第98話 スカウト
『ええええッッ!?』
ポカーン、と口を開けるまどかさんに続けて、背後から驚きの声が続いた。
……フツーに聞き耳立ててたなコイツら。
その中でも、やはり真っ先に声を上げたのはシキータであった。
「おいおい兄ちゃん。ここはいつから兄ちゃんのハーレムハウスになったんだ?」
「一瞬たりともないんだけど?」
「……え、違うの?」
違いますって……
ここはフツーの配信者事務所ですってば。
意外そうな顔をするまどかさんへ俺が訂正の言葉を返すよりも先に、続いてもまた予想通りな人物が声を上げてきた。
クローリスだ。
眼鏡をクイッとしながら彼女は理知的な顔つきで俺たちを見る。
「本気ですか、イスナ――諏成さん?」
……口実じゃなくてちゃんと周回してたんだな。
コホンと言い間違いを誤魔化すように空咳を挟んでからクローリスは続けた。
「私たちの現状は諏成さんもご存知のはず。諏成さんのおかげで状況は少しずつ好転してはいますが、厳しい状況は変わりありません。私たちにはお情けで人を雇う余裕なんて――」
「言っとくが、お情けで提案した訳じゃないぞ」
まるで鉄仮面の如きクローリスの言葉は事実だ。
俺たちには情けで人を雇う余裕があるほど、ウチの懐事情は芳しくない。
言われずともそれは分かっている。
ただのお情けであれば、俺だけでどうにかできる策を考えていたさ。
「ラッカリカたちの配信人気は上昇中。それが具体的な利益に繋がっていくのはもう少し先のことだろうが、それに伴って事務的なモノはもっと増えていくはずだ。」
「うぐっ……」
図星を突かれてクローリスの鉄仮面に亀裂が入った。
……やっぱりな。
色々とトラブルがありながらも着実に成長を続けている配信者たちとは裏腹に、事務処理関係は未だクローリスがほぼ一人で回している状況だ。
もちろん俺もプロデューサーとして手伝ったりはしているが、それでも現状維持が精一杯である。
そもそも、俺だってインフラ整備士時代にまどかさんの仕事を手伝っていたから少しは慣れているが、根本的に書類仕事は苦手な方だし……
まあ俺の処理能力は今後がんばる方向でいくとして、クローリスはそんな現状をほぼ休みもなしに大半を一人で回している。
……たぶん、ここじゃなかったら労基に駆け込まれるような状態だろうな。
だからこそ、ガタが来る前に改善する必要があるはずだ。
「先行投資って奴だよ。それに、いざ手が足りなくなってから求人を探すよりも、よっぽど低コストで人手の確保ができるはずだ。まどかさんは時折……たまに……ちょくちょくポカをする人だけど」
「入浪くん!?」
「それでもいい人だってのは俺が保証するよ」
「…………」
そう言う俺の言葉に、クローリスは横持ちのまま捜査していた(話してる間も周回してたな?)スマホを縦に持ち直して思案を始めた。
「月給、手続き、保険もろもろ……不足分は諏成さんのをギリギリまで……最悪の場合は私の……しかし来月にはイスナロ様のピックアップが……」
「え、おい待って。そこまで切り詰めなくちゃマズいのか?」
「い、入浪くん……? 誘ってくれたのはとっても嬉しいんだけど、入浪くんに迷惑がかかっちゃうなら……」
「……いや、気にしないでいい。人手が欲しいのは事実だから」
おどおどするまどかさんに言いながら、俺は視線を動かす。
クローリスと同様に思案をしていたラッカリカへ。
「社長どのはどうお考えだ?」
ラッカリカはすぐに答えない。
俺の後ろで「え、この子が社長なの?」とまどかさんが驚いている中、熟考を重ねたラッカリカが意を決したように口を開いた。
「……クローリスの懸念も、イロウさんの言っていることも、分かります。お金も人手も大切なのは当然ですし、クローリスが無理しすぎているのも心配です」
なので、こういうのはどうでしょう。
言って、ラッカリカは提案した。
「ひとまず、面接というモノをしてみるのは?」




