第91話 守りきれたもの
「ですがイロウどの。私は――ッ!」
「それに、今だってラッカリカを守ってるんだろう?」
食い下がるようにしてまで己を卑下しようとするシキータ。
そんな彼女へ俺はさらに続ける。
「ラッカリカが見つけてきた俺をいの一番で真っ先に出迎えたのは俺を警戒していたからなんだろう? 最初に俺を連れて配信したのもお前だ。その時には明確に警告されたりもしたしな。レスピタルであったテロ事件だって、アイツの意思を尊重しながらも常にラッカリカの身を案じていたはずだ」
今も己の役割を全うしている者に何も果たせなったとは言わせない。
――たとえシキータが自分の頑張りを認められなかったとしても。
それを冷静に見極め、認めるのはプロデューサーの仕事だ。
動揺するように視線を泳がせるシキータの肩を掴み、俺はたたみ掛ける。
「それに――今のお前はもう一人じゃないんだ」
「……――」
「ドロリーはもちろん、アナにトリント、クローリスだっているんだ。それに何より、ラッカリカはもうただ守られるだけのお姫さまじゃないだろ?」
ハッとして俺を見てくるシキータ。
それに俺は力強く頷いて告げた。
「だから……お前はよくやったんだよ。シキータ」
まっすぐにシキータを見据えて。
俺は心から言い切った。
「よく頑張ったな。シキータ」
わずかな静寂。
その瞬間にもシキータはくしゃりと破顔して、彼女の中にある何かが決壊したかのように瞳を潤ませてから――再び俺の胸に顔をうずめた。
ぎゅーっと柔らかい俺の胸のふくらみに顔を押し付けたと思えば、ぐずるような声が聞こえてきた。
……まったく。
俺はポンポンとシキータの頭を優しく撫でた。
「強いて言うなら、もう少し酒癖を直してほしいってくらいだな」
「……それ、今言いますか」
痛い痛い……
腹いせに俺の頬を引っ張らないでくれ……
◇――――――◆
それからほどなくして、俺とシキータは駆けつけたインフラ整備士の協力で無事に救助された。
……面識のないインフラ整備士でよかった。
……TS薬で女になった今の俺じゃ、知り合いでも普通に気付かれなかっただろうけど。
とにもかくにも、俺はボロボロだしシキータも足を痛めている。
これ以上の配信はできないと判断され、俺たちはそのままインフラ整備士の先導でダンジョンの入口まで戻ることになった。
「――二人とも、大丈夫?」
「ああ、なんとか……」
「かたじけない……」
戦火の地平ではいつモンスターの襲撃があるか分からなかったので、俺とシキータの治療はここ入口に戻ってからやることにした。
トリントは「あくまで応急処置」と言っていたが、ドロリーの回復魔法と合わせてもう傷も痛みもなくなっていた。
さすが異世界のお医者さんだ。
迅速な処置はとても助かる。
「……大変だった。トリントが錯乱して穴じゃなくて家の中に飛びもが」
「はぁいドロリーちゃぁん? それ黙っててって言ったわよねぇ?」
血相を変えてドロリーの口を塞ぐトリント。
……どうやら、よほど心配させてしまったようだ。
『勘違いしないでねイロウくん? べ、別に心配のあまり慌てふためいて逆に危険な家の中に飛び込もうとしてドロリーに止めれたりしたわけじゃないのよ?』
『俺たちの二の舞にならなくてよかったよホント……』
……何はともあれ。
アクシデントもあった以上、今日の配信はここまでだ。
後は締めの挨拶をして、さっさとダンジョンを出――
『穴の中ではおたのしみでしたね?』
う……
来るとは思ってたが、とうとうコメントから追及がきたよ……
『ミュートしてたけど何か話してたよね?』『こいつら語り合ったんだ!!』『エッチな内緒話?』『というか抱き合ってた!』
「……プライベートの話なのでノーコメントです」
俺が言うと『えー!?』と大量の文句がカメラゴーレムから飛び出してきた。
……配信って音声ミュートはできるんだけど、今回みたいなケースの対策なんて観点から配信中にカメラ映像はオフにできないんだよな。
分かっていたことだが、穴の中でシキータと密着したまま語らった場面はリスナーたちにバッチリ目撃されていたようだ。
……アレ。
ひょっとして俺……かなりヤバいことしてた?
『絶許』『こーれは大罪ですわ』『でも今は女の子だぞ』『ところがギッチョン!』『コイツはァ付いてるぜぇ!』『もうちょん切っちまえ』『永続効果のTS薬ってないっけ?』『リ美肉しろリ美肉!』『女の子になっちゃえよカワイイんだから!!』
リアルで美少女の肉体になるのだけは勘弁してください……!
いやちょん切られるの勘弁だけど!
やいのやいのぎゃーぎゃーと、無事を安堵するコメントと俺を吊るし上げにしようと目論むコメントが大量に流れる中で、俺は逃げるようにダンジョンの外へ――
『ハイ待ちなさーい』
出ようとした所で、トリントに首根っこを掴まれた。
『……なんだよトリント。トラブルもあったんだし、配信はもう』
『ダーメ。まだ結果発表が残ってるでしょ』
はあ?
結果って何の……?
『今回の配信はコラボ対決でしょ?』
『……あ』
思わず間抜けな声が漏れた。
シキータとドロリーの不仲を解決できる糸口が見えたことに満足して、本来の目的であるコラボ対決の事をすっかりと忘れていた……
そんな俺をスルーしてトリントが手を叩きながらカメラゴーレムの前に出る。
「はーい! 色々危ないトラブルもあったけど無事に生還できたってことで、サクッと決着をつけて今回の配信を終えようと思いまーす!」
なんて締めの言葉を告げて、トリントは俺の方を見てきた。
「じゃ、結果発表おねがいしま―す」
「……え?」
俺が発表するの……?
『当たり前でしょ。守ってもらったお姫さまはイロウくんだし』
……そういえばそんな設定でしたね。
可能な限り意識しないようにしていたからすっかり忘れていた。




