんでしょう」
お父様には既に労ってもらった。
王女として、騎士団長として、義務をしっかりと勤め上げたと褒めてくれたのだ。
だから満足し、療養に専念していたのだが、呼び出しを受けるようなことをしてしまったのかもしれない。
「分かりました。今から向かいますわ」
私は一抹の不安を抱え、部屋を後にした。
◇
「おお、ララフィーネ! よく来た……が、いったいどういう状況だ?」
お父様の執務室へ行くと、途端に戸惑った声が掛けられた。
無理もない。
だって私は今、ブレイドに姫抱きにされているのだから。
「こんな態勢で申し訳ありません。大丈夫だといっているのですが……」
「背中を痛めているのに動こうとされるので、こうして抑えているのです」
「なるほど……?」
何か言いたげな視線を感じるけれど、こうなったのは私のせいではない。
私はちゃんと歩いていくと言った。
けれどブレイドも兄様も許してくれず、結果こういう形となってしまった。
だからこちらを見られても仕方ないのだ。
「……まあいい。お主を呼んだのは他でもない。聞きたいことがあったからなのだが……。部外者がいては話しづらいかもしれんな。ということでブレイド、お主は外に出ておれ」
「え? しかし……」
「よいな?」
「……はい」
お父様の圧に負けたブレイドは、なんだか哀愁の漂う姿で出ていった。
完全にドアが閉まったのを確認したお父様は、まるで内緒の話をするかのようにズイっと近づいてきた。
「ララちゃん。お兄ちゃんに聞いたよ。ブレイドとの婚約を破棄したんだって?」
「……ええ、まあ」
「なんで!? あんなにもうアタックしてたのに~!」
お父様は厳つい老将のような見た目とは裏腹に、恋バナで盛り上がる乙女のように口元を覆った。
「理由はいろいろとあったのですが……。というかお父様。そのしゃべり方、やめてもらっていいですか?」
「ええ、なんで~?」
「集中できないんですよ!」
野太いきゃあきゃあが聞こえてくるのだ、気が散って仕方がないに決まっているだろう。
「でもな~、このしゃべり方じゃないと泣き虫ララちゃんはパパの顔を見るだけで泣いちゃったからさ~。もう染みついちゃってるんだよね~」
「いつの話をしているのですか!! 私はもう19歳の立派なレディで、誇り高き騎士団長なのですよ!」
「でもね~、儂にとってはいつまでも可愛い子供だし~。ママの分まで可愛がるって決めているし~」
「そうはいっても、うっかり人前でその話し方が出たらどうするんです? 国王陛下の威厳もへったくれもありませんよ!」
「え~? ダメ?」
「ダメです」
「即答!?」
こんな会話誰かに聞かれでもしたら一大事だ。
それに、小さいころこの話し方じゃないと泣いちゃって~』とか部下の前で言われたら、恥ずかしくて腹を切る自信がある。
嫌だ。絶対に。
だからそんなことにならないよう、今しっかりと釘を刺しておかなければ。
「とにかくおやめください。いいですね?」
強くにらみつけると、仕方がなさそうに頷かれる。
「分かった分かった。こっちの話し方に戻す。だから理由を教えてくれるか」
「……理由、ですか」
ようやくいつも通りの話し方に戻ったお父様にほっとしつつ、別れた理由を思い浮かべる。
どうしてブレイドを置いていったのか……。
「……死ぬかもしれない場所に、ブレイドを連れていきたくなかったのです」
「それはクロイツから聞いた。愛しておるからこそ守りたかったと。……まあその気持ちは儂も分かるがな。だがその後が解せぬ。二人とも生き残り誤解は解けたはず。それなのになぜ今も婚約を破棄したままなのだ?」
「それは……」
思わず言葉に詰まってしまった。
確かにお父様の言う通り、好き同士と分かったのだから婚約をし直せばいいとは思う。
(けれど……)
言うべきか迷っていると、大きな手が頭に置かれた。
見上げると優しい父親の顔をしたお父様がいる。
「大丈夫だ、言ってみなさい」
「お父様……」
優しい手つきで撫でられていると、騎士として強くあれと作り上げてきた仮面が緩む。
ただの親子になってしまうのだ。
私は気が付くと口を開いていた。
「……ブレイドは英雄になりました。でも私は精霊の加護を受けておきながら、そして騎士団長でありながら、ドラゴンを足止めすることができなかった。実力不足を、格の違いを思い知らされたんです」
あのときブレイドが来てくれなければ、きっと飲み込まれて死んでいた。
それだけで済めばいいけれど、もしかしたら守るべき国民にも犠牲を出していたかもしれない。
「だからそんな私が彼の傍にいていいのか、分からなくなってしまった」
私は与えられた役目を何一つまっとうできていない。
そんな中途半端な自分に、英雄の傍に立つ資格はないのではないか。
彼にはもっと相応しい相手がいるのではないか。
「そう思うと婚約を結び直したいとも言えなくて」
ブレイドは傍にいたいと言ってくれるが、私には自信がない。
迷いで決断ができなくなっていた。
「なるほどな」
素直な気持ちを告白すると、お父様は考えるように腕を組み、ニカリと笑った。
「ならば国中の貴族を集めたパーティーを開こうではないか!」
「はい?」
「パーティーだよ、パーティー! 落ち込んだ時はぱーっとやるのが一番! 迷いなんて吹き飛ぶものだ。ということで盛大にやろう!」
「え、ええ……?」
お父様はやると決めたらすぐにやる人だ。
私はポカンと呆けたまま、準備が進んでいくのを見ているしかできなかった。
面白いお父さんが好きです(できればオネエ系だとなお良し)。
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